約束の日6
そ…れは……。
「ちなみに、何で?」
「…初めて聞く人の声より、信じられるって人が一定数居るはずだから。女王様に続いて、同じ訴えを…」
「なら、やっぱり翔君がぴったりじゃない」
考える。
俺はすぐに考えてみた。時間が無いのだから、呆けている場合じゃない。
…確かに、さっき自分で言った条件に当てはまっている…のか。
でも…でも俺だぞ?
もしそれで、また拒絶……。されなかったとしても、俺が途中でまた、思い出して訳が分からなくなったらっ。
思い…だして……。勝手に苦しんで、勝手に失敗してしまったら――。
―――苦しくなったら…仕方が無いので慰めてあげましょう。
………ああ。
「翔君…?」
そうだ。
思い出すべきなのは、そんな事じゃない。
「そうだね」
ひたすら考えよう。
つらい記憶なんて気にならないくらい…。
自分の…大切な人の事を―。
マリーとの、大切な思い出の数々を…。
「話はまとまりましたか?」
気が付くと、目の前に役目を終えた女王様が立っていた。
俺は…頷く。
「はい。俺も責任を負います」
「お願いいたしますね。…世界の為に」
――翔、見慣れた戦闘が始まったぞ。おあつらえ向きなタイミングではないか。
メル…、プレッシャー与えてくれるなあ…。
つまりは俺が、最後の語り手になってしまう訳か。
でも…やる。ここでやらずに、いつやるんだ。
大切な人が居る世界を…守る。
―――あなたは、どこの、誰ですか?
俺にとっての昔は、もう…あの時。
大好きな人に出会った時だ。
大丈夫…。今……笑えてる。
「皆さん、丸猫屋の店主、上木翔です!」
声には気楽な雰囲気を乗せたりしない。あくまで真剣さが伝わるように。
世界へ向けて話す。
「私は今、女王様に協力し、世界を救う為ここに居ます。先程までの話は、全て現実に起きている事です。…その瞬間が迫っています。目の前のどんな事よりも優先し、構えて下さい!」
こんな俺でも…この世界の人達と………!
チェーンストアとは。
文字通り、連鎖する店と言う意味を持つ。
それは、各支店同士が結びついている事で、個人店には出せない効率や、サービスを提供できる仕組みの事。
繋がりを、力に変える力―――。
そしてその繋がりを、お客さんへと提供していく。そこに住むすべての人へと広げ…大きくしていく事なんだ。
“あなたと繋がりたい”
こんな店の謳い文句は、決して聞こえの良い空想の言葉なんかじゃない。
少なくとも、本気で…それに挑む人達が居る。それが、人と人とを繋ぐチェーンストア…。俺が、この世界でやって来た事だ!
この俺の言葉が届くとすれば…。それがその証明になる。
――翔!!
「今です!! 魔力を注ぎ続けて下さい。あとはカインが…俺達の勇者が力を集め、きっとこの世界を救ってくれる!」
瞬間――外がまぶしさで溢れた。
町が…数えきれないほどの光で埋め尽くされている。
届いた…届いたんだ。少なくとも、この町の人達には。
ほとんどが女王様の語りのおかげかもしれない。でもそれで構わない。
俺が全国民に認められたなんて、思い上がったりもしていない。それでも、届いた人が居る。
その届いた人が、きっと周りの人へと繋げてくれた。
信用の繋がりを。
この結果は…少なくとも俺の言葉が、拒絶されなかったと言う事――。
光が一つの方向へ向けて走り始める。
きっとその先にカインが居る。今この瞬間、世界の為に一番頑張っている人間が。
俺にはその様子を見る事が出来ないけど…、今まさにぶつかっているはずなんだ!
「頑張れカイン!」
思わず俺がそう叫ぶと、ハッと気付いたように女王様が駆け寄ってきた。
そしてそのまま、続いて呼びかける。
「――っカイン!!」
…想いのこもった声だ。
きっとこの二人にも、二人だけの繋がりがあるんだな。
光が町から消えていく。
でもそれは、無くなってしまった訳じゃない。届いた先で、一つの力になっている。
…どうなった?
まだ、カインは歯を食いしばり続けているのか?
――翔。
…メル?
――…よくやってくれた。
…っじゃあ!
やった…やり遂げたんだカインは! やってくれた!
そして夢の通りにならなかったと言う事は…。
俺の選択も、間違ってなかった………っ。
――翔よ。本当に……すまなかったな。
……謝られるような事、何もされてないですよ、メル様。
――ここで様付けで呼びおるかこいつは…。
何があったのかは知らない。でも、少なくとも俺は、この世界に来れて、暮らして…今幸せになれるって思ってる。だから…、ありがとうございました。
――こちらこそ、世界を救う大義、感謝する。
…戻ってくる?
