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約束の日

 夢を見ている。

 過去の夢だ。

 それは俺にとって、つらい記憶と言い換えてもいい。

 一度こちらの世界で倒れ、仮面が剥がれてもなお、避け続けていた記憶。

 時折唐突に思い出してしまう事もあったが、それでも目を逸らし、忘れようと努めてきた。なんとか上手く付き合ってきた。

 今もそれは変わらない。間違いなく、忘れたい記憶だ。

 ……でも。

 こうしてその記憶を見ているのに、大して息苦しさを感じない。あくまで、過去の事として認識できている感覚がある。

 夢なのに、感覚と言うのもおかしいかもしれないけど…。

 とにかく、今までよりも冷静な自分が居た。

 これもきっと…昨日の出来事のおかげだ。

 時間を置く事で、さらに実感が湧いてくる。

 俺はやっと…、やっと一つ、吹っ切れたのかもしれない。

 …よかった。

 よかった。本当に………。




 目を、覚ました。

 …。

 ……………待て…――っ!

 身体から、嫌な汗が出ているのがわかる。心臓も、昨日とは全く違う理由で早鐘を打っていた。

 俺は、今…何を、見ていた?

 いや、本当はちゃんと覚えている。

 夢を見ていた。

 夢を見るのはいつもの事だ。この世界へ来てからと言うもの、約十年もの間、ずっと夢を見続けてきた。

 それは、世界の未来を決める日の夢。

 一日たりとも、それが途切れた事は無い。

 それなのに……。

 今…見た夢はっ…! その夢じゃなかった!!

 よりによって…今日か…っ。

 俺はベッドから跳び起き、すぐさま行動を始めていた。

 いつか来るのはわかっていた事だ。こういう形で予兆があるのは意外だったけど、何をすべきかはちゃんと考えてある。

 いつもの夢を見なかった。

 仮にこれが、運命を決める日が今日であると言う事を示しているのなら…。

 出来る事はいよいよ限られている。

 それから、カインも目を覚ませば、この事に気付くはずだ。もしもここに寄る事が可能な場所に居るなら、顔を出しに来る。

 急に事態が始まった場合は、そんな暇が無い。その時は、気にせず目の前の事を…と言う取り決めだったけど、これならまだ時間はある。こういう場合は、最後の情報交換をする為、会う手筈になっている。

 あの夢…日時が変動しているとカインは言っていたが、太陽の位置は常に同じだった。多少違っていたのかもしれないが、少なくとも肉眼で判断が付かない程度だ。

 あの塊が、こちらの世界に現れやすい時間帯なのかもしれない。

 それまでに、何をするか…。

「よし」

 これから動き回るのに、寝間着じゃいちいちどうしたのか聞かれ、返ってロスになる。そう考え急いで着替えを済ませた。そのまま部屋を出て、早足で歩く。

 まず一つ、確かめないといけない事がある。

 それは今日現れるかもしれないあの塊…。その小規模版とも言えるノートが、現れるのではないかと言う事だ。

 そうと決まった訳では無い。しかし夢で見る事が出来た決戦の現場、そこに居る人の数が、どうにも少ないんだ。

 カインを筆頭に、俺達は世界を救う為に準備をして来た。移動手段を常に維持し、いつでも駆けつける事の出来る人員を、騎士隊は準備しているはず。それなのに、夢で見続けたこちらの陣営はあまりに手薄だ。それは国が発展し続けても変わらなかった。

 なら…その戦力が分散せざるを得ない、何かが起きると考えるのが妥当。

 では何がとなれば、ノート出現を警戒するのは当然だ。

 そうした邪魔さえなければ、そもそも現場の戦力は夢の内容より多いはずで、カインの決め技に力を貸せる味方も増える。それだけでも、確かな違いが出るはずだった。

 しかし警備体制や、部隊の配置を調整しても、夢への変化は現れなかった。

 それもあって、現場に居ない人に連絡する為の通信機と言う案を、俺は裏方として模索し続けていたんだ。

 夢で見ていた戦いの時には、あの場に居ない人間は全滅…なんて事もあるかもしれないが、それは考えても仕方がない。

 通信手段は、あの状況を打開する方法として考えられる、貴重な手段の一つだ。

 結局、完成しないままその日を迎えてしまったが…。

 とにかくまずは外に出て、町の様子を確認するところから…。そう考えつつ、俺はどうしても気になる事があった。

 マリーは…無事だよな。

 まだ周りは静まり返っていて、何か起きた様子は無い。

 大丈夫だとは思うのだが、あいつらはいつどこに現れるかわからない。

 起きていればまだしも、まだマリーが寝ていて、気付いていなかったら…。

 ずっとそれを不安がっていたら、この後どこへも行けないのはわかっている。

 でもだからこそ、少しでいいから、今無事を確認したい。

 脳内では全力であれこれ考えつつ、俺はすぐ隣の部屋をノックした。

「マリー、起きてる?」

「……お、お兄さん? 起きてます…けど…」

 中から返事が返ってきて、一安心は出来た。

 …が、一瞬の間があった事や、少し動揺したような声に、まだ若干の不安が残る。

「開けるよ」

 そう言いながら、俺はもう扉を開けていた。

「え、ちょっ!?」

 素早く部屋を見回す。部屋の隅や天井にも、おかしな様子は無い。

 良かった。本当に問題は無さそうだ。

「マリー、アンシアとローナを起こして、それから一緒に居て。警戒を」

「い、いやそ…………それって、まさか……。わかりました」

 これで、マリーはもう察してくれているはずだ。

 扉を閉め、再び急いで歩く。

 走らないのは、慌てる事で思考を鈍らせない為。それから、この事を知らない従業員達に、まだ異常事態を悟らせない為。不要なパニックを意図せぬタイミングで招けば、その分最終的に出来る事が減ってしまうからだ。

 今度こそ、外の様子を確認しよう。

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