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夢と、暮らしの始まりと

 ブクマ&たくさんのリツイート拡散ありがとうございます!

 引き続き頑張ります。

 俺はまた、夢を見ていた。

 勇者が暗い、暗い塊と対峙する夢。

 けれども力及ばず、敗れる夢。

 この世界に来てから、いつも、変わらず同じ夢をみる……。


 目覚めて早々剣で襲われたスプラッタなあの日から、世話になり数日が経っていた。

 あれから俺は、少しずつ体調が回復し、身体のだるさも今はほとんどなくなってきていた。そしてそうなれば、ただで世話になっているわけにもいかない。そんなわけで、ここ何日かは、マキ割りや水汲みなど、力仕事の手伝いをリハビリがてら買って出ていた。

 そのくらいはしていないと、さすがに居心地が悪いしね……。

 見た目通りの歳なら一回りくらいは年下の女の子相手に、ヒモをやるわけにはいかない。ちなみに件のスプラッタな女の子の名前だが「私の名前? 皆はマリーって呼びますよ」とのことだった。本当の名前は違うということなのだろうか。あえて隠す理由が何かあるのかな。

 そしてそのマリーだが、日中はほとんど家にいない。色々と忙しいようで、仕事もしているらしい。元の世界なら、まだ自分のやりたいことや、遊びばかりしていてもいい年だろうに、しっかりしていると思う。

 さて、肝心の俺は何をしているかというと、マキ割り作業などのコツも掴み、身体も回復してきたことで、この世界に来て初めて、自由に身動きできる時間ができた。そう、異世界に来て初めての自由な時間である。となればやることはもちろん決まっているよな?

 あ、歳を考えろとか言わないで。お兄さん泣いちゃう。だ、大丈夫まだお兄さんで通じる年だから……。

 そんなわけで俺は今、自分に備わっている(はずの)異能の力を見つけ出さんと、トレーニングに励んでいた。

「違う、もっとこう……」

 地は力、地は我が身の分身……。身体の重心を地面に落とす。そのまま地面と一体になり、力のすべてを預け、そして返還させる。

 足で地面をしっかりと捉える意識をする。しかしその一方で、身体と足が一つの塊のままであることも忘れてはいけない。地面を蹴るのではなく、重心を抜き、地面に“乗る”。すべてを同時に行うことができた時、これは完成する!

「これが、歩法の極意……」

 縮・地・法!!

 数多の物語でその力を奮う速さの奥義の一つ。すべての動作が終わったとき、俺の身体はその場所を移していた。

 ……1、2メートル程先に。

 これじゃあ元の世界でもできた、普通の歩法と何も変わってないよなあ。

 どうにも上手くいかず、思わず俯いてしまう。異世界に呼ばれたからには、何かこう、特別な力があるんじゃないかと期待してるんだけどなあ。今の所、これといった手応えは得られていない。そう上手くはいかないか……。

 もう日が暮れ始めてるし、マリーもいつも通りなら帰ってくる時間だ。今日は引き上げかな。そう考え踵を返し、顔を上げたところで……。

 とてもとても可哀想なものを見る目をした、マリーと目が合った。

「これが、ほほうのごくい……?」

 そしてこの追撃のセリフである。あ、結構前から見ていらしたのね……。うん、恥ずか死にたい……。




 あの後俺とマリーは、一緒にマリーの住んでいる小屋に帰ってきた。

「あ、ストスさん。ただ今戻りました」

「……」

 ストスさんは、いつも通り無言で頷き、工房への扉を潜って行ってしまう。

 ちなみにストスさんというのは、マリーのお父さんだ。寡黙な人で、俺はまだ話をしている姿を見たことが無い。初めて会った時は亜人か何かかと勘違いしたほど、ガタイが良く、筋骨隆々だ。

 もっとも、マリーと同じくやつれ気味ではあるけれど……。

 それから……過去に何かがあったのだろうけれど、片腕が無かった。

 でもそんなハンデを物ともせず、鍛冶の腕がとても立つらしく、偶然すれ違う時がある以外は、ずっと工房に籠って何かを打っているようだった。

 今も、何やら小気味良い金属の音が、工房から響き始めている。

 すごいよなあ……。

 別に鍛冶に通じているわけでも無いし、むしろ全く知識なんて無い俺だが、所謂職人、という立ち振る舞いには、男心に尊敬の念を抱いてしまう。

 なんか、かっこいいよなあ職人って言うのはさ。おとこって感じで。

「準備できましたよ。ご飯にしましょう」

「ありがとう、頂くよ」

 今日もさっきの縮地(笑)の件はともかく、その前に力仕事をこなしていたため、おなかはペコペコだ。明日の為にも、おなかいっぱい食べて英気を養いたい……ところではある。

 しかし今日のメニューは、ボソボソとした芋が半分に、何かキャベツに似た葉の炒め物のみで、二品合わせても、一般的な茶碗に収まってしまうかもという程度の量しか無かった。

