表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/218

改革、石の町

 あの日の事件は、あれから数日掛けて処理されていった。


 残念な事に、騎士隊隊長は、俺の睨んだ通り黒。

 その辺りは、イエローが介入して、速やかに解決したみたいだ。

 あの隊長さんにとっては、こんな辺境ではあるけど、その代わり監視も無く好きにやれる…そんな所だったのだろう。

 まさか国の姫様が、この町に居るとは思っていなかっただろうな。

 悪い事は出来ないものだ。


 曖昧だった緊急時の動きは、この町の人達が、きちんと協力して確立した。

 町長さんや、ママさん…それからローナも手伝いに行っていたのは、失礼ながら少し驚いた。

 俺も、元の世界で緊急時のマニュアルがどうなっていたかを伝えて、ほんの少しだけ助力した。

 場所や当番決めなどは、お任せだ。


 そして…肝心の俺達が頑張る部分。

 この町全体の市場(しじょう)改革だ。

「…とまあこんな感じです。要するに無駄を削っていけば、休日制度を採用しても、今まで通り生活できる訳です」

 うんうん。

 まずは、俺達が実際に使っている仕組みから、町の人達に伝えていった。

 その方が、説得力あるからな。

 マリーは今、せっかくだからと言う事で、例の制服を着ている。

 おそろいと言うだけでで、簡素なワンピースにエプロンを合わせた、この世界では珍しくない格好なのだが…。

 正直、俺にとってはこう…良いなと感じざるを得ない姿だ。

 お料理教室の新米講師みたいな…?

 実際に教えている事は、現実的な流通産業知識だけどね。

「それで、今日は以前から言っていた例の話をするのですが…お兄さん!」

「はいっ!」

「その顔でずっとその…こっち見てるのは止めてください! いつもは気が付いたら仕事ばかりしてるのに…こういう時こそですね――」

「あーマリーや、皆を待たせておるでな。こ奴がこんななのは、前からずっとじゃろう」

「あっ、メル…アンシアさんも邪魔しないでくださいっ。絶対また私が嫌がる事して楽しんで」

 二人ともありがとう…。

 そして、断じて違うから!

 からかう目的とかで見てた訳じゃないから!

 身に染み付いた、余裕を持った行動をしているだけなのに。

 それでほんの少し、交代までの間見てただけだ。

「えと…それじゃあ、次は俺の方から…」

 うわ。

 奥様方にめっちゃニヤニヤ顔で見られてる。

 やりづらい…。

 まあ、これくらい緩んでいた方が、これから話す内容的にはいいか…?

