表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/218

この世界での、決意を2

 何はともあれ、最終的には誰も死んだりせず、村が滅茶苦茶になることも無く、すべてが良い結果に収まったわけだ。

 唯一死んでしまっているのは、あの夢の中の勇者だけ……そしてこれが、今一番俺の頭を占めている事でもある。


 あの日、俺たちを助けてくれた金髪の青年を思い出す。

 あの時俺は、あの人に初めて会った。

 この世界に来てから、あんな目立つ髪をした人を見たのは初めてだ。

 それにかなり若いというか、まだ完全にガタイもできてないくらいの歳だった。髪の色を抜きにしても、間違いなく会うのは初めてだったと思う。

 なのに、あの時俺は、間違いなくこの人を知っていると感じた。

 この既視感は……おそらくこの世界に来てから、ずっと見続けてきたあの夢の勇者その人に間違いないと確信している。なぜかは分からないが、そう自然と納得できるんだ。

 しかしそうなると、気になるのはその違いだ。

 夢の勇者と、あの時の青年は、ガタイがそこそこ違っていた。おそらくだけど、10歳前後は歳が違うように見えた。

 加えてなぜか変わった風景と、あのストスさんの印が入った武器のこともある。

 すると、何が導き出さるのか?


 あの夢は、この世界の未来を現している。


 正直そうとしか思えない。

 身体の成長なんて人それぞれだし、具体的に何年後を示しているのかは分からない。

 ただ、もし本当にいつも見ている夢が、この世界の未来だとするなら、その内容が変わったのはなぜだろうか。

 当然、未来の変わる何かが起きたからということになるだろう。

 一番可能性が高そうなのは、ストスさんが今生きていることだ。

 俺が無理やりマリーたちを巻き込み、魔物撃退の作戦を実行していなかったら、村は壊滅し、その後たいして離れていない距離にいたストスさんも、同じように魔物に襲われていたかもしれない。そうなっていれば、何の準備もしていなかったストスさんは無事で済まなかったかもしれない。いつも鍛冶場に籠っているから、空に浮かぶ砦からの合図に、気が付かない可能性が高いからだ。

 それが、異世界から来た俺という存在が関与したことで、変わったのだとしたらどうだろう。

 ここまでの考えは、全部仮定の話だ。

 でも仮に、すべてこの通りだとしたら、俺がこの世界に来た意味が、ようやく見えてきた。

 今回の様に、この世界で何かをすることで、未来を変えるんだ。


 では何をするべきなのかだけど、この前みたいに強敵と戦って誰かを救う……とかではないと、思う。

 確かに今回は、俺のしたことでストスさんが結果的に助かり、未来が変わったのかもしれない。でも魔物をどうにかできたのは、まぎれもなく偶然だ。

 倒したのだって、勇者であって俺じゃない。

 だいいち、それらしいかっこいい能力なんて何一つ授かっていない。そんなのはおかしいと思う。

 単に俺が、びびっているだけかもしれないけど、それが俺の居る意味だとは考えにくい。

 この世界に呼ばれたのが、俺である意味があるはずだ。

 そこでもう一つの夢の変化。人が増え、それが勇者と光でつながった点だ。

 そして勇者は、それを受け力を得ていた。さらにここまでの要素、やつれた身体の勇者、元々はよりボロボロだった町並みが思い浮かぶ。

 これらを合わせると、一つの結論が見えてくる。

 もしかしたらこの世界は、このまま放っておくと近い未来、衰退が進み、餓死者も増え、とても戦い続けられる状態ではなくなってしまうのではないだろうか。

 勇者という魔族に対抗する力があるにも関わらず、資源が追いつかなくなっていくのではないだろうか。

 すごい力があっても、所詮は人、生き物だ。食べなきゃ生きていけないし、癒しだって必要だろう。物を作り、それを流通させ、住民たちの手元へ届けないといけない。

 そして、それらを維持するのは、俺みたいな、力を持たないたくさんの人間だ。俺たちがするべき仕事なんだ。

 あの夢を初めて見た時聞こえた、妙に印象に残っている言葉がある。

 “     サイゴノヒトカケラ”

 ずっと何を指しているのか、わからないままで居た。

 この言葉が指す、最後の一欠片が、俺のことを示しているとしたら……!

