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ようこそ丸猫屋二号店!2

 客が来ないと言っても、全くという訳じゃ無い。

 村の時と同じで、この町に立ち寄った冒険者の人は気にせず来店するし、町の人だって、極わずかとはいえ様子を見に来てくれる。

 ただ町の人、やはり購入はしてくれなかった。

 見慣れない商品やその価格に、不信感が勝ってしまったんだと思う。

 その為現状、売れる相手はこの町に定住しない人ばかり。つまり固定客には成り得ない。

 そんな一見のお客さん達…なのだが、その中にも例外が居た。

 本店の丸猫屋に寄った事がある人だ。

 最初は、なぜこの町にと不思議に思ったそうだが、いくつか商品を買って行ってくれた。

 マリーの事を覚えていたんだ。それで安心してくれた。

 俺は見た事の無いお客さんだったし、ここ一年で顔見知りになった人だろうか。

 マリーの頑張りが形になったようで、少し感動…。

 そして、この安心感こそが、一つの重要な要素だ。


 今、この店に客が少ない事からもわかるが、商売をする上で、信用を勝ち取れるかはとても大事になる。

 そんな中チェーンストアは、この“信用”を商売戦略に取り入れている形態の筆頭だ。

 この店を知っている。

 この店なら、あれを買う事が出来る。

 この店なら、あれがこの値段で買える。

 そういう小さな信用が、客足の増加につながっていると言われている。

 今回は、マリーがお客さんを安心させる“顔”だった。

 そうでは無く、店自体がお客さんに安心を与える顔になる。

 これが出来ている事こそが、チェーンストアである意味とさえ言ってもいい。

 つまりうちは、まだチェーンストアを目指しているだけの、ただの店って訳だ。


 さて、信用を勝ち取っていくには、どんどん店舗を増やし、そのすべてで、きちんと同じレベルの店を展開しなければならない。

 二号店の事も重要だが、こっちも重要だ。

 そんな訳で、今日は店を他のメンバーに任せ、こっそりある店に向かっているのだが…。

 …。

 これは、突っ込み待ち…なんだよな多分。

「…付いてきてるのはわかってるよ」

「やーばれた?」

 一瞬で反応してるし。

「絶対隠れる気無かったでしょ」

「だって向いてないしねー。前も…まあこれはいいか」

 ひょっこりと物陰から出て来たのはイエローだ。

 まあしっかり隠れていた訳でも無く、最初から明るい髪が非常に目立っていたんだが…。

「そう言いつつこんな事したって事は…誰かに言われた?」

 と言っても、この場合一人しか該当しそうな人物は居ない。

「うん。マリーちゃんにね」

「やっぱり…」

「今日のお兄さんは怪しさに溢れているので! …だってよ?」

「…まあ、イエローならいいか」

「ちょっと、何それー。というか、どこ行くの?」

「んー。ある意味、怪しいっていうのは当たってると言うか…ちょっと、行きたい店があるんだよ。二つ」

「なになに、変なところ? …でもこの町に、そんなに変な店あったっけ」

 今でもマリーが勘違いしたままなのかは不明だが、あえて近づけたくは無いんだよな…。そんな事も言ってられなくなるけど。

 とりあえずは、どんな感じか再度確認してからかな。


 そんなこんなで、たどり着いた目的地一つ目。

「ここって…」

「うん」

 俺の来た店…それは市場から離れたところに隠れて存在している。

 端的に言うと、奴隷商の店だった。

「念のため聞くけど…変な目的じゃないんだよね?」

「イエローまでそんな事言うの…」

「念のためだってば」

 当たり前の事だが、後ろめたい目的でここへ来た訳じゃ無い。

「ちょっと人手の確保を、ここでも出来ないかと思って」

「人手って…従業員を増やすの?」

「今の店に必要って訳じゃ無いんだけどね。でも今後を考えると、人が全然足りない状況だし、それなら選択肢に入れたいって感じかな」

「うーん…偏見は無いつもりだけど、店のイメージを大切にしないといけないんでしょ? 仮に奴隷って事は、ばれないようにするとして…ちゃんと働いてくれるような人が居るのかな」

