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日常に異変発生?2

 カインが、視線を隣の連れへと向ける。

 こっちの子は、まだフードを被ったままだ。

 カインは何かに耐えるように、苦しそうな表情でその子に手を伸ばして………払いのけられた。

 あ、あれ…?

「ティサ…」

 ティサ?

 それがこの子の名前だろうか。

 なんだろう…触るなって感じだったけど。

 カインは伸ばした手を引っ込め、結局そのまま話に戻る。

「お願いしたいと言うのは、この子…ティサの事なんです。それで、出来れば…」

 カインはここで、声のトーンを落とした。そして、今度は視線をドアの方へと向ける。

 おそらく、あまり人に聞かれたくないない話なんだろう。

 でも、今そこで聞き耳を立ててるマリーなら、大丈夫だ。

 今日はマリーの休みの日、おそらく部屋に居たんだろう。実は俺も気付いていた。

「カイン。込み入った話かもしれないけど、そこに居るのは、俺が何かあった時、真っ先に話をする相手だから」

「…」

「カインにだって、そういう相手が居るでしょ?」

「…そうですね」

 実際に相手を思い浮かべたのか、少し表情が和らぐ。しかし同時に、少し悲しげでもあった。

「もうこの際、はっきり言います」

「うん」

「この子…ティサを、しばらく預かって欲しいんです」

「わかった」

 どれほどの事かと思ったけど、なんて事は無い。

 カインは各地を飛び回り、世界の為に忙しい身だ。

 事情がこの後聞けるのかはわからないけど、こんな小さな子だ。身寄りがなくて、でも連れまわす事も出来ず、困っているのだろう。

 …でも、これだけじゃないはずだ。

 カインは即答に驚いたようだが、表情を堅いものに戻して続ける。

「そ、そんなに簡単に受けて貰える事では無いんです」

「うん、何か理由があるんだよね」

 この子の手前、明言はしなかったが、訳有りの子と考えるのが自然だ。

 子供を預かって欲しいなら、この世界ですでに有名な冒険者であるカインだ。頼れる人も多いはず。

 それでもなお、ほとんど面識が無いに等しい俺を訪ねた。

 それは、そうしなければならない理由があるから。

「この子は…」

 うん。

「………魔族なんです」

 その子が、被ったままだったフードを下ろす。

 隠れていた顔が顕わになった。

 頭に小さなツノ、皮膚の色は褐色よりもさらに黒い。眼球の色も違う。間違いなく、普通の人間では無かった。

 この国が疲弊した原因。敵対している魔族領の住人で、あのガーゴイルの様な魔物を使役する種族。

 人々が、揃って恐怖を抱いている対象…。

「へえ…」

 こんな感じなのか。

 この世界、いわゆる亜人種みたいな人達には会った事が無かったんだよな。居ると言う話も今のところは聞いてない。

 なんだか、感動してしまうな。また一つ、異世界ならではの経験をしてしまった。

 思わず触れてしまいそうだったけど、さっきカインも拒絶されていた。控えた方が良さそうだ。気難しい子かもしれないしな。

「改めまして、上木翔って言います。よろしくね」

 ティサは、一瞬だけ驚いた表情を見せた。しかしすぐに、しかめっ面に戻ってしまう。

「………よろしく」

「ティサ…。もっとちゃんと…と言うか翔さん、良いんですか?」

「この子を預かればいいんでしょ? 確かに俺も仕事があるけど…カインに比べれば、移動は少ないから。まあ…ばれたら大騒ぎだろうし、そこは気を付けて貰う事になっちゃうけどね…。本当は、自由に遊びに行ったりとかさせてあげたいけど」