 “貴方は 最後の一欠片”

 ゆっくり考えて、答えが見えてきたかもしれない……。


 ここまで物思いに耽ったところで、ふと下から声がかかる。

「お兄さん、またそんな所に登って! 本当に子供ですか!」

 自分が木の上で座り込んでいたことを思い出す。

 もう日が傾いてきていた。

 ずいぶんと考え込んでいたみたいだ。

「ごめんごめん、すぐ行くよ」

 そう声をかけ、俺は適当に枝を掴んでそこそこの高さから跳び下りる。

「確かにもう絶対安静は解けてますけど、ふらっといなくならないでくださいよ……」

「ちょっと考えたいことがあってね」

「考え事をするのに、わざわざ村から、ここまで来たんですか?」

「まあ、散歩がてらね」

 俺は首を巡らせ、今は瓦礫の山になったマリーの家を見つめる。

 こんな状態では、当然今までと、同じように暮らしてはいけない。あの時は仕方が無かったとはいえ、いざ本当に助かって、その後のことを考えてみると、住む場所が無いのはかなりの痛手だ。今は何も言わず、宿に留めて貰えているけど、それも限度があるだろう。

 だからマリーには、ここのところどうしても、顔を合わせ辛いのだ。

「そういえばお兄さん、今後の話なのですが……」

「え……う、うん」

「砦町の方に、引っ越すことになりましたので、よろしくお願いしますね」

「うん……え? そ、それどういうことなの?」

「実はもともと、そういう話があったんですよ。お父さんの腕を見込んで、前線である砦町の方で、工場を構えて貰えないかって。今までは断っていたんですけど、今回の件で、お父さんも心境の変化があったのでしょう。そのお誘いを受けることにしたそうです。砦町に行けば、住む場所と、鍛冶場を借り受けることができるそうです」

「そうなんだ……それは良かったよ。正直気にしてたから、一つ肩の荷が下りた」

「はいー?」

 マリーは、もう見慣れたジト目になって俺の方を見つめてくる。

「お兄さん、まーた一人抱え込んでるんですか? 今回はあれですか、住む場所が無くなったのは、自分のせいーとか感傷に浸っていたわけですか。大体お兄さんは……はあ、まあいいです。とにかくそういうわけなんで、村に戻りましょう。今日は準備をして、早ければ明日には、砦町に向かいますよ」

「え、そっか……ずいぶん急だね」

 俺はマリーの背中を追いながら、先ほど考えていたことを思い出す。そして、決意を胸に口を開いた。

「マリー、俺決めたよ」

「何をです?」

「俺、ずっと考えていたんだ。何のためにこの世界に来たんだろうって。その答えが出た。俺はこの世界に住んでいる、すべての人間を今より豊かにして見せる」

「……はい?」

「この世界のみんなが、もっとおなか一杯ご飯を食べれて、遊んで、元気に暮らせるようにするって事だよ!」

「いや、意味はわかりますが……また唐突に、突拍子もないことを……。何か考えがあって言ってるんですか?」

「もちろん」

「もちろんって……王様にでもなるおつもりで?」

「いやいや、まさか。俺には王様になって、国をどうこうできる能力は無いよ」

「なら、この世界の皆の生活を良くするなんて、どうやってするんですか」

「商売さ。俺にできるのは、やっぱりそれだよ」

「……冗談ですか? 商売で世界全体を良くするとか、何を言ってるんです?」

「マリーには、俺が元の世界で店長をやってたって、確か言ってあったよね?」

「ええ、聞きましたね。それで、お兄さんの話を聞いてみることにしたわけですし」

「でもどんな店の店長をしていたか、まだ教えていなかった。俺はね、大手のチェーンストアで、店長をやっていたんだ」

「チェーンストア……というのは何ですか? 普通の店と違うんですか?」

「基本的には変わらないんだ。商品を売って、儲けを出して、それで生きていく商売だよ。でもチェーンストアには、個人店には無いもう一つの役割と言うか、目的みたいなものがあるんだ」