――…しばらくは無理じゃな。力を…使い過ぎた。
わかった。じゃあ…またいつか。
―――――。
メルからの思念は、それきり途絶えてしまった。
でもなんだか最後に…メルは笑っていたような気がする。
俺は目の前の現実へと、意識を戻した。
「翔君! 大丈夫!?」
「イエロー…それに、お二人も…」
「上木…様?」
「…」
「カインが、やってくれたそうです」
誰一人、すぐには反応できなかった。それは数秒の間を置いて、流れ出るように…。
「やっっったあああああ…」
「よく…やってくれました……」
感情を溢れ出させる、イエローと女王様。本来は、共にこの国の中核を担う二人。
そんな人達と最後にこれほど立ち回るとは…。何だかんだで、結構な立場に居たな。
ナンさんは…やりきったとばかりに意識を手放し、床に倒れ込んでいた。本当に、お疲れ様…。
普段使っているブランケットを被せ、その後俺は再び世界へ向けて話し始める。
「皆さん、カインが…やってくれました! 私達の勝利です!!」
町の方から、ぱらぱらと歓声が聞こえてくる。あまり大きくないのは、魔力をカインに預けたせいで、騒ぐ余裕がないからだろう。
でも俺は…元々魔力をほぼ持ってないから変わらない。
そして…この高揚感に、身を任せたくて堪らない!
俺は再び、もう使う必要のない魔術具の前に立った。そして――。
「マリー! 今から行くから待ってて!」
俺はそれだけ言い放ち、回路を切り離した。これから使っていくには、それ用に改造が必要だ。
振り返ると、ふとイエローと目が合う。
「…いってらっしゃい」
そう言って、イエローは笑った。
内心でこっそりと…謝る。でも口には出さない。
「行ってくる!」
俺は、自分の力で走り出した。
町を一心不乱に駆け抜けていく。
俺の帰るべき場所へ。
ああ、店の前にいるあの人影は…。
「マリー!」
「お兄さん!?」
開口一番、マリーに怒鳴りつけるようにして呼ばれてしまった。
「何をやってくれてるんですか!? あれどこまで届いてるんです? せめてこの町だけだとそうだと言って下さい!」
「…ごめん。届く限りの最大まで」
まだそんな調整機能は存在しない。
「~~~っ! そんな事だから子供だと言うんです! 色々言いたい事はありますが、本当にいつまで経っても…ああ…恥ずかしい……」
マリーは真っ赤になって恥ずかしがってしまっている。
勢いに任せてしまった事を、後で反省すべきかもしれない。
でも今は…。
「マリー」
「何ですか!」
「…好きです。俺と、結婚してください」
朝からずっと持ち歩いていた小箱を取りだし、開け、差し出す。中身はつい昨晩作ったばかりの指輪だ。
まさかこんなに早く使うとは思ってなかった。
告白の言葉を練る時間も無くて、あまりにシンプルすぎる台詞だ。
でも、今しかないって思った。
ここまで待たせてしまった相手に告白をするなら、これくらいはっきりと…全力でやらなくてどうするんだ。
「もう…無理はしてないみたいですね」
そう言ったマリーは…もう…。
この人は…あとどれだけ、俺を骨抜きにしてしまう表情を持っているのだろう。
「はい…。よろこんでっ」
ああ、これから俺は…。
この人との繋がりを、一番大切にして、生きていく……。
それはきっと、とても…幸せだ。
…と言う事で、この物語は一度ここで完結となります。
皆様本当に読んでくださってありがとうございました。
さて、私の仕掛けが上手く行っていればですが、物語として進行はしつつも、謎が残ったままになっているかと思います。しかしそれは、作中の翔にとっても同じで、彼も知り得なかった部分である…と言うものにしています。
そういう小説だからこその隠し方や、謎みたいなものが、私は結構好きでして。
それから、昨今謎を抱えながら、予想しながら読む…と言った形の作品に、意味が分からないなどの感想をよく見かけるな、などと感じておりまして…。
そうした流れに負けず、読み込んだらわかってきたり、気が付くと受け取り方が全然違ったり…。そんな自分が好きな作品を、自分でも…と言う気持ちでこれを書いています。
以前にもお伝えしていた通り、この作品はここで終わりです。
しかし、翔には見えていなかった部分を記すお話を、もう一度最初から書いて行こうと思います。それは同じシーンでも、今回完結したお話で受けた印象とは別のものを感じたり、謎が解けたり…。両方読んでも面白いものにしたいと気合を入れています。
せっかくここまで私の作品を読んで下さった方と、縁が切れてしまうのは惜しいので、https://ncode.syosetu.com/n4750fd/ある意味での続きとなる小説の、0話を投稿しました。連載を再開する際には、ここで更新しますので、是非とも引き続き応援して頂けると嬉しいです。
開始時期は現在未定で、その前に一つ、小説一巻分ほど別の作品を書こうと思っています。
多視点を扱う作品の経験がまだ薄いので、その練習も兼ねて…。よろしければそちらも是非。
完結したこの作品は、ラノベ換算だと5巻分ほどになるのですが…、おそらく続きの方は、翔以外の見ている部分も増える為、もっと長編になると思っています。実力を上げて、それだけの量を読んで貰えるような、おもしろい作品目指して、さらには書籍化の夢も追って…頑張ります!




