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203/218

時は進んで2

 ここは、最近この町に出来た店だ。

 目的の待ち合わせ場所なのだが、この店…何の店かひと言では言い表しにくい。

 どんな店かと言うと…部屋を借りる事が出来て、同時に食事を取れて、備え付きの遊戯に興じたりも出来る。

 システムはカラオケに近いけど、肝心の歌う為の機械は無い。

 それに、部屋の方はどちらかと言うとホテルに近い。でも宿泊なんかは出来ないし、ベッドも無い。

 個室の遊技場を借りれるレジャー施設…みたいなものだろうか。

 高級な店ならいざ知らず、一般的なところでは見かけた事の無い形態だ。

 自分が知る店に似ているようで同じでは無い店も、この世界には増えてきている。

 …それはさておき、今肝心なのは、この店では個室を借りられるってところだ。となれば…秘密の話をするのには、もってこいの店と言う事になる。

「ああ、どうも翔さん」

「おまたせ…。ごめん先に待ってるつもりだったのに」

「まだ約束の時間前ですよ。それに遊んでましたから」

 俺の待ち合わせ相手は、知る人ぞ知る有名人となったカインだ。

 出会った頃はマリーと同じく、まだ学生の歳だった彼だが、今となっては立派な大人。そしてその風貌は、あの夢の姿とほぼ変わらないものになっていた。

 つまり…いよいよその時が迫っていると言う事だ。

 そんな彼は、つかの間の息抜きを楽しんでいるのか、ダーツなんかに興じていた。


 カインとは、最近定期的に会っている。

 以前は時間に追われ、各地を転々としていた彼だが、今はある程度落ち着き、日々修行に励んでいるらしい。だからこうして、会える機会も増えたと言う訳だ。

 主には、情報交換の為。

 カインを取り巻く環境は、数年前とはかなり変わっていると聞く。

 例えばあの夢。ここ最近は毎日のように状況が変化し続けている。

 これは未来を変化させる方法を得た事で、カインが試している結果だそうだ。いわゆる分岐点のような物を、ある程度操作できる状況にあるらしい。

 その甲斐あってか、あの塊との戦闘も昔とは違っている。

 一番大きい変化としては、第1段階を突破するのに、あの光を集める技を使わなくなっていた。温存したまま押し返す術を見出したんだ。

 しかしそれでもなお、世界を救うには至っていない。今日も夢で見た通りだ。

 

 俺が腰を下ろしたのに合わせ、カインもテーブルに着く。

「すぐ終わるから先に言っちゃうけど、ごめん。俺の方はまだ進展無しだ」

「そうですか…こちらは、新しく判明した事があります」

「―! 何?」

「どうやらあの最後の戦い…いつなのかわからないのではなく、決まっていないみたいなんです」

「決まっていない?」

 あの夢の日がいつなのか、それがずっと問題になっていた。

 判明した事の1つに、あの光の技の仕様がある。それは、カインがあれを撃つその時に、その他の人間が同じく光の魔術を行使する事で、力を譲渡できるって事だ。

 つまり、あの戦いに合わせて、この世界の全ての人間が準備をしているのが理想。

 しかし、どうしてもその日時がわからない。仮に日付がわかっても、一瞬のはずの技発動時に合わせるには、なんらかの伝達手段が必須だった。

 俺が通信機の開発に時間を割いているのも、それが理由だ。

 それでも結局、間に合わない可能性はある。

 だから日付だけでもわかり次第、地竜や飛竜を総動員し、各地に最速で伝令をとばして、それを伝えなければと考えていたのだが…。

「それは…あの何かがこの世界に現れる時間は、そもそも決まっていない…って事か」

「はい。あいつは、この世界…俺達の時間軸とは関係の無い存在みたいなんです。空間すらも…ただあいつだけが居る…いやむしろ何もないような…」

「そうなると、ますます伝達手段が重要になってくるな…」

「そうなんです。今俺達の方でも、魔族の皆に別の線を探って貰っているんですが…」

 この世界。そういう無属性的な魔法は魔族の独壇場だからな。

 基本的に、人間は魔力そのままの身体強化か、火、水みたいな元素的な魔術しか使えない。

「そろそろまた、ナンさん達と会って話して貰おうか」

「そうですね。俺が許可を貰っておきます」

「いや、俺がやっておくよ」

「…すみません、ではお願いします」

 魔族に対する偏見の目は、残念ながら完全に無くなっては居ない。目に見えて嫌悪感を抱く人が多い訳ではないのだが、実際に目にして、その外見の差に、やはり驚いた人達も多かったんだ。

 王都に呼ぶには、予め申告が必要になる。

 俺の世界でも、黒人白人だとか、そう言う諍いがあったからな…。

 世界の危機がすぐそこに迫っているのにと思うけど、この世界のほとんどの人は、そんな事知る由も無い。全てを伝える事もあるかもしれないが、今のままだと世界が滅ぶなんて全ての人に言ったら、それこそ今までで一番のパニックになる。

 冷静に順序立てて話そうと、少しずつ知る人を広げようとそれは同じ。結局どこかで情報の統率が取れなくなり、あっという間に半狂乱な世界になると予想できる。

 これも通信機器があれば、ある程度解決できる事なのに…。


 話し合いは、いくつかの新事実を共有して貰うだけでお開きとなった。

 カインは今日も、この後修行を積むそうだ。

 そもそも夢の通りに、彼自身が戦えないと意味が無い。それでもああしてダーツをしたり、余裕を持てているのは、間違いなく彼の成長の証だ。心に余裕があるように見える。がむしゃらに量をこなせば強くなる訳じゃ無いからな。

 彼の性格的に、目処が立っているからこその余裕なんだろうけど…。

 まあだからこそ、より安心できると言うものだ。

 今から出来る事は、もうあまり無い。

 通信機もそうだけど、もっと画期的な別の方法で敵を追い払えないかについても、カインは全力で模索し続けている。

 だからこそ、俺が指揮を取れば済む部分は、出来るだけ請け負わないとな。

 そしてそうしている間も、頭は使える。引き続き、策を考え続けなければならない。

 俺もカイン同様、倒れない範囲で、しっかりやって行こう。

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