王都の生活も落ち着いて6
俺は部屋を出て、まずは店内でも覗こうと歩を進める…途中で、話し声が聞こえた。
事務所に誰かいるのか。
店の裏側には、元の世界に倣って、俺がさっきまで居た救護室兼宿直室と、休憩室、それに事務所がある。普段の仕事は、この事務所でやる訳だ。
とりあえず、先にこっちから顔を出すか…。
そう考え、俺は特に気にすることも無く扉を開けた。
「へっ?」
と、珍しく間の抜けた声を出したのはイエロー。
「…は?」
と、鋭い一言どころか、一音を発してきたのがマリー。
「………お」
時間が、止まったような気がした。
待て、順に確認しよう。
部屋の中には、マリーとアンシア、ローナにイエローと、あの件の当事者が全員揃っていた。皆怪我も無さそうで、これは良い事だ。
問題なのは…その格好だ。まず皆、なぜかおそろいの服を着ていた。
この村の人が着ている服は、その時あった布で作りましたと言った感じの、簡素な物が多い。だから皆ばらばらだし、ところどころ継ぎはぎもある。
それが、今着ているのはそうでは無い。
これは…そう、いわゆる制服だ。落ち着いた色のワンピースに、エプロンを合わせている。
至って地味な服装ではあるのだが、普段との差で、少しおめかししているように感じられる。その為、特にその印象を受けるのはマリーとアンシア、次にローナで、普段から良さそうな服を着ていたイエローよりも目が行く…と思う。
普通なら。
しかし、今俺の視線は、完全にイエローの方へ向いていた。
なぜか?
それは、イエローの背中が、完全に丸見えだからだ。
たかが背中、されど背中。正直、色白で綺麗すぎて、何とも言えない。
おそらく…と言うか、完全に着替え中だったんだろう。
ここで俺は、この光景に…曖昧な既視感があった。
自分で経験した事がある訳では無い。
でも、なんだかよく見ていたような、この状況。
そうか…そういえば、ここはファンタジーな世界なんだよな。ここへ来た当初は、そういうおいしい展開も、妄想したりしちゃう程度には、期待を胸に抱いていたんだった。
全くこういう色気付いた事が無いから、忘れていた。
こういう時、うろたえるのは良くない。ファンタジー作品の先人達が、多くの犠牲と共にそれを証明してくれていたはずだ。
ならば…。
「よかった。皆無事だったんだね」
俺は、何事も無かったように切り抜ける方針で!
「…それはこちらのセリフですよ。今回、倒れたのはお兄さんだけですからね」
「いや…それについては本当面目ない…」
いけた…!?
「体調は平気なんですか?」
「ああ…。そういえば、それって」
「この服ですか? それはもちろん、この店の制服、その試作品です。私だって、待っている間、何もしていなかった訳では無いですよ。今後のプランで、必要だったはずですよね?」
「確かに、制服の採用は考えてたど…」
驚いた。まさに期待以上の働き、と言うやつだ。
制服は、今後本格的にチェーン展開した時に、作ろうかと考えていた。その意味なんかについても、マリーへのレクチャーの中で教えてはあったけど…。
「…」
もしかすると、この1年の間に、他にも色々な事をやってくれているんだろうか。
計画が変わり、ここからますます急ピッチで進めようと思っていたので、少しでもやる事が終わっているのは、非常に助かる。
これもマリーと、時間を取って擦り合わせしないとな…。なんせ1年も会ってなかったんだし。
「……」
「…マリー、どうしてそんなに近くまで寄って来るの?」
「本気で言ってるんですかお兄さん? すぐに振り向いて部屋を出ましょう。そして、少しお話しませんか?」
「…あー。そうそう、俺もちょうどマリーと、話がしたいなって考えていて」
「わかりました。それも聞きます。でも私のお話が先です」
「わかりました」
ここまで、イエローはずっと固まったままだった。
1年振りのマリーとの会話は、お説教から始まった。
基本女性しか居ないし、こういう事態への意識が緩むのは仕方がない。でも出来れば、俺も立ち入る部屋で、今後は着替えをしないで欲しい…。
そんな、ある意味平和な一日が、今日も続いていく――。
さて、やっとこうして、店にも戻ってこれた。
これからはまた、本職の方をやっていくぞ…!
俺がこの世界で成し遂げると決めた目標まで、まだまだ先は長い。
それでも、期限は刻一刻と迫り続けていた。
皆様ご無沙汰しております。らいずです。
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。
今回の話数で、また翔が、一つの節目を越えました。また今までと同じ流れで、次の駅までの構成を詰めて、その後続きをどんどん書いていきたいと思います。
今後とも、よろしくお願いいたします。
さて、今回は書いてる間に、PCが故障して設定資料を紛失し、脳内からバックアップを引っ張り出す。
そんな事をしていて、途中泣いていました。
でもおかげで気付けた事があります。
それは…この作品をラノベのつもりで書いていたと言う事です。
何を言っているんだと思われそうですが、私にもなぜこれを忘れていたかわかりません。
何とは言いませんが…これからはもっと、ネタやアクシデントも自由に混ぜつつ、楽しく職業物の体を保って行きたいです。
お堅い文章にする必要は無かったんですよね。私が面白く感じるまま、面白く伝えられる事が最優先です。
まだまだ手探りの状態ですが、これからも邁進していきます。
この世界での、翔視点の物語…まずはそこの完結まで、よろしくお願いします!




