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175/218

チェーンストアの力15

 前回同様、塔に不法侵入する。雨が強くなっていて、少し危険度が増していた。

 階段だけならともかく、このルートで侵入するのに、物音一つ立てないような芸当は出来ない。おそらく、マリーも誰かが上ってきている事に気付いているだろう。

 ゆっくりと、俺は到着した。

「お…お兄さん!? なんで!?」

 一人になりたいならって案内されてたみたいだしな。そりゃあ驚くか。

 マリーは、ちゃんと身構えて待ってはいた。

 でもその顔は、まだいつもの仮面を纏えていないのか、少し辛そうに見えた。

 それとも、最近はずっとこんな表情をしていたのだろうか。

 ただ俺の目が、曇ってしまっていたんだろうか。

「…ここに居るって聞いて」

「うー…」

 咎めるように、マリーからじっと睨まれる。そういえば、こういうやり取りも減っていた気がする。

 俺は何となくマリーの横に移動し、お互い顔を合わせない位置に腰を下ろした。

 マリーはしばらく立ち尽くした後、そっとそのまま隣に座る。

「…それで? どうしたんですこんなところに」

 ここに来るまでに腹は…括って来た。

「…どうした? お兄さんに相談してみないか?」

「なるほど。行って来いと言われて来たんですね」

 ………。

「私の場所がわかったからって、そんな理由でお兄さんがここに来るとは思えません。らしくも無い」

「まあ、その通りだけど…」

「大丈夫ですよ。心配しなくても、私はちゃんと出来ます。お兄さんが居ない間、誰が丸猫屋を支えていたと思ってるんですか」

 わかっていた。

 マリーがこう言うだろうって事は。

 彼女がそう言うなら、ちゃんと尊重してあげるべきだと思っていた。

 でも…。

 “誰だって、助けて欲しい時はある。”

 それは大人でも、自分から見て、とんでもなく凄い人であっても同じ。

 自分自身、誰かに頼るのが下手なせいで、それをわかってあげられていなかった。

 他ならぬ自分だって、大人になってから、辛くて現実逃避した事があったのに。

「…何してるんですか」

「頭撫でてる」

「子ども扱いは…!」

「大人だって、こういう事くらいする時あるって。…多分」

「意味が…わかりません」

「マリー、普通はさ…誰でも一人じゃやりきれない事があって、それを愚痴り合いながら、何とか生きるものらしいよ。だから」

「いや、それを出来ないお兄さんに言われましても」

「そう。俺はどうやら、普通じゃないみたいなんだよ。だから…マリーは同じ様にする必要ないでしょ?」

「…私だけ、お兄さんに頼れって言うんですか?」

「大丈夫、俺も頼るようにする」

「嘘っぽさしか感じません…」

 このままじゃ埒が明かない。

「マリー、最近何かあったでしょ」

「何もありません」

「これまでも何度か気になる時はあったけど…最近だと、ティサが来た辺りから」

「はっ!? 気付いっ…何でもありません」

「…マリー」

「………はぁ。お兄さんが気付いていたなんて意外です。私全然ダメじゃないですか…」

「そりゃあ、マリーの事は毎日見てるし」

「それはそうです…けど…」

「ごめん。これまでも俺がちゃんと、頼らせてあげないといけなかった。だから…聞かせて」

 ストスさんともずっと離れて暮らしていて、一番近しいのは自分なのに。長い間、一人で頑張らせてしまった。

 こんな事だから、元の世界でも周りと上手くやれなかったんだろうな…。

「…なんて事は無いですよ」

 マリーは、目線を下に向けたまま話し出す。

「ただ…ティサさんを助けられなかった自分が、許せなかったんです」

 俺も目線をマリーから外して、再び座り直した。

 改めて話に集中する。

「それは…仕方ない事だよ。マリーは身体強化とか、そんなに得意な方じゃ無いし…」

「そうじゃ無いんですよ…」

 まあ、そうだろうな…。

 相槌代わりに言ってはみたけど、そんなどうしようも無かった事で、ここまで悩み続けるとは思えない。

 今回は思うところもあって、こんな事をしているけど、マリーはしっかりした大人だ。それが変わる訳じゃ無い。

「私は、ティサさんを…」

 一体どんな訳があるのか。俺は黙って続きを待つ。

「助けられたのに、助けられなかったんです」

 マリーの口から出た言葉は、まるで懺悔をしている様に聞こえた。

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