久々の町へ2
さて、この町での丸猫屋出店の為、一からスタート……と言う訳では無いんだなこれが。
俺は前回この町に来た時、すでに出店を見据えていた。となれば、当然打てる布石は打っている。
問題は、思わぬ王都での一年で間が空き、状況が変わっている可能性だったが…。幸い、大きく変わっていたりはしなかった。
どこかの店が無くなっていたり、増えていたりもしていない。
でもそれは、やはり変化が止まってしまっていると言う事だ。
それなのに、以前より市場に活気が無い。ただただ、衰退している。
俺が来たばかりの頃の、村の状態に近くなっていた。
住んでる人は変わらず居るはずなのに、市場が活気を失う。
これは簡単に言えば、買い物をする人が減ったと言う事。
より一層、買う物を切り詰める必要が出ていると言う事だ。
生活に欠かせない物、必需品と呼ばれる物でも、どうしようもなければ、結局買うのを諦める他無い。
このままでは、経済の停滞へまっしぐらだ。何か、メスを入れなければならない。
それを、俺達がやるんだ。
まずは、入れ物が無いと始まらない。
その建物だが…今回は村の本店より、さらに小さな規模で行く。
理由はいくつかあるけど、一番はやはり、俺達の目的が、儲ける事では無いって事だ。
あくまで目的は、示す事にある。今までと違う形を、価格を示す。
この町が、変わるきっかけを作るんだ。
いつまでも、おかしなってしまった価格のまま、店に商品を並べていられては困る。
俺は幸運にも、この国における物資の流通量や、現在の価格について、そのすべてを目にすることが出来た。
ロア君達に色々とレクチャーしていた期間は、全然無駄なんかじゃない。
おかげで俺は自信を持って、これから広げていく物価の基準を決める事が出来る。
そして、調整しなければいけないのは、売価だけでは無い…まあ、これは実際にそこへ行ったらだな。
俺達が最初に向かったのは、土建屋。この町の建物を造ったりしている店だ。
ここには、本店を建てる時にもお世話になった。
そして、今回はこちらが客として、お返しする。
建てるのがこの町なのだから、専門家に依頼してしまえばいい。
お金は掛かってしまうが、また不慣れな建築作業を、今度はこんな少人数で…なんて事をする暇は無い。
そのくらいの資金は、捻出できるようになっている。マリーが頑張った成果だ。
それに、こういう時間を短縮するための支出は、これからもどんどんしていく。
なぜなら、こういう依頼自体も、商売を発展させる事に直結するからだ。
俺達がノウハウを知っていて、この状況の中儲けを作れるなら、それをどんどん回していかなきゃ意味が無い。
商売で物をどんどん回したいなら、お金も回さないと駄目なんだ。お金が無いと、俺達がどんなに安く商品を置いても、買う事が出来ない。
これこそが、経済って呼ばれる物の、根幹とも言える事なんだ。
久しぶりに会った挨拶も済まし、依頼も完了する。
以前に確認して貰ったレイアウトをほとんど流用して、そのままお願いした。
後は、職人さんにお任せだ。
魔術を使ってガンガン進めるらしいから、元の世界とは比べ物にならない早さで終わるだろう。
俺達は、すぐに次の目的地へと移った。
お次は、仕入れの問題だ。
これなのだが、俺達の村みたいに、一つの手段ですべてを仕入れているような所は、この国ではかなり珍しい。
近隣の原産地からの買い付けもあれば、やたらと遠方から仕入れている店もある。
基本的には何かの専門店が多いから、一か所の仕入れで済ませている感じだ。
そんな中、俺達の店では、様々な種類の商品を取り扱っている。
それを揃えるために、この町の流通経路を辿って、すべての取引先とやり取りをして…なんて事をしていたら、人手もお金も足りなくなってしまう。
ゆくゆくは、こういう流通についても、俺達の店独自のものを確立するつもりだが、急には無理だ。
だから、今は使える物を使う。
俺達が、今使える仕入れの伝手…となれば当然、騎竜便だ。
実はもう、話も付けてある。
村と王都との通り道であるこの町に、寄ってもらえるようにしたんだ。
国に雇われている人に、そんな事を横から頼んでいいのかと思ったが、仕事さえ出来ていれば問題ないらしい。
イエローも特に何も言わないし、お墨付きだ。
そう言って貰えたからには、利用しない手は無い。
俺は、元の世界で学んだ形式や仕組みをこの世界で活かしている。
でもこういう、形式などにこだわらないけど、理にかなっている部分は、この世界に良いところだよな。
出来る事なら、双方の良い部分を合わせた、より良い環境を作っていきたいところだ。
他にも、やるべき事はたくさんあった。
騎竜便以外の仕入れも予定しているので、以前に顔を出した生産者さんのところへ挨拶に行った。
店を出す宣伝はしたが、まだ買い取り交渉はしなかった。
なぜなら売価の関係で、生産者さんへ払える金額が、町にある店より低くなるからだ。
でも、俺達の店は、その買い取り金額で、生産者さん達が暮らしていける値段で商品を売る。
それを示した後なら、交渉次第で取引して貰えるかもしれない。
後は、店で使う棚なんかを用意した。
それから、2号店に関わる事以外も進めていく。
人手確保の当てを探したり、運び屋の知り合いを増やすべく声をかけていく。
のんびりと、2号店の成功だけを考えている時間は無いんだ。
アンシアには、王都から続いて、息の合った補佐をして貰ったり。
合流したばかりとは思えない、イエローの把握力に驚いたり。
気難しい運送屋のおじさんを、ローナが持ち前のオーラで懐柔したり。
いつの間にか成長し、頼もしい姿で話をするマリーを、眺めたり…。
慌ただしい生活が続いていた。
そんなある日…。
一つの変化がやって来た。




