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日常に異変発生?3

 時間はあっという間に過ぎ、その日の夜。俺はいつもの4人を集めていた。

 部屋の中には、ティサと俺を含めて6人だ。メルも居ると言えば居るのだが、今もここに意識は無い。話は聞こえていたりするのだろうか。

「と言う訳で…今日から、この子を預かる事になりました。皆よろしく」

「「「「………」」」」

「…」

 全員、表情は違えど、どう反応して良いやらという感じだ。

 今までも、この世界に無い知識を伝え、散々皆を引っ張りまわしてきた自覚はある。

 でも、今回はそうでは無い。この世界においては、では無く、この世界でも間違いなく常識外な事だ。

 こうなるのも仕方がないか。

 いつもなら、ここで一番に口を開くのはマリーなのだが…その様子が無い。表情が少し硬いか…?

 同じ事を考えたのか、イエローが一度マリーを見て、その後こちらに向き直って口を開く。

「えっと…まずこの子、えー…ど、どうしたの?」

「カインから預かった」

「えっ! そうなんだ…っていやいや、そうだとしても全然わからない…あっ預かるのは良いんだよ? ねっ?」

 イエローは、そう言いながらフードを被ったティサに話しかける。

 対してティサは、何の反応も示さない。部屋の中が、どうしようと言う空気に包まれていく。

 問題は、ここからだな。

「ティサ、自己紹介しようか」

「……おんな」

 …女?

 確かに、紹介すると言って呼んだのは、全員女性だ。ティサだって女の子だし、その方が良いと思っていた。

 でも、今のは………恐れ…?

 一度、場を改めて話を聞いた方が良いだろうか。

 それも視野に入れた時だった。ティサが、俺の手を掴んできた。

 これは…。

 ひとと触れること自体が、嫌な訳では無いのかもとか。それならカインの手を振り払ったのは、恥ずかしかっただけなのかなとか。色々と推論は出来る。

 でも今この場においては…このまま正体を明かす為に、ただ頼ってきていると感じた。

 ティサは、来ていたローブをすべて脱ぎ、皆に姿をさらした。

 俺はそれを見て、今度はこっちから手を握る。頑張れ。

「ティサ…。……人間は…きらい」

「ティサ…」

 この国で見て来た魔族への認識を考えれば、何か訳有っての事なのはわかる。でも今言っちゃうか…。

 カインの苦労が、早くもわかってしまった。

 素直になれないのは、理由もあるんだろうし、性格のせいもあると思う。

 しかし、これは確かに、この世界の人しか居ないところに預けるのは心配だ。

 皆なら、時間さえあればわかってくれると思うけど…。

「ちょっ…ちょっと翔君こっち来て!」

「ティサの事なら」

「いいから! 皆、ティサちゃんお願い!」

「いやでも」

 さすがにこのままティサを残していく訳には―――。

「行けば」

 そう思ったのだが、ティサはさっさと手を振り払ってしまう。

 …この態度がとれるなら大丈夫そうだし、皆が危害を加えるとも思えない。

「じゃあ、ちょっとだけ」

 ティサは、不機嫌そうにそっぽを向いたままだった。


 部屋のすぐ外では、他の従業員とかち合う可能性がある。

 俺達は、少し離れたイエローの部屋まで移動してきた。

 そういえば、そんな機会も無かったし、初めて入ったな。特別な物は、特に無いけど…。

「翔君! さ、さすがに今回のはまずいよ!」

 え、そんな俺がこれまでも、非常にやばい事をやっていたかのような…いや、そんな…まさか。

「ティサを預かるのは、まずかった?」

「…あたしはいいよ。どんな種族でも、一人一人違う人だってちゃんとわかってる。でもそうじゃない人の方が多い。翔君もそれはわかってるでしょ?」

「うん」

「それなら、あんな風に、皆に一斉に紹介なんて駄目だよ…。そりゃあ、マリーちゃん達なら…とは思うけど…。でも、これ以上は絶対駄目!」

「大丈夫、そこは俺もそのつもり」

 指摘はもっともだけど、俺も考えた内容だ。

 こうして場所を変えたのは、ティサを気遣っての事だろう。

「なら、いいけど…。びっくりしちゃったよもう…。しかも連れて来たのがカイン? なにやってんのあいつ…」

「まあ、それなら来たばかりだけど、戻ろう。俺の提案で皆には報告したけど、あの子魔法が使えて、ばれずに置いてあげるのも、割と出来そうなんだ」

「…えっ?」

 俺達は、そのまま俺の部屋へと取って返した。


 部屋の前まで戻り、特にノックもせず、入ろうとした時だ。

「…? 魔力の気配?」

 イエローが唐突にそう呟いた。

 魔力?

 誰かが魔術を使っていると言う事だろうか。こんな部屋の中で? 何の為に?

 俺は、念のため慌てて扉を開いた。

 そこには―――。

「…」

 なぜかローナの両腕にぶら下がる、マリーとアンシアの姿があった。

 正確には、マリーは腕に干されている様な状態で、両腕両足が下に向いている。アンシアの方は、両手でローナの腕に掴まっていた。

 元の世界なら、どんなとんでもないマッチョなのかと言う姿だが、普通に身体強化だろう。魔力の正体はこれか?

 そういう突っ込みどころもあるのだが、マリーがこちらからだと、足が丸見えだ。普段長いスカートばかりで見えないから、妙にドキリとしてしまった。

 すぐに視線を外すと、部屋の隅には警戒したままのティサの姿。…いや、引いてるだけか?

 そもそも、皆はなんでこうなってるんだ。

「…え゛っ!?」

 ここで、今気づいたかのように、マリーが声を上げた。

「あなっなあああぁあああローナさん発射です!」

 何をどこに!?

「んー…? ああ」

 ローナが振り向き、なぜか納得した表情になる。そして…。

 マリーがこちらに飛んできた。

 本当に発射した!

 受け止めて、上手く力をいなす事さえ出来れば平気だけど、すぐ横はドア、そもそも狭い。

 一瞬の事で、自分が力を使えるようになった事も思い出せず、俺はそのままマリーを守って廊下に倒れるしかなかった。

 これ…まさしく修行が足りない…。

 もっと、普段から使う事に慣れておくべきかもしれない。でも、無駄に使うのはなあ…。

 ところで、今も俺の上に乗ったままのマリーは、随分静かだけど、大丈夫だろうか。

 その体勢のまま、俺はティサの様子を伺う。他の皆の事も。

 ティサは、いつの間にか魔法で人間に化けている。自分で魔法の事を話したのだろうか。少しはコミュニケーションを取れたって事だ。

 そして、誰一人、険悪な様子は無い。

 なには、ともあれ………。

 俺達は、新しい仲間と一緒に、スタートを切る事が出来そうだった。

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