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久々の町へ3

 その一団は、静かな石の町に突然訪れた。

「静粛に! 警戒せずともよい。我らは王の(めい)で参った騎士隊である!」

 甲冑に身を包んだ騎士と、その横に服装の違う人が一人混じっている。

 騎士隊とは言うが、そこまで大人数と言う訳じゃ無い。見る限りでは5人だけだ。

 その中のリーダーらしき人が、良く通る声で話を始めた。

 町の人達は、当然何が起きたのかと不安そうにしている。すっかり人だかりが出来ていた。

 しかしそんな中……俺達だけは違う感想を抱いていた。

「あれがそうなんだね」

「そう。人材を割いて準備してきた、うちの騎士団だよ」

「あれは…私達の村にも?」

「そうだね。マリーちゃんの村にも行っているはずだよ」

 あの騎士隊が言っている事をまとめると、こうだ。

 まず彼らは、これからこの町に常駐する。要するにこの町の騎士になると言う事。

 その理由は、魔族の進行が予想されるからだと言う事。

 しかし、それに対応する為に自分たちが来た。だから安心して欲しい…。

 おおよそこんな内容だった。

「ねえイエロー。あれって…」

「めったな事は言いっこなしだよ。わかりやすい建前が必要なの」

「まあ、そういう事だよね」

「さすが。わかってるね翔君」

 おそらくだけど、この騎士隊は、あの暗い何かに対応する為の部隊のはずだ。

 けど彼らは、魔族への対応の為だと言った。

 得体のしれない何かでは無く、この世界で共通になっている、恐怖の対象が相手だとしたんだ。

 確かにあの得体のしれない何かは、どうにも説明がし辛い。

 そのまま真実を言うのも有りだとは思うが、その場合怖いのは、あの騎士たちへ不信感が向く事だ。

 人の信用を得るには、その信用を得たい相手に分かるようにしなければならない。

 これは商売でも同じで、わかる人間がみたら間違いなくAを選ぶ場面でも、誰にでもわかる広告が付いたBばかり売れる。こんな事はよく起きている。

 要するに、明確な敵が描けていない場合、あの騎士隊自体が、畏怖の対象になる可能性が出てくるんだ。

 なぜか突然武力を持った人間が来て、来るかどうかわからない、よくわからない物の対処の為に居着きます。

 これでは、不安を煽るばかりだ。

 嘘を混ぜたのは、それを防ぐためだろう。

「何も起きなければ良いけどね」

「で、でも…ああして騎士隊が来たんですから、安心して良いんですよね? 私達みたいな寄せ集めでも、あの時何とかなったんですし…」

「あたしは、そうだって信じてる」

「お、お兄さんもそう思いますよね?」

「…ん。そうだね」

「お、お兄さん…?」

 この町のほとんどの人は、おそらく魔物にも、あの何かにも出会った事が無い。

 だから、ああして堂々と宣言してくれれば、安心できる人達も居るだろう。

 実力のほどはわからないとはいえ、訓練してきた騎士である事は間違いないんだからな。

 でも、俺は知っている。

 本当は現れるのが、魔物では無い何かだと言う事を。

 そしてそれが、この前遭遇した時の、比では無い可能性がある事も知っているんだ。

 あの時俺達が対処したあれは、夢でカインが相対していたものとは、規模がまるで違う。

 それに、あのどこかから滲み出て来たような現れ方…。

 もしかしたら、次はもっと大きなものが現れるかもしれない。

 安心なんて、出来るはずが無かった。

 やがて、騎士隊は国からだと言う紙面を残し、立ち去って行く。

「ん? あれってローナの…?」

「お母様ですね。なんで騎士隊とご一緒なんでしょうか」

「うーん…。まあ、この町の市場を仕切ってる人だからね。おそらくその絡みなんじゃないかな」

 俺はちらりとイエローの方を伺う。

「まあ、そんなところだよ」

 返答は、曖昧ではあるけど、否定では無いと言う感じだ。

 俺達も、人がそこそこに捌けるのを待ち、騎士隊が貼った紙面を確認しに行く。

 内容は、おおよそさっき宣言していた事と変わらない。

 そんな中に、ひっそりと書かれていた。


 ――商売の単一都市制限を撤廃する


「お兄さんこれ…っ」

「うん。これでやっと、前進できる」

「やっぱり合わせて来たね」

「これで、人が出入りしても、問題ないから?」

「そうそ……翔君?」

 恨みがましげなイエローに、どうしてそういう事をするのかと睨まれてしまう。

 話せない事もあると言われていたのに、それを実質聞き出すような事をしてしまったし、これは仕方ないな。

 でも、おかげで俺の仮説はほぼ間違いないとわかった。

 要するに商人の許可証に関するあれは、戦力の維持、把握も目的の一つだったんだ。

 何かが起きた時、対処の術が無い集落があったりしないようにした。

 それに、人は衣食足りて礼節を知ると言う言葉もある。

 もしも、人の出入りや物の流通を停滞させていなかったら。

 どこかで、自分だけが得をすれば良いと言う人が、多くの人を追い込んでいたかもしれない。

 それを、間違ったやり方とはいえ、抑え込んだんだ。凍らせて、流れを遮るように…。

 それにより、無事で済んだ村や町もあったかもしれない。

 …まあだからと言って、手放しに良かったとは言えないんだよな。

「これからが大変だ」

「また何か言ってますよ」

「それより、ねえあとはあとは? どんな事あったの?」

「………」

 なにやら、やはり子供だとか。

 いじわるして楽しんでるだとか、怒られて喜んでないかとか。

 不名誉な事を後ろで話されてしまっているが…。

 いやあの…。騙すような事をして悪かったけど、そんな……ね?

 元の世界のアルバイトさん達もそうだったけど、女性と言うのは本当に怖い。

 何か気に障る事をやらかすと、いつの間にか従業員全員に、それが広まってるんだ。

 それはもう、会社の教育として、店長たる者弱みを絶対に見せるなと、きつく指導されたりしていた程だった…。

「お兄さん、そろそろ行きますよ。アンシアさん達が待ってます」

「はい」

 ただ、ここではすでに手遅れらしい。

「ふふっ。翔君、マリーちゃんには本当あれだよね」

 イエローはカラカラと笑っていた。

 一体普段と今、それぞれどう見られていると言うのか。

「あれって何だよ…」

 長い停滞が終わり、この国は変わり始めた。

 その変化、残念だがゆっくりと待ってはいられない。

 俺達が、加速させて貰う。


 二号店出店の日は、すぐそこまで近づいていた。

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