 確かに、理念を持って接客を…とか、結構求める部分は大きいしなあ。でも…。

「それも含めて、見てみないと始まらないってね」

 それにしても、やっぱりどうにも暗い雰囲気があって、入りづら――。

「何やってんだ」

 突然後ろから、重たく低い声がかかった。

「ひゃあ!?」

「…相変わらず迫力ありますね」

 変わってない。以前出会った奴隷商のおじさんだ。

 このガタイの良さで、なぜか突然現れる。

 怖いので止めて欲しい。

「なんだ…客って事でいいのか?」

「今日は相談だけなんですけど、良いですか?」

「……入れ」

「だって。行こうか」

「う、うん」

「…怖いなら、服でも掴んでいく?」

 俺は何となく、いつもアンシアにされていたイメージでそんな事を提案する。

「…掴む」

「えっ」

「何それ自分で言ったのに! 掴むからね!」

 そう言って、声の勢いまま、ぎゅっと服を掴んでくるイエロー。

 何となく言ってしまった事だったけど…実際にそうされると、何と言うかドキドキしてしまうな。

 イエロー、すごく綺麗な人だし…。

 年甲斐ないなあ俺。

 奴隷商の後を追い、店内に入る。そして階段を下っていく。

 この店、外からの見た目は他の建物と大して変わらない。でも、中には地下が広がっていた。

 まさにそれっぽい感じで、俺も少しばかり怖くなってくる。

「それで、どんなやつを求めてんだ」

 通されたのは、意外と普通の事務所らしき部屋だ。

 この奥に、奴隷の人達が居たりする…んだろうか。

「とりあえず…頭のいい人ですかね」

「…あん?」

「あ、頭のいい人…?」

 なぜだか、怪訝そうな視線を向けられてしまった。

「え…何かおかしいの? あ、抽象的すぎたかなやっぱり」

「そうじゃなくて…奴隷を買う時って、あんまり賢い人を選ばないものだって聞くから」

「基本的に、賢い奴隷は避けられる。油断すれば飼い主に噛みつきかねねえからな。どう扱うにしたって、馬鹿や気の弱い奴の方が、都合がいいってもんだ」

 なるほど。

 この世界には魔術があるけど、いわゆる奴隷化魔術みたいなのは無いんだな。

 普通に反逆されてしまう事もあるから、支配できそうな奴しか買われないと。

 なんだ。

 どんなもんかと身構えたけど、この世界の奴隷制度はずいぶんと平和的だな。

 いや、俺がえげつないイメージを持ち過ぎなのかもしれないが…。

「基本的に、賢い人は上手く生きてるし、奴隷になったりしないけど…なっちゃったら、後はそのまま…って事もあるらしいよ」

 そう言ったイエローは、なんだか悔しそうに見えた。

 そういう現状をどうにか出来ていないのが、許せないのだろうか。

 それなら俺がやろうとしているみたいに、国で雇い入れてしまえば…とも思う。

 でもやっぱり、難しいのかな。身分的な偏見の問題とか…。

 資金だって、民衆よりはあっても、余裕がある訳じゃ無かったし。

「そういう奴は、こんな辺鄙な町には居ない。どうしても必要ってんなら、取り寄せてやるが」

「そうですね…。資金と相談ですが、出来るだけ雇いたいんですよね」

「出来るだけってお前…相当変わってやがるな。前会った時とは違う女も連れてやがるし、何なんだ一体」

「あ、覚えていらっしゃいましたか…」

「こんなところに、若い女引き連れて来る奴。嫌でも覚えちまう。今度こそ売りにでも来やがったかと思ったぞ」

「しょ、翔君。ここに誰か連れて来たの?」

「そんなドン引きな声で言わないで。あの時はここが何の店か知らなかっただけだし、店の前で会っただけだから」

「まあいい。とにかく、他の詳しい条件を教えろ」

「そ、そうですね。あとは…」

