石の町トラブル
うちの店が、町民に受け入れられるようになった。
それはつまり、少なからず他の店に入っていた客が、こちらに流れている事を意味する。
そうなると、また状況は変化して来る。
例えば、市場のいくつかの店からは、恨みがましい目も向けられるようになった。
村の時と同じだ。
でも今回、それは想定済み。
うちの店は幅広く商品を置いているから、扱いの被る店は出てくる。
そこで店同士の競争が発生するのだが、うちが負けるはずは無かった。
価格についてもそうだが、本店でも実践していた通り、丸猫屋には、あらゆる学問やビックデータに基づいた、論理的な販売戦略が取り入れられている。
そういう売れ行きを良くするコツを、発見したのかその店なりの伝統か、いくつか使っている店は市場にもあった。
しかし、俺の持つ知識は、一企業だけのものでは無い。複数の企業が失敗から学んで、それを昇華して来たものだ。
元の世界の、一企業程の規模すら無いこの町の店では、太刀打ち出来ないのも仕方がない。
例えば、2:8の法則と言うものがある。
これはいくつか異なる使われ方をする言葉だけど、俺が言っているのは、当然マーケティング業界でのものだ。
簡単に言うと、これは売り上げの事を示している。全体で二割の商品が、売上高の八割を占めていると言うものだ。
店にはたくさんの商品が並んでいるけど、平均的に売れている訳では無い。
ここまでは、誰でもなんとなくわかっていると思う。
でも、何かで学んでいたり、データを起こしていなければ、たった二割の商品で、店のほとんどの売り上げが成り立っている事はわからないだろう。
そのくらいかな…程度では駄目だ。
きちんとわかっていて、それ相応の仕入れ、陳列をしないといけない。
いつ行っても、やたらと大量に山積みだったり、せっかく棚があるのに、全部同じ商品で埋まっている。
そんな売場を見た事がある人も多いと思う。
それも、この法則に則ったものだ。
その売れる二割の商品群は、イコール必要とされている物と言える。
そして買ってくれるお客さんは、当然、今必要だから店に来ている。
その商品が売り切れ、または見つからないとなれば…。
その瞬間、この店は駄目だ…脳内でそういうレッテルを貼られてしまう。
売れる商品は、わかりやすく、大げさなくらいに陳列する。
現代の売り場作りにおいては、鉄則だ。
信じられない人も居るかもしれないが、大半の数個しか在庫を置いてない商品より、そのあり得ないほど並べている商品の方が、早く全部売れているのが実状なのである。
こんなのは、ほんの一部だ。
人間心理や視線誘導、色彩…使える要素はいくらでもある。
それに、オンリーワンの要素もある。
ナンさんの発明品だ。
この町は、ナンさんの故郷でもある。
彼女も、変わり者として結構有名だった。
幼い頃から、ローナと二人して、それはもう色々とやらかしたらしい。
それを売場でアピールすれば、うちの店への信頼はますます増した。
最近は暑いし、例の冷風器も興味の対象となっている。
もう少ししたら、購入者も出る見立てだ。
そうなったら、一部の店に少し恨まれる…程度では済まない事態も出てくる可能性がある。
そこを、上手く切り抜けてこそ、こうしている意味がある。
タイミングだけは、しっかり見定めないといけない。
俺達の目的を、成し遂げるために。
それから、懸念すべき点がもう一つあった。
先日の、俺とマリーが揃って休みを取った日の事だ。




