表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/218

石の町トラブル6

 悲鳴の上がった場所にたどり着くと、まず倒れている人が目に入った。

「マジか…」

 そして次に、いつかの()()だ。

 本当に現れていた。

 どうやら、俺とアンシアが当たりを引いてしまったらしい。

 騎士隊が必死に突撃を躱し、引き付け続けていた。

 その中には、先程別れた副隊長の姿も、噂の隊長の姿も見当たらない。

 なんだこの状況は…このいざという時に、指揮するべき隊長格不在で敵に対応してどうする。

 副隊長がうちの店に来ていたんだから、当然隊長は勤務中。

 騎士隊がここに居るなら、この場に隊長も居るはずじゃあないのか?

 そんな風だから…こういう事になる!

「アンシア、とりあえずあっちの女性避難させて。俺は倒れてる人の方を」

「わかりました」

 倒れた人の傍には、力が抜けたように座り込んでいる女性も居た。

 悲鳴を上げたのはこの人だろうか?

 そして倒れている方の人…騎士甲冑に身を包んだその人を、俺は背中に担ぎ、戦闘場所から距離を取る。

 そう、倒れているのは、騎士の一人なのだ。

 肌の色が青白くなっていて、生気が抜け落ちたようになっている。

 魔力欠乏…いや、似ているだけで違うか?

 しかしおそらく、あの何かに触れてしまったんだ。

 俺も以前、ほんの少しだけあれに触れた。

 それだけで、力がごっそりと抜け落ちた。

 避け損なえば、こうなるのも無理は無い。

「翔…さんっ」

「うん。戻ろう」

 幸か不幸か、この辺りはもう、人が残っていなかった。

 町の人がすぐに巻き込まれたりはしないはずだ。

 俺とアンシアは、先程の女性を丸猫屋の方へ走らせ、倒れた騎士は現場から距離を離して寝かせてきた。

 女性には人手を呼んで貰い、騎士さんを回収して貰えるように頼んである。

 後は、あれを何とかすれば、ひとまずこの騒ぎは解決のはずだ。


 俺達は、再び戦闘が行われている場所へと戻ってきた。

 しかし…状況は変わっていない。

 訓練をしているはずの騎士隊が、先日の俺達と被って見える。

 それほどに精彩を欠いた動きだ。

「どう…しましょうか」

「うん…」

 動きが悪いとは言っても、敵を引き付けたまま戦闘を維持する事は出来ている。

 ただし、余裕は無さそうだ。

 だからこそ、無闇に声はかけず、先に負傷者を避難させた。

 助太刀するにしても、それで今の均衡が崩れたら意味が無い。

 それに、あそこに飛び込んで行って、敵を排除できるわけでも無い。

 イエローがこっちに来ていれば、状況も違ったのに。

 あの敵に対応出来る特殊な魔法具を、彼女は所持している。

 村でもそれで撃退したんだ。

 そういえば…その魔法具はどうしたんだ?

