いざ、自分達の挑戦へ2
何をするにも、まずは現状把握から。
これはやっぱり欠かせないし、忘れないようにしていきたい。
「と言う訳で、いよいよここからが本番。しっかり打ち合わせをしていこうと思う」
「お兄さん、ここからが本番って前も言ってませんでした?」
「た、確かに前にこの店を始める時も言ったかもしれないけど…」
「これから、いよいよお店を……増やすんですね」
さすがアンシア。彼女だけは、いつも優しいフォローを入れてくれる。
これから俺達は、いよいよ丸猫屋の2号店出店を目指して、行動していく事になる。
その為にやるべき事だけなら、実は至ってシンプルだ。
出店する場所を決める。
店を建てて、商品や仕入れ体制を整える。
そこに店員さえいれば、もうそれはお店になる。
必要な物は、ここ本店と同じだ。そう難しい事は無い。
ただし、当然異なる部分はある。そしてそれこそが、ここからが本番と言った理由でもある。
そもそも俺達が今居る本店。
確かにこの世界において、新しい試みの店ではあった。
でも、実のところ失敗する可能性は、とてつもなく低かったんだ。
この店は、今までこの村にあった市場の、代わりとして出店した。
となれば、今まであった需要は、そのまま新しい店にもかかってくる。
形が変わっても、この村にあるお店はうちだけなんだから当然だ。
そして、それをわかってて、俺は採算が取れるように、価格などを新しく設定し、営業を始めた。
何か根本的な大問題が無い限り、当然成功するものだったんだ。
むしろ、そういう売上なんかより、人…コミュニケーションのトラブルなどの方が、起こりうる問題としては、可能性も高かっただろう。
そういうトラブルはひとまず無かったはずだし、なによりだった。
そして、これからの話だ。
ここからは、本店の時とは大きく違う要素が出てくる。
まず、今までには無かった仕入れ経路を、確保する必要があると言う事。
これはもう、やるしかない。
なにより大きな違いは、同じ商圏に競合店…つまり、ライバル店があると言う事だ。
この村では無く、隣の町などで買い物をする人が多いと言っても、この村で買い物をするにはうちしかない。
そういう状況のこの村とは、訳が違ってくる。
今、何か必要な物があるって時に、うちの2号店か、余所の店かで、選択される事になるんだ。
まあ、これも当たり前すぎる程、当たり前の事だな。
そして、この世界においては、さらに考慮して動かないといけない要素もある…。
これは、またその時、皆にも話していく事にしよう。
俺は、大まかな方向性について、皆に話を進めていく。
この会議に参加しているのは、まず当然マリー。それからアンシア、ローナ、イエロー、あとソウさんにも聞いて貰っている。アンシアの胸に抱かれたメルも居るな。
このメンバーなのは、ちゃんと理由がある。内容は人によって異なるが、全員に聞いていてもらいたい事だ。
シンプルなところだと、イエローは監視役である以上、間違いなく俺についてくる。
そうなれば、2号店出店には必ず関わってもらう事になる。だから、この会議にも参加して貰ったと言う訳だ。
「それで、肝心の2号店を出す場所だけど…隣の石の町に出そうと思う」
「あ、そうなんですね」
予想と違ったのか、少し意外そうなマリー。
「…はい」
そのまままっすぐ、了承したといった風のアンシア。
「あたしも、何回か行ったな事あるなー。了解」
こちらも前向きな様子のイエロー。
ソウさんも、進めてくれといった感じで頷いている。
「………そっかぁ。頑張ってねぇ」
そんな中、どうにも反応がおかしい人物が一人。
「…ローナ。頑張ってねって他人事みたいだけど、2号店には一緒に行って貰うつもりだからね?」
「えーうちは…そのぉ……ここで翔様とぉ、二人で頑張るって感じでー?」
「いや、俺は当然2号店に行くし。とりあえずは」
「…むぅ」
なんだろう。何か石の町に行きたくない理由でもあるのだろうか。
ローナの故郷だし、新しく店を出すに当たって、見知った“顔”があるのと無いのでは、信頼度が変わってくる。
新しい店が出来る事なんて、ほとんど無い世の中だし、せっかく対策出来る人材が居るのに、起用しない手は無い。
…そういえば、そもそもローナって、何て言ってこの村へ来たんだ?
俺の視点からすれば、突然村に来て、そのまま居着いたってだけだった。けどその前に、ローナは元々居た場所があった訳で…。
彼女も大人だし、本人が自ら居着いた以上、特に気にしてはいなかった…けど……。
俺もそれなりに一緒に過ごして、ローナの事も少しはわかってきた。
やる事はやってくれるけど、基本的には何もせず、のんびりしてるのが好きみたいなんだよな。
そして思い返すに、初めて会った時のローナは、彼女の母親にしっかり仕事を振られて、とてもめんどくさそうだった。
……まさか。
「ローナ」
「…なにかなぁ?」
「さすがに無いと思うけど…、何も言わずにここへ来たりしてないよね?」
「…」
いつにも増して、むにゅんとつぶれて呆けた顔。
あ…これビンゴだ。
「ローナさん!!?」
そしてマリーからツッコミが入った。何を考えているのかと、追及が続く。
いやあ…多分、単純にもっとゆっくり出来る場所が欲しかったんだろうなあ。
それで、自分を攫ってくれる王子様来ないかなーと思っていた所に、俺が来たと。
うーん。のんびりしたがりな割に、行動力はあるんだよな。戦闘力も高いし。
「うぅ…戻りたくないよぉ…。絶対怒られるもんー」
「そりゃそうだろうけど、やっぱり心配もしてるだろうから、この機会に行くよローナ」
「にゅー…」
…まあ、とりあえず肯定と受け取っておこう。
「でも、良いんですかお兄さん」
「ん、何が?」
「だって、私達は新しい店…要するにライバル店になる訳ですよね。そこに、ローナさんを居させるのも、なんだか…」
「そこは、俺もわかってるよ。でもね…どういう形になるかはまだわからないけど、あくまで俺達が目指すのは、結果の部分なんだ。今の、ほとんど最低限の事しか出来ない。寂れていく一方の状況を脱して、皆が楽しく過ごせる世の中になる。そういう結果」
そして、その結果を導き出す方法を、少なくともこの世界の人達は知らない。
ノウハウをレクチャーすれば、それで皆がその通りにしてくれると言う訳でも無い。それはもう、この村で散々苦労して、時間をかけたんだから知っている。
美味い話があるんですけど、商売のやり方を変えませんか?
このピリピリとした状況で、これを信じる人は少数派だろう。
だったら、こういうやり方もあるんだって、示せばいい。
結果がわかりやすく出ていれば、信じる人も増える。
「わかりやすく言えば、正義の侵略…かな?」
「イエロー。そんな人聞きの悪い…」
いやまあ。実際のところ、そうとも言える事なんだけどね。
結果次第では、特に…。
「まあとにかく、次は実際にやる事をまとめていこうか」
皆の頷きを確認し、俺は話を続ける。