「あの、翔さん…」

「…大丈夫。魔族なんでしょ。ちゃんとわかってるから」

 創作では、もっと様々な種族が出てくるし、人間と仲良く暮らしているお話も多い。

 そしてこの子は、カインが連れて来たんだ。この世界でどう思われていようと、俺が初顔合わせで怖がる必要は無い。何かをされたわけでも無いんだから。

 カインは、俺と違ってこの世界で新しく人生を歩んでる。だから、どうしてもここの常識に囚われ気味になってしまうのかもしれない。

 でも、そこで俺ならと思ってくれたんだから、完全にそうでは無いんだろう。カイン自身も、どう思われるかわかっていて、おそらくこの子を助けているんだろうしな。

 ところで、いつの間にかマリーの気配が無くなってるな。どうしたんだろうか。

「…もう行けば?」

「ティサ! …何度も言うけど、僕はティサを見捨てる訳じゃ無い! 必ず皆を説得して、そして迎えに来る!」

「…知らない」

「ティサ…」

 二人のやり取り。

 どういう経緯でこの子を連れているのかはわからないけど、カインが本当は、他人になんて預けたくないんだとわかる。

 そしてティサの方も、何だかんだでそれなりにカインを信頼してるみたいだ。

 子供の反抗って言うのは、甘えだ。

 こういう態度をとっても、自分の身が平気だと思うから出来る事なんだ。そうで無ければ、こうもつっけんどんな対応は出来ないだろう。

 独り立ち出来てるとか、自暴自棄になるほど追い込まれてたりすれば、その限りでは無いけど、そんな事も無さそうだしな。

 それをわかった上で見れば、ティサ…この子の態度はかわいいものだ。

「まあまあ、その辺で。ティサ、今晩にでも、とりあえずうちの皆に紹介するね」

「しょ、翔さんそれは!」

「大丈夫だよ、多分ね。俺だって誰にでも言って良い事じゃないのは理解してる。人は選ぶから」

「人を選ぶと言っても、この世界の人ですよね? そう簡単な事では…」

「大丈夫。幸いな事に、こういうのわかってくれそうな人ばかりだから」

「そ、それでも…せめて、ばれるまでは隠しておく事は出来ませんか?」

「………」

 俺は、黙ったままのティサをこっそり見ていた。

 皆を紹介すると言った時、少し身体がこわばっていた。何か…似た経験で、怖い思いでもしたのかもしれない。

 でも…ごめんな。

「ティサ」

 俺は椅子から降り、地面に膝を着く。そのまま目線をティサに合わせて続けた。

「俺も、例えどうなったとしても、ティサを見捨てない。でも俺一人で匿い続けるのは難しい。ここには俺以外の人も住んでるし、いつかボロが出た時、味方が居ないとまずい。町中で外にも人が多いしね」

「…」

 ティサはキッとこちらを見つめ返してきた。なかなか強い子だな。

「だから、きちんと準備をして、非常事態に備えておきたい。だから紹介する。ごめんな。俺はこういう性質なんだ」

「…別に…勝手にすれば」

「よし」

 俺は友好の意味を込めて、手を差し出した。

「…」

 ティサは少し迷った後…その手をパチンと叩いてきた。

「こらっ」

「知らない」

 なんだか、親子みたいだな。いや、そこまで歳は離れてないか?

 カインは必死なんだろうけど、見ていて安らいでしまう。

「さて、どうしようかね。この子、ずっとこのローブ着てしか、部屋の外にすら出れないのも不便だろうし」

「…そんなの、簡単」

「えっ…どういう事?」

 今驚いたのは、カインの方だ。

「魔法で幻影張ればいい」

 そう言ったと思ったら、ティサの姿が一瞬ぶれ、次の瞬間には、普通の人間に見えるようになっていた。

「な…なんで今まで使ってくれなかったのさ! その姿ならこんなっ…」

「だって……魔族だもん」

「あ…」

 自分は魔族。それを隠すのは、納得がいかない…もっとシンプルに、嫌だと思っていたのかもしれないな。

 今こうして姿を隠す術を明かしたのは、何か、心変わりする事でもあったんだろう。

「これなら、普通に遊びにも行けそうだね」

「あ、待って下さい! それなら、他の方に紹介するのも、無しで」

「いい、する」

「よし」

「そ、そんな…」

「例え姿を変えていても、それは魔法でやってるんでしょ? 見破られたりとか、何かが起こる可能性はそのままだからね」

「いいから行けば」

「カイン、もしかして急ぎなの?」

「え、ええ…まあ……」

 ああ…またしても、積もる話は出来ないのか…。

 むしろ、前回よりも短いな。

「仕方ない…。とにかく、ティサの事は任された」

「……よろしく…お願いします」

 カインは、深々と頭を下げていた。なんだか、こういうお願いのされ方は久しぶりだな。

「ティサ」

「…なに」

「必ず、僕が迎えに来るからな!」

「…はやくいけ」

 ティサはそっぽを向いて、そんな言葉を返していたが、そこをカインに狙われ、頭を撫でられていた。

 やはり嫌なのか、それをバチンと振り払っている。

 カインはそのまま、名残惜しそうにティナを見つめ、あっけなく窓から跳び去って行った。

「…」

「…」

 そうだな…。

 色々問題もあるけど、とにかく引き受けた以上、ティサの事を考えよう。

「ティサ」

「…」

 こっちに目線だけ向けてきてる。アンシアとは、違う意味で口数が少ない性格なのかもな。

「とりあえず、俺の前ではそれ、解いていいよ」

「…?」

「魔術…いや、魔法って言ってたっけ。そういえば、言い方が違うね。魔族はそう呼ぶのかな」

 それとも、これも別種の存在か?

「…いい。困るんでしょ」

 何かが起きたら…って事かな。

「部屋の中なら、平気だよ。何か、理由があったから、今まで使わなかったんでしょ?」

「…」

 ティサは、少し迷った後、魔法を解いた。

「どこでもって訳にはいかないけど、ごめんね。じゃあ…俺は一度、仕事に戻るから、また夜にね」

「…えっ?」

「その時、皆に紹介するから…。部屋の中は、自由に使っていいよ。暇かもしれないけど…紙とペンはあるから。さっきの魔法使って、外に出てても良いし」

「え……」

「さっき初めて会った店に居るからね。また後で」

「あ…ん」

 うなずいたのを確認し、俺はそのまま、カイン同様あっさりと部屋を後にした。

 さすがに、仕事優先で即ほったらかしにした訳じゃ無い。

 少し居心地が悪そうに見えたし、実際会ったばかりのおじさんと、ここから半日、夜まで部屋に籠って会話もきついだろう。

 それに、こういうのは、特別扱いしない方が良い。

 まだ、初めて会った頃のアンシアより小さいみたいだけど、割としっかりした子みたいだしな。

 気軽に目を離す事で、こちらも信用していると言う証明にもなる。これは、ティサにはまだわからないかな?

 さすがに、警戒とかでは無く心配なので、たまに様子を見に来よう。寂しがってるかもしれないし。


 さて。

 俺も、皆にきちんと説明できるよう、考えておかないとな。

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