 どうにもこの場にそぐわない雰囲気の中、俺はここでの用事を終わらせていった。


 店を出て、次の目的地への道すがら、さっきの件について話を続ける。

「本当はね。奴隷とかこういうの無くしたいんだ」

「それは…どうして?」

「ど、どうしてって…。だって良くないでしょこんなの」

「うーん…どうだろ」

「…奴隷になるような人が居た方が良いって事? 今回みたいに利用できるから?」

「待って待って」

 そんな風に、マジな不信感を向けられるのは辛い。

「確かに、無い方が良いとは思うよ。ただし、それで皆が生活できるならだけどね」

「それ…は」

 他の事は知らないけど、今この世界は、バランスが狂ってしまっている。

 今奴隷になってしまっている人は、どうしようもなくてそうなってるんだ。

 のたれ死ぬよりまし…っていう状況だったんだろう。

 奴隷の立場を無くすなら、無くした後の事を考えなければいけない。

 その人達が生きていけないと意味が無い。

 どういった偏見があるのか知らないけど、それを無くして、働き口を確保しないと。

 でも、もしかするとうちが、その手助けになれるかもしれない。

 これも頭に入れておきたいところだな。

「それに、言い方とかはともかく、そんなに悪い制度でもないと思うよ。正しく使えばだけど」

「…」

 だって、自分を売る事で、少なくとも食事と住む場所が与えられるんだ。

 それは確かに最底辺のものだろうけど、何もかも無くなった人が逃げ込める立場としては上々だ。

 そりゃあ、あれな金持ちとかに買われて、とんでもない目にあわされる可能性があるのは問題だが…。

 逆に言えば、そういう点以外は優れている。

 誰でも、自分の身体さえあれば、それを買って貰えるんだから。

「問題のある点さえ除けば、俺も奴隷みたいなもんだったし…」

「うん……えっ!!?」

「あ、いや。本当に奴隷だった訳じゃ無いんだけどね。うん」

 自分という労働力を売り、報酬を得る。

 立場やイメージの違いこそあれ、会社だって、仕組みは似たようなものなんだよね…実は。

 俺の居たところも結構…いやなんでも無い。

「…翔君が奴隷に偏見を持ってないのって、その辺りが関係してるの?」

「そんなとこかな」

 イメージでは無く、具体的な中身をきちんと見れば、新しい視点を得られることも多い。

 結局どちらも、人間が作ったルールだしな。

 俺は奴隷を実際に買ったとしても、普通に雇った人と変わらない扱いをするし、本当に何の差もない。

「いがみ合ったりとか、差別とか…そういうのが無い世界になったらいいのにね」

「…そうだね」

 そうする為にも、まずは世界を豊かにしていかないと。

 この状況を打破し、そのままあの、崩壊する未来を打ち破る糧としたい。

「やっぱり、翔君はすごいね。普通こんな事言ったら、変な顔されるか、鼻で笑われるよ?」

「そりゃあ、元々鼻で笑われるような事をしようとしてるしね?」

「確かに。あたしも翔君の事を知らなかったら、ちぇーんすとあ…とかいう仕組みなんて、信じられ無さそう」

「まあ見ててよ。この国のおかしくなった現状を、出来るだけ早くなんとかしてみせるから」

「うん…期待してる」

 いい笑顔だ。

 これを守るためにも、未来に影響を与える程の何かを…成さないとな。

「ところで、もう一か所行くところあるんだよね。どこなの?」

「ああうん。それなら…ここだよ」

「なるほど…。あたし、こっちは目的わかったかも」

 駄目かもしれないけど、当たってみる他無い。

 丸猫屋二号店が前進するため…どうか協力してくれますように!

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