「チェーンストアっていうのはね、簡単に言うと、同じ形態の店舗を100以上の単位で展開して、そのすべてで同じ水準のサービスを提供するお店のことかな」

「ひゃ、百……?も同じような店を、展開……ちょっと意味が分かりません」

「まあ、すぐにはピンと来ないよね」

 本気で悩んだ様子のマリーに、俺は苦笑いを返す。

 そもそもチェーンストアの意義なんて、元の世界でも正しく理解している人はほぼ居ない。

 この村から出たことが無いマリーに、至る所に同系列の店を、といっても理解しづらいのは仕方がない。追々ゆっくり、理解してくれればいい。

「まあ、仮で考えてみてよ。例えば、今みんなはそれぞれでお店をやって、それぞれで利益を出しているでしょう?」

「そうですね」

「まずは、それを一つにまとめるんだ。簡単に言うと、何でも屋かな。商品には、売れる時期が限られるものがあったりする。日々売れる安い商品があって、たまに売れる高級な商品がある。売れ方のブレが大きくて、時折お金が足りなくなるから、それによって値段が上下したりする。騎竜便での仕入れも、上がったりしてたでしょ。だからまず、店を合体させる。経理を一つにまとめて、何かが売れない時、他の何かを売ることで、常に利益を確保できるようにする。そして少しずつ、お金の余裕を作っていく。全体のどこかで安定して売上が出せれば、もう売れないことにビクビクする必要が無くなるんだ。そういう店を、この世界に200は造りたい」

「言っていることは……分からなくも、ないですけど……。そういう店をたくさん造ると、なんで生活が良くなるんですか?」

「うん。まず店が増えると、生まれる余裕の量も増える。そしてさらに、どこかで店ごと売上が足りなくなってしまった時に、他の店の売上でそれを打ち消せるようになる。日々の生活で必要なお金が、足りないなんてことになり辛くなっていく。すると、お金にどんどん余裕ができていく。そうしたら、もうこっちのものさ。商品を売る値段を安くして、今まで必要な物でも、買うに買えなかった人に商品を行き渡らせることができる。もっと余裕ができたら、整備の足りてない道を直したり、何かの施設を造ったり」

「ちょ、ちょ、ちょっと色々待って下さい! 安く物を売れるように……とかは百歩譲って良いです。正直なんの夢理論かと思いますが良いです。でも、道を直すとかは意味が分かりません! そんなのは単なる商売人がやることじゃありませんよ。国がすることじゃないですか!」

「確かに、基本はそうだよ。でもチェーンストアっていうのは、きちんと機能すれば、それができるシステムなんだ。100単位規模の数の売上を一つにまとめて、運用、管理すれば、時には国ほどじゃなくても、それに近い動かせるお金を確保できることだってある。そしてそれを、地域の活性化の為に繋げていく。商品を買ってくれたお客様に、お返ししていくんだ」

 マリーは、驚きと呆れの入り混じった表情で固まっている。

 しかしやがてゆっくりと口を開いた。

「……それが、お兄さんがたまに言っていた、お客様のためにという言葉の意味だったというわけですか」

「少し違うけど、まあそうだね。そしてこれは、別に俺の妄想じゃない。俺の元居た世界では、現実として機能していたことなんだよ」

 実際のところは、そんな地域活性化のためみたいな高尚な考えのもと、働いている人間なんてほとんどいない。

 でも大手チェーンを展開する企業は、大なり小なり、その売上の一部を使って地域に貢献している。国の手が届き辛い、けれども誰かの助けを必要としていることを、地域に密着した国民の立場から成しているんだ。

「……正直、壮大な妄想を聞かされた気分にしかなりません。それを、本当にこれから、この世界に造っていこうって言うんですか?」

「うん……そのつもり。時間はかかるだろうけど、割と急がないといけない理由もあるんだ」

 もしあの勇者の夢が、本当にこの世界の未来なら、その時までにこの世界を、貧困から救い上げておかないといけない。あの時点で勇者が、ぶくぶく太るくらい食べられるように。周りの人間たちが、もっと元気に溢れて、勇者を助けられるように……。

