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石の町トラブル8

 無事あの何かを撃退し、一息…とする前に、もうひと仕事あるらしい。

 どうやら詰所では、まだ事が終わっていない可能性があると言う。

 イエローとアンシアは、念のためにと、足早にそちらへと戻っていった。

 やっぱり何かあったみたいだ。

 俺も一緒に行こうかと思ったが、起きているのは荒事らしく、辞退する形になった。

 間違いなく足手まといだ。

 …ちなみに急いではいたけど、二人は普通に走って行った。

 あの移動は、やっぱり無理があるみたいだ。

 そうなると、何をするべきか。

 騎士さん達は、さすがに堪えたのか、今は地面に座り込んでいる。

 それなら、ゆっくりでもいいから、俺が向かうしかない。

 マリー達のところへ戻って、避難を中止しないとな。



 重い身体を動かし、マリー達が向かったはずの居住区へと戻ってきた。

 皆は……居た。

 いや、何で居るんだ?

 速やかに行動していれば、もう町の人を含め、全員避難が完了していても良い頃だ。

 それなのに、むしろ何かがあったかのように、若干人が集まっている。

 無関心だったり、まるで行動していなかった人が居た状況に比べれば、一歩前進しているのかもしれないが…。

「マリー! ローナ、メル!」

「お兄さん?」

「わかってはおったが、大変だったようだな」

「ふらふらじゃないですか! ローナさん、一緒に来て下さい」

「う、うん…」

 あれ…。

 ローナ、なんだか元気ないな。

 とにかく、報告が先か。

「あれの撃退、無事に完了したよ。だから避難した人達に伝えて、戻って貰おう」

「よかった…。本当にそうだったんですね」

「マリー、お主なんじゃ。信じておらんかったのか」

「い、いえ、そういう訳じゃ無くてですね。やっぱり心配は心配だったと言いますか…」

 どうやら、メルがすでに感知して、あれが撃退出来た事はわかっていたみたいだな。

 それなら、どうしてこんな、中途半端なところで止まっているんだろう。

 それに…。

「ローナ?」

「んぅ…」

「あ、あー…。ちょっと、トラブルがありまして…」

 ローナを呼んでみるが、しょんぼりと項垂れたままだ。

 代わりにマリーが、何とも言えない困った表情をしている。

 やっぱりこっちでも何かあったのか。

「翔」

 メルが俺の方へと跳び移り、耳打ちをしてくる。

 その内容によると…。

 どうも、ローナが過去にナンさんとやらかした事の一つに、言い逃れ…いわゆる嘘付きもあったらしい。

 そのせいで、一番信用を得られるはずがそうはならず、一悶着あったとか…。

 おおかみ少年かと。

「うち…もう反省したのにぃ」

「う、うんうん。そうだよね」

 これは多分、また嘘だろって責められた訳じゃ無くて、純粋に信じて貰えなくてショックって感じだな。

 実際、俺が出会ってからはそんな事無いし。

 これも、ずっと時が止まったみたいに、何も起きなかった弊害なのかもしれない。

 昔の事が、変わらずに印象に残ったままだったんだ。

「それで、今の状況は?」

「それが…」

 ここまでの詳しい流れはわからない。

 しかしマリーの話と、周りの人達の会話から、おおよその状況はわかってきた。

 皆、困惑しているんだ。

 長い間、何も変わらずに過ごしてきた。

 そこに、騎士隊がやってきて、今日本当に何かが起きていたと聞いて…。

 怯えているんじゃなく、戸惑っている。

 これは…良くない。皆、状況に置いていかれている。

 事態を正しく把握していれば、もっと恐怖を感じ、現状に危機感を抱いているはず。

 しかし、実際はそうなっていない。

 本当に何かあったらしい。

 そんな、他人事の様な会話をしている。

 でも、そんな中に混じって少しだけ、不安を顕わにした声があった。

 最近変わった事が多くて、この先このままで平気なのか。

 これは、チャンスだ。

 この町の人に話をするなら、今なんじゃないのか?

「…皆さん、聞いてください!」

 俺は腹を括り、この場の全員へと言葉を投げ始めた。

「皆さんは…今日、死んでいたかもしれないんですよ?」

「ちょっ、お兄っ……」

 マリーが俺を静止しかけて…それを途中で止める。

 多分、信じてくれたんだろう。

 考え無しにこんな事を言ったりしないと。

 その信頼に応えられる様に、町の皆に言葉が届く様に…はっきりと!

「実際、被害者が出ています。これは確認すれば、はっきりする事です」

「な、なんだい。いきなり…」

「でも、言ってる事は本当だよ。ほらさっき運ばれて…」

「見た方が居るなら話は早いです。あの騎士さんが回復するかは、経過を見ないとわかりません」

 俺が救助をお願いしていた騎士さんの事だ。

 寝かせた場所に居なかったので、大丈夫だろうとは思っていたけど、ちゃんと回収して貰えているようだ。

 あの死んだ様な肌の状態について、知らなかった人達にも伝わっていく。

 俺は今、不安をわざと煽っている。

「人をあんな風にしてしまう化け物…現れたのがこの辺りだったら、大変でしたね」

「べ、別にそうだったとしても、騎士様達が守って」

「今日のあの状況で、被害者がゼロで済みましたか?」

「…」

 間違いなく、もっと被害者は出ていたはずだ。

 あんな、フラフラとした避難では。

 そもそも…騎士隊をすべての村や町に配置し、国民を守る?

 確かに立派だし、必要な事ではあると思う。

 でも、甘やかし過ぎだ。

 この国の政治は、過保護が過ぎる。

 国民自身にも、赤ん坊のままで居て貰っては困るんだ。

 自分達で、出来る事はやって貰うべきなんだよ。

 守るばかりが、正しいとは限らない。

「そ、そうだね。ちゃんと、同じ事になった時、どうするか皆で話して」

「せめて、避難する場所だけでも…」

「そうですね、大事だと思います。それに…危険はそれだけではありません」

 騎士隊の在り方については、またイエローとでも話そう。

 ここまでは、今後のこの町の為に、個人的に言っておきたかった事。

 ここからが本命。

 申し訳ないけど、この機を利用させて貰う。

「先日から、この国の法も変わっています…。例えば、商売の制限とか」

 一息置いて、こう続けた。

「このままでは、やっていけなくなる方もいるのでは?」

 俺は、自ら爆弾を投げ込んだ。

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