石の町トラブル2
あの休みの日、丸猫屋ではある事件が起きていた。
部屋に来たアンシアを落ち着かせ、俺達は話を聞いた。
俺とマリーが居なくても、それぞれしっかり仕事をこなし、問題なく営業していた。
いつも通り、このまま一日を終えられる。
そう安心した頃だった。
また一人、お客さんが来店した。
いつも通り挨拶をして、それをお迎えしたところで気が付いた。
その人は、騎士隊長だったのだ。
この隊長だが、あの宣誓を行った人物では無い。
あの誠実そうな人は副隊長らしく、隊長はかなり歳のいった人物だった。
最初は皆、副隊長さんの事を隊長だと思っていた。
あの宣誓を見れば、誰だってそう思うだろう。
しかし、今では少しずつ噂が広がり、隊長は別人だと町中の人が知っている。
騎士隊とは接する機会も無いのに、なぜそれがわかったのか。
それこそが、噂の正体。
内容は、騎士隊長がふらりと店に来ては、自ら名乗ったと言うものだ。
あの宣誓の時、居なかったのには理由があったのだろう。それで巡回ついでに、挨拶をしながら回っているのではないか。
これを聞いた時はそう考えたし、しっかりした人なのかなとも思った。
しかし…この噂は、次第に変化していった。
なんとその騎士隊長が、その立場を利用し、商品を強請ったと言うのだ。
俺達は、もちろんそれを、そのまま信じたりはしなかった。
噂はかなりあやふやなものだったし、何より、その騎士隊がどういう経緯で作られたのか、俺達は知っている。
人格的なところを、かなり重視している事も知っていた。
この国、そして世界の為に、貴重な人材を割いて作られた部隊だ。
噂の真偽を判断するのは保留…そう考えていた。
そんな噂の人物が、よりによって、俺もマリーも居ない日に来店した。
初めのうちは、他の客と変わりなかったと言う。
しかし、その瞬間は訪れた。
「お前」
「は…はい」
アンシアはこの時点で、嫌な予感はしていたらしい。
そういう、呼ばれ方だった。
「この店はなかなか、興味深いものを置いているじゃないか。私は気に入ったよ」
「ありがとう…ございます」
「これなど、今手元にあると便利そうだ。そうは、思わんかね?」
「はい。こちら…は、うちにしか無い商品で、おすすめ…ですよ」
「やはりな。ますます欲しくなった」
「あ、ありがとう…ございます」
「………わからんかね?」
「え…あ、購入…されますか? それでしたら、こちらを…」
ここで騎士隊長は、心底深いため息をついたそうだ。
「置いてあるものは一味違っても、店員は禄でもないようだな」
「…え」
「君も、王からの書面には目を通しただろう。今安心して暮らしてられるのは、魔物を対処できる私達が居ればこそだ。違うかね?」
「えと、感謝…しています」
「それなら、他に言うべき事があると思わんかね」
何を言わんとしているかは、アンシアもちゃんとここでわかったらしい。
だから、こう返した。
「その…すみません。当店…では、どのお客さんにも、同じだけ代金を頂いているんです」
「……なにぃ?」
ここで、少し前からおかしな空気を感じ、起きて様子を見守っていたと言うローナが割って入った。
「どうかしましたかー」
「ん? …ほぅ」
「あのぉ」
「いやなに、多少話が合わなかっただけだよ、うん」
ここでローナが対応した途端、態度が軟化したらしい。
この時、一体どんな視線をローナに向けていたのか、あまり想像したくないな。
「そうでしたかぁ。あ、こちら、お買い上げですー?」
「いや、今日は止めるとしよう。失礼する」
最後に蔑んだ目でアンシアを一瞥し、騎士隊長は去って行ったと言う。
ちなみにイエローは、顔を覚えられている可能性が高かったため、棚の陰から出なかったらしい。
一部始終を見て、とてもショックを受けていたみたいだ。
そろそろ町の人達に、アプローチしていきたい時だと言うのに…。
町の雰囲気は、再び悪くなりつつあった。




