いざ、自分達の挑戦へ3
「まず、この村でやっていく事として、店長候補を増やしたい」
店の数が増えるのだから、当然そこを指揮出来る人間も増やさないといけない。
現状それが出来るのは、俺とマリーに、ソウさんの3人だ。
アンシアも知識的には、あれだけ俺の仕事を見ていたし、出来そうではある。でも、性格的には向いていないと思う。
これは仕方の無い事だ。
「ふふん…」
それで。
その人選について、この村で店を営み続けていたマリーとソウさんに、意見を聞いていきたいのだが…。
ここになぜか、今度は得意げな顔の人物が一人。
「…マリー。何か言いたげだね?」
「お兄さん。私もこの一年、ただ大人しくしていた訳ではありません」
いや、ただでさえ慣れてない店長一年目だったのだから、大人しく、問題を起こさず営業し続ける事が、一番だったのだが…。
「うん。それで?」
「私も今後、やっていく事については聞いていましたからね。先日の制服を始め、出来る限り準備を進めておきました。店長候補の教育についても、新たに二人、完了しています!」
「…おお」
俺は、驚いたような声だけ出しつつ、視線はソウさんへと向ける。
本当ですかね?
それに対する返事は、頷き…つまり肯定。ではあるのだが…やれやれといった感じの、苦笑いと一緒なのが気にかかる。
「なので、全く問題ありません」
マリーは、したり顔で続けているけど…。
「本当に?」
「はい」
「マリー。こっちを向いてもう一度」
「お兄さん、お店の状況は見たでしょう。問題なく営業出来ているじゃないですか」
「…マリー」
「なんです?」
「いつもは逆だけど、俺だって、マリーの事は結構わかるんだよ?」
「…へっ?」
なぜかマリーは、きょとんとした様子で声を漏らした。動揺する場面じゃないのか?
続いて、勢いよく振り返ったと思ったら、何やらブツブツと唱え始めた。
反応は予想と違ってしまったけど、マリーの事がわかるのは嘘じゃない。
ほんの数年とはいえ一緒に暮らしてきたんだし、癖なんかもわかってくる。
マリーが、やたらと自信ありげに、問題無さそうにしている時は、逆に何かある事が多いんだ。
違和感…と言うんだろうか。
彼女はそもそも、そんなに強気な性格じゃないんだよな。
初めて会った時の様子もそうだし、普段の人との接し方を見ていればわかる事だ。
…俺に対してはなぜか厳しいけど。
けどそのおかげか、強がっている時は大抵わかる。
まあ、とりあえず…。
「マリーは、この後二人でミーティング追加で」
「ええっ!? 何でですか!」
解決済みだとしても、何かここ一年留守していた間にあったなら、把握しておかないといけない。
「あー…。それから、実際にすぐ石の町に向かう必要も出てくる。こっちでは、実際に店を出す建物の手配や、仕入れの整備はもちろん、ローナのお母さんに、店を出す申請をしないとね」
「うぅぅー…」
あ、ローナがまたつぶれた。
「こっちのメンバーは――」
「は…はい!」
「…」
「今回は…私も行っていいはずですよねっ?」
マリーが勢いよく振り向き、再び話に参戦して来る。
予定では、町へ行くメンバーに、マリーは含まれていなかった。
俺が王都に向かった時と同様、ここを任せられる人間は限られているのだから、当然だ。
ただ…さっきの話だと、それを解消する為にやって貰うはずだった事は、すでに進めているらしい。
例えば仮に、マリーがここを離れても、指揮を任せられる人が2人以上残るなら、特に問題は無いと言える。
後で、どの程度教育が終わっているかの確認は必要だ。
その上で問題が無ければ、マリーを2号店組に加える事も可能だけど…。
「ニイちゃん」
「あ、なんですか?」
「連れて行ってやりな。その為にあれこれ頑張ってたんだから」
「その為って…」
「そりゃあニイちゃんに付いてい」
「ちょおおっとソウさん! なな何を言いうんですか!?」
まあ確かに俺も、またマリーとは別行動で、残念には思っていた。
「要検討って事で」
「ええ!?」
さっきから忙しいなマリー。
「翔君、問題ないなら一緒させてあげなよ」
「翔…さん」
「んぅ…すぅ………」
女性陣からの追撃と、それに混ざっていつもの寝息が聞こえてくる。
いや、確認もせずOKは出せないってば…。
「はい、とにかくそれは後。早く会議を終えて、行動に移るよ!」
俺は強引に話を進めていく。
だんだんこのメンバーを率いていけるか、不安になってきた…。
それでも何とか、やっていくしかないな。
元居た世界では、現場はともかく、方針を決める会議でこんなにバタつくなんて、あり得なかった。
そして俺は、そういう真面目な場所の方が居心地が良いと思っていた。
けど今は、こういうのも悪くない。
世界を豊かにしていこうって言うんだ。
ありきたりかもしれないけど、やっぱり口だけじゃ無く、俺達も楽しくやっていけるようにしないとな。
そういえば、俺の留守中に、やっぱりいくつかトラブルもあったらしい。
とりあえず、遺恨も無く解決しているようで安心したけど…。
やっぱり、人に任せるって不安かもしれない。
何はともあれ、俺達はさっそく行動を開始した。




