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社会での役割13

 後日、マリーはガイルと話をして戻ってきた。

 …のだが、あの時は相当に機嫌が悪そうだった。やはり何かしらの衝突があったらしい。

 話だけはしっかりしてきたようで、ガイルの心中については判明した。

 丸猫屋を辞めた原因については、やはり考え方の相違による不満の蓄積。

 何も言わずに出て行ったのは、新たに店をやると言えば、俺が止めると思ったからだそうだ。

 丸猫屋には、新店を任せた新しい店長が何人も居る。その中には奴隷の人も居た訳だが、ガイルは含まれていなかった。その理由については、面接で伝えていたのだが…納得できない部分があったんだろう。

 すでに店長になった何人かより、ガイルの方が優秀なのも事実だった。それでも選ばなかったのは、丸猫屋の店長として、もっと重要な事があるからだ。

 それは…丸猫屋のやり方に納得しているかどうか。

 チェーンストアとして守るべきルールを、必ず守り抜いてくれるかどうか。

 ガイルは、すべての従業員に俺達レベルでの取り組みを求めていたりと、内部での衝突もあった。仕事なのだから、出来る限りのことをするのは当たり前だと言って…。

 その考えが間違いと言う訳ではない。

 でも、丸猫屋はそういう業態の店じゃないんだ。

 舐めるなと言う人も居るけど、人それぞれ仕事への意識は違う。そして、それを塗り替える事は難しい。

 だから、雇用の形も様々だし、能力によって給料も変わる。

 もちろん、最低限を疎かにされては困ってしまうが…。

 そういう、安い給料でいいから簡単な仕事が良いって人達に、相応の雇用を作るのも、社会には必要な事だ。

 お互いに取り決めを守れば、店側だって人件費を抑えられるし、両得なのだから。

 そこを納得できない限り、ガイルに丸猫屋の店長は任せられないと思っていた。

 そんな頃、俺はセミナーを始め、丸猫屋以外の店が発展していく事を願っていた。

 ガイルは、それで今回の動きに踏み切ったんだ。

 俺に相談すれば、おそらく駄目だと言われる。だから黙ってやった。

 俺に恨みを持っていたりした訳じゃ無いから、勝手をする代わりに、社会が俺の望む方向に進むと考えた形にした。

 それでも他にやり方があったのかもしれないが、日頃の不満があり、それも合わさっての結果だ。

 むしろ今回の件。俺が、ガイルに新事業展開を勧めるくらいじゃないといけなかった。

 竜の業態は、全員がプロフェッショナルで、全員が当たり前に仕事に全力を出すと言うもの。そこのトップなら、ガイルが務めるのに何の問題も無い。むしろ適任だ。

 合わないのがわかっていたのだから、彼の考えに合った店を考え、新しい道を示すくらいやるべきだった。

 こんな無用のすれ違いが起きたのも、俺の至らなさが原因だ。

 数字や知識の管理はミス無く出来ても、従業員に対しては、まるで上手くやれていない。

 でもこれで、また1人…。いや、ガイルが引き抜いた人を含めればもっと、不満なく過ごせるようになった。

 これはありがたい事…。

 彼の店に合った問題点も、すでに修正を始めた。結果的には、働き先が増えて、より自分に合う仕事が選択出来るようになっただけだ。

 ガイルのおかげで、間違いなくこの国の商業は変化した。

 これを起爆剤に…俺達はより一層の発展を目指していく―――。


 そんなとある日、夢に変化が現れた。

 カインの隣にあった、輪郭のはっきりしない影。それが明確になったんだ。

 その風貌は見た事があった。あの隣に居る人は、魔族だ。

 この世界において、魔族は敵対し続けている敵。

 あの不気味な塊…ノートも、その差し金では無いかと言われている。

 しかしもしかしたら、それは誤りなのかもしれない。

 ティサの件もあったから、その可能性は高いと考えていた。

 これはきっと、大きな前進…。そろそろ、未来が開けるのではないかと思った。

 …しかし、そうは問屋がおろさなかった。

 カインと、共に戦う魔族の力によって、ついにノートの親玉らしき塊は消え去ったように見えた。しかし、しばらくすると不気味な亀裂が現れ、それまでのものとは比べ物にならない密度の何かが、溢れだしてきたんだ。

 第2形態。ゲームのラスボスなら、それも確かによくある事だけど…。

 どうやら、まだまだ気を抜いていい時では無いようだった。


 しばらく月日が経ち、追って現実にも変化が訪れた。

 魔族との和平…もとい、これまでの争いは勘違いによるものであった事が、国民へ大々的に伝えられた。しかもそれを成し遂げたのは、あのカインだと言うんだ。

 これには、町中が一時騒然とした。

 しかし元々、魔族に直接何かされた人はほとんどいない。どんな姿をしているかも知らない人がほとんどの、噂みたいなものだ。

 伝え聞いていたような存在では無かった。

 そう言われれば、嘘だと否定する理由を持つ人もほぼ居ない。

 むしろ全く知らない分、貴族や奴隷の身分が撤廃された時に比べれば、騒ぎが落ち着くのは早いくらいだった。慣れもあるのかもしれない。もしかすると、あのタイミングでの身分撤廃は、これを見越してだった可能性もあるな。

 もちろん魔族だって、ずっと恐ろしいと伝わっていた存在だ。

 騒ぎが収まろうと、実際に受け入れるのには、それなりに時間が必要になってくるだろう。


 カインは大したものだ。

 俺が自分の身内の諍いでバタついている間に、この国全体で問題だった諍いを、1つ解決してしまった。

 やっぱり勇者に選ばれるような人間は、どこか違うのかもしれないな…。

 しかしそれでもなお、この世界の未来は明るくない。

 俺も、俺に出来る事を全力で続けていこう。



 

 世界は変わっていく。

 様々な変化を受け、その影響で、さらに別の何かが変わる。

 その変化のうちのたった1つ…。

 商業、流通の発展を成し遂げるために、俺達は奔走し続けた。

 世界の全てでは無く、抱えられるものだけを抱えて。

 時に躓きながらも、俺達は丸猫屋を通じて、世界に貢献し続けた。


 そんな日々は、あっという間に過ぎていき…。

 俺は、この世界に来て…10年目の年を迎える―――。

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