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チェーンストアの力8

 どこか、そう遠くないところから地響きの様な音が聞こえる。

「…まずは移動しよう。何かが起きてるとしても、避難所で合流してしまった方が良い」

「そうですね」

「急ごう」

 そのまま歩き出そうとした時、相棒が鳴き、俺の行く手を遮った。そして、頭を振ってジェスチャーしてくる。

 これは…乗れって事か?

 でも人間は意外と重い。積み荷を背負って貰っているのに、俺達まで乗るのは怪我が心配だ。

 相棒はどうにも熱血なところがある。おそらく怪我さえしていなければ、今も先陣を切って現役を続けていただろう。

 頑張りすぎて、歩く事も出来ない身体に…そうはなって欲しくない。

 しかしその瞳からは、確かな意志が伝わってくる。まるで、今はそれどころじゃないと訴えているようだ。

「…よし、じゃあマリーとティサを乗せてくれ。俺とアンシアは走る。これでお互い妥協…どうだ?」

「はい? お兄さんいきなり何言ってるですっ?」

 雨にかき消されない様にする為か、マリーが声を張ってツッコミを入れる。

 それを余所に、俺とショウツーは熱い視線を交わしあっていた。

 こういうの…なんかかっこいいんだよな。

 そして、相棒と俺は通じ合った。

「話は付いた。行こう!」

「いや行こうってぇえええやあああああ゛!?」

 またそんな声を…。

 まあ相棒に早くしろとばかりに服を咥えられ、そのまま背に放り投げられたら悲鳴も出るか。

 ティサは…しれっと乗り込み済みだな。

「アンシアごめん。相棒にも、そんなに無理はさせられないから」

「だいじょぶ…です」

「うん」

 俺達は、そのまま憲兵場へ向け走り出す。

 おそらく力が落ち始めている今、あまり俺が消費したくはないけど…貯蓄は充分にあるはずだ。…行くぞ!

「ええ!?」

 再び驚くマリーを余所に、身体強化した俺とアンシア、そして力強く相棒が走る。

 その間にも、俺は周りの様子を伺っていた。

 本当はゆっくりと歩きながら、問題が無いか探るつもりだったのに…。こういうのは、連携の取れる団体が、自主的にやって行かないといけない。

 町は静けさを保っている。聞こえるのは雨の音ばかりだ。

 そのまましばらく駆け、拓けた場所まで来た。憲兵場はすぐそこだ。

 ………そこから見た景色に、俺は目を疑った。しかしそれは、確かにこちらに迫っている。

 王都のすぐ傍まで、川幅が広がって来ていた。

 ここからは距離があるし、実際はもう少し、近くで見れば余裕があるのかもしれない。それでも明らかに近い位置にある。

 あれへの対策を、出来る限り進めておかないといけない。未だに町中に居る人達を、今度こそ強制的にでも、高い場所へと誘導しないと。

 もう町中の浸水が進んだらなんて言っている場合じゃない。

 この憲兵場なんかじゃ全く収容しきれない。

 団子状態になってでも、とにかく高い場所へ…!

 即行動できる体制じゃ無いなら、最悪、俺が指揮を執って進めるしかない。もし魔術師達の力を借りられそうなら、堤防を作る方向も視野に入れるべきだ。

 俺は憲兵場に走り込むまでの短い間に、思いつく限りの方針をまとめた。

 そして俺達は騒がしく、そこへなだれ込む。

「しょっ、ショウツーストップです! 人を撥ねますよ!」

 相棒が重量感を出しながらブレーキを掛ける。

 まだ、そこまで人で埋まってはいないようだ。端から適当に座っている人達が、何事かとこちらを見ている。

 俺は、努めて冷静に状況の把握を進めた。

 この憲兵場程度の面積が埋まっていないと言う事が表す、現状の絶望的な避難率。

 おそらく仕切っている騎士達も意識が足りず、人をしっかりと奥から詰めさせても居ない。

「アンシア、一度ローナを探して、合流しておいて」

「あ、わかりま――――」

 俺は合意を得られた事だけ確認し、返事も待たずに外へ取って返す。そのまま建物の屋根へと跳んだ。

 王都の様子を、今度は落ち着いて観察する。

 やはり一番まずいのは、今のところあの川で間違いなさそうだ。でもこうなった以上、どこも安全とは言えない。町中から水が溢れだす可能性もある。

 ともかく確認を終えた俺は、憲兵場内部へと戻った。アンシア達と合流する。無事ローナも見つかったみたいだ。

「翔様ー……外…変な感じだねぇ」

 開口一番、ローナにそう声を掛けられた。

 やはり何か、わかる人にはわかるおかしな状態にあるんだろうか。

 俺の視点では、物理的におかしい事はわかっても、不思議な力的な何かは全く見えていない。でもローナだって、感じているだけでこれとわかっている訳では無いみたいだしな…。

「これから…どうするんです?」

「……」

 ティサに抱えて貰っているメルのぬいぐるみは、沈黙を保ったままだ。

 出来ればイエローとも一度情報を交換したいけど、今は見当たらない。

 マリー、アンシア、ローナ、ティサ…それに相棒を含めて全員だ。

「おそらく、このままだとまずい。最悪俺達でも動く」

 …そうは言ったものの、どうする。

 例えば避難誘導へ行くなら、足も必要だし、しっかりと強く意志を伝えないといけない。単独で出来るのはローナと俺くらいか?

 他に、イエローを探すのと合わせて、女王へ直談判も考えるべきかもしれない。家臣の説得だとか、色々あるのだろうと思っていたけど、それももう待てない。

 堤防を今から築く事も、魔術があるこの世界なら可能だ。アンシアに参加して貰うとして、一人では…さすがに厳しい。

 丸猫屋の、全従業員を仮に巻き込んだとしても…。

 人手が、足りない……!

 俺は一つ、避けたくても、あえてやらなければならない事に思い当たっていた。

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