 ごく普通の成人男性である俺としては、もちろん十分な量では無かったが、ほんの少し力仕事を手伝っているだけの居候としては、なかなかもっと量をくれとは言い出しにくい。

 そもそもマリーも同じ量しか食べていない。そのマリーも正直やつれていると言っていいほどの痩せ形だし、なおの事言えない。

 多分マリーだって、本当はもっと食べたいんじゃないかな……。

「あっ……」

 そんなことを考えていた俺だったが、いかんせん今日は動きすぎたのか、おなかがぐぅとなってしまった。

 出された分は食べ切った後にである。これでは足りないと文句を言っているようなものだ。

 いや、実際足りないのは事実なのだが……。

「……ごめんなさい」

「いやいやいや! こっちこそ本当ごめんね。ほら、今日俺極意だーとか馬鹿なことやってたからね。本当ごめんね!」

 あろうことか謝らせてしまった。世話になっている身分なのに、本当に申し訳ない……。

 何か、何か別の話題を振ろう。

「えっと……そうだ。馬鹿なことする余裕もできてきたし、もっと何か手伝うよ。行くあての無いところを世話して貰って、俺本当に感謝してるんだ。日中は何をしてるの? いつも仕事だってどこか出かけちゃうけど」

「あ、そんな……。大丈夫ですよ。マキ割とかをして下さっているだけで、お父さんが仕事に集中できて、助かってますから」

「まあまあ、そう言わずにさ。ひょっとしたら、もっと力になれるかもしれないし、何してるか教えて?」

 少々くどいかもしれないが、今日は受け持った仕事以外のことをやる余裕ができた。となれば今後もっと慣れてくれば、さらに時間は余ってくる。それは正直いい気がしないし、その分貢献して、少しでも恩を返したい。

 できればもっと何かで力になって、食事の量も増やせるなら増やしたいし……。

 口には出せないとはいえ、それはそれ、これはこれ。食事事情を改善できるならもちろんしたい。といっても不思議な力に目覚めたりしたわけでもなし、何ができるのかわからないけど……。

 マリーはなんだか、迷っているようだった。なんだろう……色々と秘密にしたいことがあるんだな。でも今回は何の仕事をしてるか聞いただけだし、そんなに答えづらい質問だろうか。

 答えにくい仕事、若い女の子、極貧生活……まさか!?

 いや待てまだまだそうとは限らない。そうだ落ち着け。こんな良くないことを思いつくのは俺が汚れているからだ。

 そうだよなあ良くない、良くないぞ!

「では手伝って頂くかは別として、お答えしますけど……まあお店です」

「お店!?」

「ひゃ!? なんですか! 急に大きな声を出さないでください」

 ま、まさか本当にこう……そっち系のあれで、それなお店に務めて……?

 いやまだまだそうとは限らない。

 まだ慌てるような時間じゃない!

「そうか、お店ね……。えと、大変じゃない? やっぱり俺も手伝ったり……?」

 俺は何を言ってる!?

 本当に今想像している通りだったとしたら、一体何を手伝えばいいんだ!

「まあ、確かに大変ではありますよ。慣れてるとはいえ、重いですし」

「お、重い……」

 それは、こう、体重が重い的な、あ、ああ……。こんな真面目そうな子が……信じて送り出したマリーちゃんが的な……。

「でもやっぱりいいですよ。あまり目立つのも良くないですし、そんなにやることもないですしね」

「そ、そうなの?」

 そんなにやることはないのか。だから貧乏なのか?

 でもマリーも結構かわいいのに、他に想像できないような絶世の美女でも揃っているのだろうか。

「どうしても、と言うなら考えますけど……。行き返りで手伝っていただければ助かりますし」

「な、ナニを手伝うの!?」

 行き返りの手伝いって何!?

 送迎? 送迎なの?

 テレなんとかなの?

 いかん妄想するな俺!

「それはもちろん……」

「う、うん」

「武器の運搬に決まっているじゃないですか」

 ……うん?

 最近はアレなサービスに武器を使うのがメジャーなのだろうか。うん、そんな訳ないね!

「武器の運搬?」

「はい。正確には武器以外もありますけど」

 あ、これ俺すごい失礼なこと考えてたやつだ。もう今日は、このまま恥で死んでしまえばいいのではないだろうか。

「つまり……金物屋みたいなもの?」

「まあそんな感じです。正確に何屋だって謳ってるわけでもありませんが」

 よかった。身体を売る可憐な少女は、ここには居なかったんだね。

 しかし、それはともかく……。

「そうか、お店か……。ねえマリー? もしよかったらなんだけど、やっぱりそれ、手伝わせてくれないかな」

「はあ、でも……」

 そう、さっきまでのくだらない妄想は置いておくとして、そういう事なら話は別だ。

「もしかしたら、力になれるかもしれない」

「それは……一体何を根拠に?」

「俺も、前の世界では商売をしていたんだ。これでも店長だったんだよ?」

 何事も挑戦、手伝ってみる価値はあるはずだ。

 俺はその夜渋るマリーを押し切り、明日一緒に店へ付いていく約束を取り付けたのだった。

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