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チェーンストアの力5

 店内は、まるでオープン初日に戻ったかの様に込み合っている。

「食料品は、お一人二品限定でお願いします! また明日いらして下さい!!」

「なぜだ! 今まではそんな制限なかっただろう!」

「皆さんに行き渡るようにする為です! ご協力をお願いします!」

「あたしは家族が居るんだよ! その分買っていいだろう!?」

「それならこっちには10売っとくれ!」

 従業員の出勤人数を増やし、お客さんに対応する。

 人の数はオープン日と変わらなくても、加えて混乱が起きている現在、丸猫屋はてんてこ舞いな状態だった。

 

 事の起こりは数日前―――。

 いくつかの店で、まとめ買いをする人が現れた。この雨の中、濡れるのも厭わず、大量の荷物を運ぶ人達。

 それを目撃した人達は、当然疑問を抱いた。

 ―なぜ、そんな事をしているのか。

 ―最近、変な事が続いている。

 ―そういえば、最近馬車を見ない。

 ―いくつか、閉まっている店がある。

 様々な会話や噂が飛び交った。

 そして、遂に誰かがそれを言った。

「このまま行くと、店から物が無くなるんじゃないか?」

 これまで平和を謳歌してきたこの町の人達も、さすがに気付いた。気付いてしまった。

 そこからは早かった。

 一番に矛先が向いたのが、食糧だった。これは確かに当然と言える。

 この世界にも、干物を中心に保存食はある。それらが一気に、ほとんどの店から消えた。

 我先に我先にと、買い溜めが発生したんだ。

 これだけの町だから、食べ物を扱う店もかなり多い。それでも、時間はほとんど掛からなかった。

 こういう流れが出来てしまった以上、もう動いた者勝ちだった。

 流れに乗り遅れた人達は、遅れて気付く。そしてその時には、普段通りに食料を買う事は困難になっていた。

 でも…これは予想できていた事だった。

 だから俺達丸猫屋は、このタイミングで、計画通り動いた。それが、数量限定販売だ。


 数量限定販売。これには、実はいくつか種類がある。

 例えば、安いから。

 これは基本的に、客引き目的で実施される。その商品自体は、利益が無いどころか赤字に設定する店もある程だ。それと合わせて、店の利益になる商品も買ってくれる事を狙っている。他にも、一度来店して貰う事で、店に慣れて貰う狙いなど、実はそう単純では無い効果を期待している。

 それから、貴重だからと言うのもよくある理由だ。これは逆に、数量限定でも高額な事が多いな。

 供給が足りなければ、物の値段は上がる。元の世界なら、小学生で習う事だ。

 しかし、それ以外にも数量限定で販売を行う場合がある。意図的な、供給のコントロールをする為だ。

 先の二種類にも、同様の意図が含まれてはいる。似た部分、共通する部分もある。

 しかしそうでは無く、それ自体がメインの目的になる場合があるんだ。

 そしてそれが、今の丸猫屋に該当する。


 今の丸猫屋は、この状況下で、まだ食料品の在庫が残っている。

 これは、異変を感じてすぐに大量仕入れをしておいたおかげだ。

 しかしそれでも、一つの店で抱えられる程度の量。この町の人達が揃って買占めに来たら、すぐに在庫は尽きてしまう。それでは意味が無いんだ。

 組織レベルの店だからこそ存在する。商品を、物資を、自分達が流通させていると言う自覚。

 これはお客さんの気を引きたい訳でも、今のところはになるが、商品が足りない訳でも無い。

 より多くのお客さんに商品を行き渡らせる。この為だけにやっている事なんだ。

 事実として、うちが数量限定にしなければどうなるか。当然、食糧を買えない人達が発生する。そうなれば、もう後は大パニックへ一直線だ。

 強盗、恐喝…とくに買い溜めに成功した人達へは、どんな危害が及んでもおかしくない。

 こうした非常時であっても、行けばちゃんと必要な物が買える。

 それを実現する事も、大規模な資産で行動できる、チェーンストアの大事な役割なんだ。


 それにしても…。

 今はこうして、うちの店が何とか支える事に成功している。でも、もし丸猫屋が無ければ、うちの店の中だけで済んでいるパニックが、既に町中で起こっていてもおかしくなかった。

 そう長くは持たない。

 イエローを通して、こういう時どんな事を国がするべきかは伝えてある。それに、こういう長雨の事態はともかく、何らかの非常事態なら、対応した事はあるはずだ。一刻も早く、方針をまとめ、行動を始めて欲しい。

 それに…。

 気にしなければならないのは、この件だけじゃない。

 もっと、根本的な問題も残っている…。


 王都には今なお雨が降り続き――

 町中の水たまりは、徐々に大きくなりつつあった。

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