 騎士隊も所持しているはずなのに、使っている様子が無い。

「…ここに居るより、一度イエローを呼びに行こうか」

「はい」

 向こうがどうなってるかはわからないけど、この場より優先すべき状況って事も無いはずだ。

 そうして振り向いたその時だった。

 戦闘中だった騎士隊達が、動揺した声を上げた。

 再び向き直ると、一人新たに倒れているのが見える。

「おいおい…」

「…わたし、騎士さん達を手伝って…来ますっ」

「アンシア待って。…逆にしよう」

「そん…な」

「大丈夫。アンシアが心配だからってだけじゃ無い。皆が助かるには、最速でイエローを呼んで来ないといけない。そうでしょ?」

「で、でも…」

「情けない話、敵が魔物なら、アンシアが残った方が良いのかもしれない。でもあれが相手じゃ、アンシアだって相性は良くない」

「………」

「じゃあ、出来るだけ早く戻ってきて。あの人達と、俺が時間を稼いでおく」

「…はいっ」

 アンシアは、それはもう凄い速度で駆けて行った。

 さっき一緒に走っている時は、かなり抑えていたみたいだ。

 本当、悔しいな…。


 とうとうバラバラになってしまった。

 なんとも、上手く行かない事の多い事だ。

 …さて、俺も自分のやるべき事をしよう。

 本当は、騎士さん達を連れて、全員で逃げたいところだ。対抗手段が無いんだから。

 でもあれ…少なくとも知る限りでは、ひたすら近くの人間を追ってくる。

 逃げても同じ事だし、仮に捕捉範囲外に逃げ切ったとしても、それで町の人を狙われては、状況がむしろ悪化してしまう。

 人の居ないここで引き付けていた方が、都合が良いって訳だ。

「騎士隊の人! 今からしばらく俺が引き付けます! 落ち着いて体勢立て直して!」

 俺はタイミングを見計らい、騎士隊とは別の方向から敵に近づいた。

 そして一気に距離を詰め、敵を請け負う。

 そのまま数回躱しながら、騎士隊とは逆へと釣った。

「き、君は…いや、とにかく気を付けろ! それに触れては駄目だ!」

 大丈夫ですよ、知ってます。

 にしても、この慌てた言い方。俺に忠告と言う感じじゃない。

 副隊長さんと同じく、この人達も敵の情報を知らなかった線が濃厚か。

 そのまま戦闘に入って、正面から接触した…そんな所だろう。

 どうなっているのか問い詰めたいところだが、それも後だ。

「皆さん! 落ち着いたなら、そっちにもパスしたいんですけど、平気ですか!?」

「あ、ああ…すまない! 助かった!」

「ま、待てよ! 俺は無理だ。躱し続けるなんて、やった事無いんだぞ!」

 なるほど…。

 なんであれほど動きが悪かったのか、良くわかった。

 戦い方なんて、当たり前だけど色々ある。

 あの人達は、敵の攻撃を受け止めて捌く。そんな戦い方を学んで来ていたんだろう。

 騎士だし、守るものがあっての戦いが想定出来る以上、不思議では無い。

 魔術なのか、槍術剣術なのかはわからないが、何らかの手段で、これを受け止め、光の魔術で撃退するつもりだったんだ。

 しかし、実際には物体どころか、魔術で作ったものまで擦り抜けてくる。

 むしろこの想定外を喰らってもここまで耐えたのは、さすがに訓練してる人達と言ったところか。

 あの悲鳴が上がった時から考えて、かなりの間踏ん張っていたはずだ。

 不慣れでも、戦闘能力はちゃんと高い。だから何とかなっていた。

 なら…。

「俺を良く見て!!」

 敵の動きは直線的だ。

 それでも躱し続けるのが難しいのは、かなりの高速である事と、ある程度は追尾して来るからだ。

 普通に横へ避けようとすると、そのまま轢かれかねない。

 こういう敵の動きから逃れるなら、普段から俺が使っている動きが適している。

 怖がるから、かえって危険になるんだ。

 引き寄せて、その後斜め()に躱す。

 敵の後ろに身体を入れるイメージだ。

 そうすれば、相手はこちらにぶつかる為に、かなりの角度で曲がる必要がある。

 そして、あいつはそれほどの方向転換はしてこない。

 この動きは、元の世界から使っていたけど…この世界に来て、かなり洗練されたと思う。

 以前よりも、落ち着いたまま敵を見て、引き付けられるようになったからだ。

 これは、魔物と言うとんでもない脅威で肝が据わったからか。

 それとも…あの夢のせいで、死への恐怖に鈍感になってしまっているのか。

 ……まあ、強くなれたとも言えるのかもしれない。

「皆さんなら、落ち着けば同じ様に躱せるはずです。俺よりも身体能力は高いんですから!」

「…すまない! もう落ち着いた。参戦する!」

「くそぉ…やってやる!」

 ここで逃げたりしないのは、さすが、信頼出来る騎士さん達だ。

「うちのアンシア…えと、従業員が、こいつに対抗出来る人を呼びに行ってます。このまましばらく、持ち堪えましょう!」

 このまま耐えれば大丈夫のはずだ。

 出来るだけ早く、戻ってきてくれ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