「やっぱり……お兄さんが、神様の……」

 何やらマリーが俯き、得心がいったようにつぶやく。

 しかし俺はそのまま言葉を続けた。

「だから、マリーとは一旦お別れだ。俺は近くにあるっていう、大きな町の方に行ってみるよ」

「……ってはい!? 何を言っているんですかお兄さん! 一緒に砦町の方へ、来ないということですか!?」

「うん、何せ余裕が無いからね。先に、今知っている範囲での話とはいえ、一番大きな町を見ておきたいんだ。物価の基準とかも知りたいし、何より人の住んでいる町は、砦町の向こうには無いんでしょ? なら今後の為にも、まずはもう一方の町を見ておきたい。正直不安もあるけど、目的ができて、踏ん切りもついた。だから心配しないで。調べたいことを調べたら、砦町の方にもどの道一度は」

「私も行きます」

「……え?」

「私も行きます!」

「いや、でもマリーはストスさんと、砦町に行くことになってるんでしょ?」

「そんなのはお兄さんだってそうです! 第一、一人で行くって、本当に大丈夫なんですか? またこの世界のことをよくわからず、変なことをしでかすのが関の山です」

「マリーだって、この村の外のことは知らないくせに……」

「何か言いました?」

「いや、やっぱり危険なこともあるかもしれないし」

「いいんです! もう決めました。危険上等です。それにさっきの、色々夢みたいなことを、たった一人で成し遂げられると思いますか? 協力者が必要なんではないですか?」

 マリーは、途中からこちらをからかうように、周りをくるくると回りながら問いかけてきた。何というか、マリーには本当、敵わないな。それに、実際人手は必要だ。

「確かに、マリーの言うとおりだ」

「ふふ、でしょう?」

「うん、まあいざとなったら、俺が全力でマリーを守るよ」

 俺が特に意識せずそんな言葉を掛けると、マリーは目を少し見開き、ピタリと動きを止めた。

「そ、それでいいんですよ……」

 そしてそんな言葉を返してくる。再び歩き出したその姿は、なんだか軽快で、どこか嬉しそうに見えた。

「ここから、ここから始めよう……」


 このせっかくの異世界で、魔術も何もないけれど、それでもきっと重要な、俺にとっての戦いを……!

 読者の皆様、こんなところまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

 このたび皆様のおかげで無事、始まりの章を着地させることが出来ました。日々データとして読んでいただけていることがわかるのは、本当に励みになりますね。ありがとうございます。

 さて、主人公がやっとこさ、この物語のスタート地点につきました。計画の通り進んでいるのですが、一つ問題があります。聡明な皆様はお気づきかと思いますが、もう書籍化した際に(皮算用)一巻分となる程度、賞に募集できる程度書いているのに、チェーンストア要素がまるでありません。タイトル詐欺です。本当に申し訳ない……! ちなみにこれも、聡明な皆様はお察しかもしれませんが、おそらく二巻に相当する分書いても、チェーンストアは出来上がりません。これはひどいですね。それまでの間は、チェーンストアとして、というより、店としてのうんちくを織り交ぜることで、職業ものとしての体裁を保ちたい所存であります。

 さて続きなのですが、大きな流れはもう考えてあります。しかしここで適当に発車すると、取り返しが付かなくなるのは前作で学習済みなので、まずはしっかり、次の駅までの分を詰めます。そこまで日数を開けるつもりは無いのですが、今までのペースよりもう数日、一度間が空くかもしれません。よろしければ是非是非、見捨てずこの後も応援頂けると、泣いて喜び踊ります。

 一つの区切りがついたので、もし私の実力不足により、ここが不明、ここがおかしいなどありましたら、指摘や感想など頂けると嬉しいです。

 どこの小説家気取りだというほどあとがきを書いてしまいましたが、こういうのも含めて、小説を書くのは楽しいと思います。ではでは、皆様これからも、お互い精進してまいりましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