「まず最初に、これは対等な立場としての、依頼、提案です。その上で、返事を下さい」

「いいから話しなー。顔キリっとしてね!」

 はい、すみません反省します。

「これから話すのは、この町の市場全体の改革についてです。具体的には…丸猫屋で働く、もしくは、合併してもいい方を募集します」

 俺は、脱線した流れを戻して話し始めた。


 この世界で今足りないもの。

 それは、物であり、お金であり、人手であり…つまりは無い無い尽くし。

 本当は、気を付けるべき点が他にもある。

 しかし現状は、とにかく効率を上げるのが第一目標だ。

 その為の吸収、合併の話と言う事になる。

 はっきり言って、この町は店が多すぎだ。

 店は、お客さんに売るだけでは無く、生産者さんから買うのも役割になる。

 店の数を減らし、まとめると言うのは、この買い付けの効率化を図ると言う事だ。

 この町を、一つの集団だと考えた時。

 それぞれの店が、バラバラに仕入れを行っているのは、とてつもなく無駄が多い。

 レジ会計で、全員がばらばらに支払いをするのと同じだ。

 人手も、時間も有限。

 少なくとも、同じ仕入れ先の店は、一括買い付けの仕組みを確立させたい。

 しかし、そういう細かい事を調整し始めると、これもまた手間だ。

 そこで総合店…スーパーやホームセンターみたいな形態が良いと言う話になる。

 買い付けをする時、その管理が一か所で済むからだ。

 もちろん、規模によっては数名で管理が必要にはなる。

 それでも、例えば十軒あった店で、十人が仕入れに時間を使うより、一か所で管理し、数人で仕入れの管理をした方が効率的だ。

 一言で仕入れとか、買い付けとか言っているけど、実際にやろうとすると、取引先との兼ね合いやら、金銭管理やら、本当に様々な作業が出てくる。

 それを小さな店ごとにやっているんだから、もったいなさすぎるって話だ。

 そもそも、普通でも総合店の利点は多いのに、この世界の現状においては、さらにいくつもの意味がある。

 例えば、元の世界では小さな個人店でも、当たり前に使っていた商業知識。

 それすらも、この世界の人達は持っていないからだ。

 俺は自分の店だけを発展させたい訳では無いので、その知識をどんどん広めてはいる。

 でも、それを臨機応変に使う。

 さらには、正しく活かせているか判断し管理する…。

 それは、すぐにはなかなか難しい。

 なら、いっそ丸猫屋に来ませんか…となる訳だ。

 うちの従業員になってくれれば、俺を始め、先行して学んできたメンバーが、身に付くまで指導を続けることが出来る。

 さすがに、すべての店を巡回してサポートするのは無理だからな。

 その上、人手も確保できて一石二鳥だ。

 丸猫屋の拡大と同時進行で、この国全体の商業構造を一気に押し上げる。

 勝手にノウハウを盗んでくれるのを、のんびり待っている余裕は無いからな。

 そして、この方法はどこでも使える訳じゃ無い。

 今回だって、この町と接点があったからこそ、ここまでしっかり講習会なんて開けているんだ。

 まだ丸猫屋の金銭的余裕も少ないから、あえて時間をかけているに過ぎない。

 この先は、普通に店を出して販売競争に勝ち、他の店が厳しそうなら話を持ちかける。

 そんな動きになる町も出てくるはず。

 …。

 店を拡大し、各地の他店を潰して回る。

 …見方によっては、完全に悪者のそれだな。

 でも、だからってすべての町で、信用を勝ち得るまで待つ事は出来ないんだ。

 それに、落ち着いたら、その辺りのケアもなんとか……出来ればと思ってる。


 …さて、おおよその事は話し終えたな。

「そんな訳で、もし構わないと言う人が居たら、うちで働きません…か?」

 目の前は、何言ってんだこいつ…そんな顔で埋め尽くされていた。

「…そうなるか」

 やっぱりな。

「そうなるか、じゃないですよもう。皆さん、今日の話は、それとなく聞き流していいですので。うちで働きたいって方は、私かお兄さんに言って下さい。お疲れ様でした。解散ですー」

 いつの間にか横に居たマリーが、解散の挨拶をすませる。

 市場の人達は、今の話について意見を交わしつつ、それぞれの帰路についていった。

「マリー…さっき連れていかれたんじゃ」

「そのやり出すと止まらないの、本当に直してください。あれからどれだけ経ってると…」

「翔…さん。ほとんどの人は…すぐにはわからないと、思います」

「そこは理解した上で、それでも目的をオープンにする為に話したんだけど…」

 世界の為に商売を。

 そんな話をしても、この世界の人にとって現実味が無いのは、村の件でわかっているつもりで――。

「お兄さんは、色々複雑に考えすぎです。もっとシンプルで良いって思う時がありますよ」

 ――全部先を読もうとしてねえか? 臨機応変に動け。考えすぎなんだよてめえ。

「………そうだね」

「翔…さん?」

「…お兄さん、どうかしましたか?」

「何でもないよ。とにかく、これからまた忙しくなる。今日はもうゆっくり休もう」

「…はい」

 そうだ。

 まだ…まだこれからだ。

 良く考えて、効率良く進めていかないと。



 さっき唐突に、昔の事を思い出した。

 疲れでも溜まっているのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