目覚めは、また2
人は変われるようで変われない。
しかし、単にそうとも言い切れない。
“考えが凝り固まった大人”と言う言葉を耳にする事がある。
こういう事があった時は、こうする。
あっちについては、自分はああする。
ずっとそうして、判断をして人は生きている。
それが、自分にとっての当たり前になり、常識になる。
人は多かれ少なかれ、最初は考えているんだ。
しかし、それをいつしか忘れてしまう。
新しく考えなくなってしまうんだ。
過去と同じ様に、行動して終わりにしてしまうから。
それは、成長が止まる事と同義だ。
だから、歳を取れば取るほど、人は変われなくなってしまう。
まあもっとも、どれだけ意識して考え続けても変われない。
それどころか、そこから逃げてしまう。
俺みたいな、情けない大人も居るけれど…。
とにかく…。
他人の考えを変えるなんて、そう簡単では無いって事だ。
俺は、再び指揮官の様な立場に納まっていた。
どれほどの人材が抜けたとしても、結局なるようになる。
そう頭では理解していた。
ましてや、俺はそれほどの人材でも無いし、もし誰かが倒れても、組織として動き続ける事が出来る。
そうなる様に、丸猫屋を作り上げて来たんだ。
まあ、倒れた事に関しては、それぞれ皆から、お叱りを受けてしまったが…。
でも、もうあんなヘマはしない。
思い返せば、倒れる前に、皆から様々な提案が出ていた記憶がある。
しかし当時は、もう無理が来ていたのか、聞き入れる事が出来ていなかった。
聞き流してしまっていたと言ってもいい。
途中から、何を言われていたのか、聞いていたし、返事もしていたはずなのに、覚えていない事まである。
これが…いわゆる頑固頭への入り口だったのだろうか。
俺もいい歳だしな…。
強制的に、反省の機会を与えてくれたメルには、感謝しかない。
主要メンバーは、皆俺より年下ばかりだし、まだまだ新鮮な目線で仕事をしているはずだ。
成長だってするだろう。
俺は、皆のそういうところを、これからも頼って行かないといけないな。
ラウンダーは、そのままイエローに続けて貰う形になった。
元々そういう事をしていたし、性格にも合っているみたいだ。
これだけでも、俺の負担はかなり減った。
その分は、把握、管理、判断に使う事が出来る。
そういえば、俺が乗っていた地竜はそのまま彼女が使っている。
いつの間にか、ショウツーなる名前も貰ったらしい。
翔Ⅱ…と言う事なのだろうか…?
仮にそうだとして、なぜそう名付けられたのか。
…あとこの名前、皆が呼ぶ時に“ウ”が伸ばされて、下着の様に聞こえて良くない。
この世界には、そういう単語は無いみたいなので…まあ、俺が気にしない様にすればいいだけだ、うん。
俺自身は、極力名前を呼ばないようにした。
時折、なぜかマリーから鋭い視線が来るのは、なぜだろうか…。
新しい店を含め、丸猫屋は好調だった。
元々、この世界の商業事情からは、何段階も飛びぬけた存在だ。
何らかの悪意やトラブルさえなければ、赤字を作る理由は無かった。
まあ、避けられないからこそ、トラブルと言うんだが…。
小さなものなら、きちんと皆が対処してくれた。
俺はそれを、後から把握する。
良い対処法がわかっていなければ、指導を行った。
いつの間にか、教育部みたいな立ち位置にもなりつつあるな。
そんな中、こんな噂が耳に入った。
カイン率いるパーティが、今魔族領に居ると言うのだ。
どうにも不確かな情報で、真偽のほどはわからない。
内容も、魔族を滅ぼす為に攻め行っただの、伝説の素材の探しに行っただのと様々だ。
あちらの事はわからないが、もし本当なら、やはり苦労も多そうだ…。
思えば、もう年単位で、彼とは再会出来ていない。
また会えるのはいつなのか…。
それまでに少しでもこの国を良くして、物資に恵まれた生活を、どこでも送れるようにしてやりたい。
前線のバックアップも、世界を救う為の立派な貢献だ。
どんな仕事だって、誰かの役に立つからこそ、成り立っているんだからな。
そういえば、あれからも例のあれは、各地で出現を続けているらしい。
目撃証言が増えた事で、名称も付いた。
今は“ノート”と呼ばれている。
幸い、各地の騎士隊により、今のところは対処が間に合っているみたいだ。
ノートに触れてしまった人も、長期間の休養は必要になるが、死者はまだ出ていないらしい。
石の町の隊長は、本当に異例だったらしく、騎士隊への評価はおおむね良いもので落ち着いている。
国民から見れば、女王が変わって最初の大きな変化だ。
問題が相次いで、不信感が生まれたりしなくて本当に良かった。
世界は進んでいく。
自分が関与していなくても、身の周りは変わって行くし、全く関係の無いどこかも、同じ様に変化を続けている。
自分が知らなくても、世の中は勝手に動いていく。
それなら、自分はもっと、やりたいようにやっていい。
そう言う考え方を、どこかで聞いた。
その時は、俺はもう自分を閉じた後で、受け入れる事が出来なかった。
でも、今ならそれを叶えつつ、やるべき事も完遂できるかもしれない。
それは、自分としてはとても強欲な事で、良くないと感じる事だけど…。
不思議と今は、出来るところまでやってみようと思えた。
俺は今、一つの計画を進めていた。
仕事と直接関係のある事ではあるが、本当はしなくてもいい。
そして、今はバラバラに頑張っている皆が、きっと喜んでくれる。
そんな計画だ。
もちろん俺も…うん、そうしたい。
そうか…俺が、したい事なんだな……。
…きもちわるっ!
我ながら、この歳で何考えてるんだかな。
さてだからと言って、丸猫屋の成長が少しでも遅れるのは問題外だ。
「ニイちゃん! 呼んでたって人達来たよ」
「ありがとうございます。後は俺が」
その為に…今日も人材育成と行こうか。
各地で店舗が定着し、少しだけ有名になった丸猫屋。
半年もサボっていた俺にはあっという間だったが、皆にとっては決して短く無かっただろう。
でも皆のおかげで、いよいよ進む事が出来る。
また一つ、丸猫屋を次の段階へ!
皆様ご無沙汰しております。らいずです。
今回は章が変わってはいたのですが、状況が状況なので語りをずらしました。
以前も語ったのですが、このお話は、自分の意向で、ほぼ翔の視点での語りのみで構成しています。
その為、もしかしたら、翔の視点から見た物が、この世界で起きた客観的事実では無いかもしれません。
そういうところも、想像して楽しんでみて欲しいと思っています。
ではでは、章の途中ですし、今回は短めで。
翔たちはこれからどうなって行くでしょうか…。
今後とも応援よろしくお願いします!




