日常に異変発生?5
夢。
変わらない。
ただ眠るたびに憂鬱な気分になってしまう。
そういえば、カインの隣にブレたまま存在する人影。
まだはっきりしないから、黒いのだと思っていた。
でも、なんだか…違う…?
…!?
待て。つい最近、同じシチュエーションがあった。
落ち着こう。幸い、あの未知の感触は感じない。
俺は、内心驚きつつも、冷静に身を起こした。
「ふぅ…」
思わず安堵のため息が出た。
そこには、おそらく俺の頭を抱えるように眠っていたであろう、ティサの姿があった。
今は俺が離れたので、一人俺のベッドで眠っている。
「何だかんだで、甘えたいのかもなあ…」
そんな事を、つい口に出した時だった。
「ちがう」
思いっきり、ティサと目が合った。
…どうやら起きていたらしい。
「お、おはようティサ」
「…」
「とりあえず、着替えて」
「ち が う」
「そうだよね。思い過ごしだった」
「…きもちわるい」
ええ…。
こ、ここまで言うって事は、本当に甘える為とかじゃ無かったのか?
逆に、だからこそテレ隠し?
状況から相手の判断を読む事は出来ても、やっぱりこういう感情を読み取るのは難しいな。
「…ごめんなさい」
「………ん」
ティサは、納得してくれたのか、着替えを始めてくれた。
朝からどっと疲れ………あれ?
そうでも…無い気がする。むしろ、いつもより気分は良いくらいか?
なぜ…。
………もしかして。
ティサが、何かしてくれたんだろうか。
「ティ」
バン!
大きな音と共に、扉が開いた。
振り向くと、そこにはこちらを見据えるマリーの姿。
急になんなのだと、無言でそちらを見る俺とティサ。
「…」
「…」
あ、まずい。今着替え中だったか。
マリーが騒ぐ前に、とりあえず服を着よう。
…って、ティサも今裸か。
「ティサ」
「…ん」
俺は早く着替えてしまう様に促し、自分も服を着る。
マリーは固まったままで――。
「ななななななだから私が言ったのとは違う言ったじゃないですかーーー!!!」
どっちだよと。
ここのところ、落ち着きも出てきていたのに、やっぱり少し変だな。
「お兄さん! なんで当たり前みたいに一緒に着替えてるんですか! 女の子ですよ!?」
何かするって、まさか本当に男女のそういうあれを指してたのか…。心外過ぎる。
「いや、ティサはまだ子供だよ…?」
「…ん。ティサこども」
あ、子ども扱いは嫌がらないんだな。
「とにかく! やっぱり今日からは他の部屋にして貰いますからね!」
「…や」
「な…なぁ……お兄さん! 何ニヤついてるんです!?」
「いやそんな顔」
「きもちわるい」
ティサ…。
いや良いんだけどさ…。
「あーはいはい。もう行くよご飯食べよう」
「…ん」
「お、お兄さ」
「マリー。…大丈夫?」
「…だ、大丈夫ですよ」
…大丈夫、か。
何を、とも言ってないのに、こんな問いに即、大丈夫なんて。
何かあるって言ってる様なものだ。
でもマリー、頑固だからな…。こう返事をする以上、聞いても答えてはくれない。
しばらく、注意だけはしておこう。
大丈夫。
マリーだって、立派な大人なんだから、上手く折り合いをつけるだろう。ちゃんと一人前扱いしないとな。
ティサには、どんどん色々な事をやらせようと思う。
そうは言っても、日々の仕事を削る事は出来ない。
それなら、ティサにも丸猫屋の一員として、お手伝いをして貰おう。町中の人に見られてしまうけど、下手に隠すよりも、普段から見てる丸猫屋の子だと、周知していた方が安全と言う考えだ。
間違いなく苦労をしている子だからこそ、出来る事を増やしてあげるのが大切。
さあそれを伝えて、いざ指導開始…のつもりだった。
「ティサさん! ではこれから、私に付いて、仕事を覚えて貰います!」
「…ん」
…だったのだが、それをマリーが始めていた。
特に伝えた訳でも無いのに、同じ事をしようと考えたらしい。
しばらく様子を見ていると、妙に気合いが入っている。ほとんど大人の新人教育そのままだ。
俺は…それなら任せるか。
ティサも普通に話を聞いているし、実際店の仕事には、子供でも出来る事だってたくさんある。
それに、子供を育てる時は、厳しくする人と優しくする人が居た方がいい。なんて考え方もあった気がする。
マリーが教育ママをしてるなら、少しずつ補佐をして、様子を見てあげようかな。
「お兄さん」
「うん?」
「何してるんですか。早く仕事に戻ってくださいよ」
「…了解」
念のため、もう一度ティサの様子を確認する。
あまり表情の変わらない子だけど…大丈夫そうかな。
試しに手を振ってみる。しかしそれを見て、ふいっとそっぽを向いてしまった。
うん。ある意味、大丈夫なのは確認できたか。
俺は気を取り直して、自分の仕事へ取り掛かる。
さあ、今日からも頑張って行こう。




