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石の町トラブル4

 今日は、いわゆるお忍びで来たらしい。

 先日見た甲冑姿では無く、至って地味な服装だ。

 目的を考えれば、当然か。

「翔君、奥の部屋使おう」

「ああうん、救護室なら…って使おう?」

「あの方も同席を? よいのですかリ――」

「いぃぃいの! ほら行きましょう、副隊長様!」

「…わかりました。イエローさん」

 うーん…この呼び辛そうな言い方。

 というか、俺も同席するのか。

 まあ確かに、さっきあんな事を話していたばかりだ。

 先入観無く…少なくとも、イエローとは違う目線で判断できる俺も、聞いていた方が良いか。

 イエローも多分、そういう意図だろう。

「マリー、ちょっと店任せる」

「…変な事しないで下さいよ」

 何するっていうんだ…。


 腰を落ち着け、俺達は話を始めた。

「それで実際、どうなの?」

「町の噂について…ですね」

「うん。何か訳があるなら、あたしにだけでも、教えて欲しいんだ」

 副隊長さんは、顔を伏せたまま悩んでいる様だった。

 本当に話すべきか、話すとしてどこまで…色々と難しい立場だろう。

 しばらくは二人の話を見守るつもりだけど、助け舟が必要そうなら加わろう。

「私にも…わからないのです」

「ここへ来る前も含めて、隊長に何か…何かあったりとかは?」

「私の知る限りでは…何も…。しかし! 何も無いはずはありません! 私を含め、この町に配属された隊員達は、皆あの人に習って、騎士として成長してきたのです。噂の様な事をするとは…とても思えない」

「あたしも、同じ意見なんだけどね…」

 図らずも、俺が過去に経験したのと、似た様な状況だ。

 まだそうと決まった訳では無いが、俺には隊長さんの思うつぼの様に見えてしまう。

 築いてきた信用を盾に、自由を手にしたつもりで居るのではないか。

 そんな古株の騎士で、信頼も厚いなら、もっと王都に近い町に配属されてもいいはずだ。

 それなのに、こんな辺境の町に来ている。

 監視を逃れるため…とか。

 その上、部隊の構成が、直属の部下ばかりと言うのも気に掛かる。

「有能な若い騎士に、自らの昇進を譲った事もあります。今回の配属だって、より魔物と遭遇する可能性が高い、この近辺に志願した程なのです」

「そうだったんだ…」

 なるほど、ここへの配属は自分で…ますます怪しい。

 …こう考えてしまうのは、自分が汚れてしまっているからなのか。

 元の世界じゃ平和な分、こういう人の付き合いみたいなの、思惑が入り混じって混沌と化していたからなあ。

 そう考えると、この世界の人達は本当に純真で…少し心に刺さるものがある。

 二人は、隊長の事について議論を交わしていく。

 隊長に異変が起きた要因を探っていた。

「詰所ではどんな様子なの?」

「今まで通り、尊敬できる振る舞いで…魔物と実際に遭遇した時を想定した訓練でも、自ら危険な二番手に立たれていて」

 …ん?

 ちょっと待った。

「イエロー」

「何、翔君?」

「ちょっと耳貸して」

「えっ…う、うん」

 俺は顔を寄せ、副隊長さんには聞こえないよう手をかざす。

 何やら慌てた様な、驚愕した様な表情を向けられているが、今はそれより気になる事がある。

「騎士隊って、現れる脅威が本当は魔物じゃないって、知ってるんだよね? それが、実際に現れたって事も」

「そりゃあ…うん。そのはずだよ」

「………」

 俺はイエローとの内緒話を止め、正面に向き直った。

 そして、直接疑問をぶつける。

「あの…警戒対象の敵について、どのくらい知っていますか? あのグレムリン…じゃ伝わらないか。憲兵場にも居た魔物とは、別物って事はご存知なんですよね?」

「…え、ええ。特殊な存在であり、特定の魔術でしか対応出来ないと」

「その為の部隊だもん。ほら最初に宣言してた時、一人甲冑姿じゃない人が居たでしょ? あの人を軸に据えて、陣形を組んで対処する想定になってるんだよ」

 先日の一件で、イエローがやっていた事をするのが、その人って訳だ。

「その陣形…最近変わってるはずですよね。どう変わりましたか?」

「いえ、特に変化などは…」

 変わってない…なるほど。

「それ、変じゃないですか? 最近その敵について、新しい情報が増えたのに」

「新しい情報…ですか?」

「あれには、物理的に触れる事が出来ない。直線的に動く…こういった特徴に関する報告が、最近あがって来たはずです。イエロー、そうだよね」

「うん、確かに報告したよ。重要な事だし」

 光の魔術でしか対応できないと言うのは、元から国も把握していたし、そのつもりで準備してきたと聞いている。

 おそらく俺みたいに、神と関わりのある誰かからの情報提供だろう。

 もしかしたら、カインかもしれない。

 あれは間違いなく、夢の塊と同種の何かだった。

 でも、実際にこの世界に現れたのは、俺達の村が初めてという話だ。

 その時、新しく掴んだ情報。

 ぶつかり合っている夢のシーンだけでは、わからなかったもの。

 その情報が加われば、危険な立ち位置も変わるし、陣形も調整されて当然のはず。

 それなのに、ここまでの話から考えるとおそらく…。

「その、情報は…初めて耳にしました」

「ええっ! なんで!?」

「多分だけど、突然何もない空間から現れた…って事も聞いてないですよね」

「そ、そうなの…ですか?」

「ちゃんと隊長各位には、会議で情報を伝えてる。本当は各部隊毎に、情報共有してあるはずなのに…」

 やっぱり。

 聞いていれば、この町は魔物と遭遇する可能性が高いという理由に、多少は疑問を抱くはずだ。

 確かにこの町も、実際に現れた俺達の村も、魔族領から近い位置にある。

 けれどだからと言って、あの突然現れた何かが、現れやすいとは限らない。

 数年前、村を襲った魔物みたいに、物理的に砦を乗り越えてくるわけじゃないんだ。

 それこそ、一番近い砦町には現れていない訳だしな。

 …怪しい点が多すぎる。

 本当にあの隊長さんが、誇りを持った良い人で、前線に立つために志願をしたなら…事の起こった村への配置を願うのが、筋じゃないのか?

 もう少し疑問点を詰めようと思い、俺は副隊長さんを見据える。

 そんな時だった。

 町に、大きな音が響いた。

「こ、これっ!」

 イエローと副隊長さんが、即座に立ち上がる。

 それは、以前に聞いたものとは少し違うが、確かに同種のもので…。

 危機感を感じさせる…この音は!

「お兄さん! 町で何かあったみたいです!」

 マリーが部屋へと駆け込んでくる。

 どうやら、またひと波乱ありそうだった。

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