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王都の生活も落ち着いて4

 それと同時に、上から覆う様に吹き付ける風。

「翔君違うよ! 皆固まって!」

「イエロー!?」

 その影の主は、イエローだった。既視感を感じる状況で、いつかと同じく飛竜に乗っている。またしても、なぜこんな所に居るのか。

 それにしても、どういう事だ。

「あの暗い塊の事! 知ってるの!?」

 俺は飛竜の風切り音に勝てるよう、精一杯声を張った。しかし、どうやら届いていないみたいだ。イエローは、魔術的な何かでも使ったのか?

 思わずそう返しつつも、手立てが無かった俺は、すでにその指示には従い始めていた。

 マリーの手を握り、アンシア達の居る方へ向けて走り出す。

「あの人っ…結局何者なんですかねっ?」

「さあっ…ねっ! …未だに教えて貰ってないよ」

 結構全力で走っているが、マリーは普通に合わせて付いて来ている。こんな所でも、自分のこの世界における弱さを実感してしまう。

 イエローは飛竜を敵に寄せて、アンシア達から敵を引き受けた。今度は飛竜が、異形のそれに追いかけられ始める。

 どうやら、一番近い対象を狙っているみたいだ。魔物と同じく、動きは単純らしい。

 そのままの流れで、飛竜が地面の近くを掠めた時、イエローが跳び下りてきた。敵は引き続き、飛竜が引き付けてくれている。

 俺達は急ぎ、合流した。

「や、数日振りーって、言ってる場合じゃないね」

「本当だよ。聞きたい事は多いけど…どうすればいい?」

「だね。こいつには、魔力で対応するしかない。物理的な干渉は受け付けないから。……まああたしも見るのは初めてだけど」

「…今最後何て」

「それも、光系統の魔術に乗せないと駄目。後は…純粋に力の勝負。押し勝てれば、現れていた時とは逆に、消えていくらしいから!」

 救世主かと思ったら、一気に怪しくなった。

「なるほど…で、イエローはそういう魔術を使えたり…?」

「ふふん…もちろんだよ」

「「おお…!」」

 良かった。ならばとにかく、その対処法を試す事は出来る訳だ。

 俺達は、揃って期待に満ちた相槌を返した。

「と言っても、あたし一人じゃ多分足りない! 力負けしちゃう」

「ええ!? それじゃあ駄目なんじゃないですか!」

 ああ…なんかこの、マリーとズバッとした突っ込み懐かしいな。

 …そんな場合では無いよな、うん。

「つまり、力負けしない様にすればいいと」

「さすがだねー翔君」

 俺はピンと来ていた。これは、あの夢のカインと、同じような事をすればいいんじゃないか。

 今目の前に居る敵は、夢で対峙していた物とは規模がまるで違う。俺たち程度の人数でもなんとかなる…そういう感じでは無いだろうか。

「よし」

 俺はイエローに向かって、バッと腕をかざした。

「翔さん…何して…るんですか?」

 アンシアからの、心配そうな声が痛い。

「え、いやいや…こう、これでイエローに皆でエネルギーを送って…みたいなね」

「何と勘違いしてるのか知らないけど、普通に必要なのは魔力だから。あたしが上手くやるから、皆、どこかに触れてくれる? そういうの得意な人は、自分であたしに送ってくれると助かるけど」

「うちは苦手だからねぇ。よろしくー」

「なんとかなりそうなら、やってみます」

「わたしも…出来るだけ」

 そう言って、皆は順にイエローの身体に手を置いて行った。

 この場で準備をして、今頑張ってくれている飛竜を呼んで対処するわけか。

「…」

「翔君? 君も早く!」

「えっ。あー…いや、ごめん。必要なのって、魔力なんだよね…?」

「そうだよ?」

「俺は…魔力がほとんど無いらしいから…力になれないと思う」

「え?」

 く…いわゆる生命力的なものを、必要とされると思ったのに。魔力じゃあ、俺にはどうする事も出来ない。

 つくづく辛い現実…。

 俺だってこう、一人でヒロインを、かっこよく守りきるようなポジションでありたかった。

 それが今現在、俺の前には自分より年下の女性陣が4人。俺はと言えば、メルを抱えてその後ろに突っ立っている。

 逆だよな普通…?

「そんな事は無いと思うけど…」

「あ、イエロー! 早くしないと飛竜が!」

「今、かすりましたよ! よろけてます!」

「いけない!」

 イエローは慌てて指笛を吹いた。

 すると飛竜が、先程までより鈍い動きでこちらへ進行方向を変えた。空じゃあ、陸みたいに鋭く地面を蹴って躱すことも出来なかっただろうし、無理をさせ過ぎた。

 やはり、あれに触れると何か、悪い影響を受けるらしい。俺みたいにすぐ回復するかもしれないけど、もしかすると、再び飛竜が敵を引き付けるのは難しいかもしれない。

 つまり…あいつを消し去れるかは、一発勝負と言う事だ…!

 飛竜が俺たちのすぐ上をかすめ、そのまま後ろへと過ぎ去っていく。すさまじい風だ。

 俺はよろけそうになったマリーを支えた。こんな事でしか貢献できないとは…。

 すぐに来るであろう敵に備えて視線を前に向けたが、その瞬間後ろで激しい衝突音がした。

 一瞬後ろを見て確認すると、なんと飛竜が木々に突っ込んでいる。

 よほど大きく、あの暗い何かに触れてしまったのだろうか。

 心配だが、これで本当に飛竜には頼れない。この一回で何とかするしかない!

「いくよぉ…っ!」

 光がはじけた。

 イエローは、何か小さな物体に、光を付与しているように見える。

 それが敵と衝突し、ゆらゆらと揺れていた。

「こ…れは…!?」

「うう…なんですかこれ。色々こう…色々気持ち悪いです!」

「んー…いつ以来かなぁこういうのぉ。むずかしー」

「ローナちゃんの魔力、すっごい扱いにくいんだけどぉ!」

「んっ…!」

「アンシアちゃんありがとう~! 無理はしないでね!」

 目の前では、俺の目には見えない魔力のやり取りが、慌ただしく行われているらしい。とても苦戦しているようだが…大丈夫なのだろうか。

 俺も魔術の練習はしたし、想像は出来る。おそらくあの流れみたいなものを、イエローを通してあの光まで流しているのだろう。もしくは、イエローの流れに乗せるところまでで、残りはお任せだろうか。後者かもしれないな。

 しかし…どうにも戦況が厳しい。

 敵の形が、ずっと定まらないのは変わらない。でもこちらの光の方も、安定していないように見える。出力も足りてない…のか?

「翔君! やっぱり君も参戦して!」

「でも俺は、簡単な初歩魔術すら、結局上手く出来なくて」

「いいから! それでもほんの少しくらい、やり方はわかってるんでしょ? 試したなら、感覚も知ってるんだよね? なら早く! …あっ! 変なところ触ったら絶対駄目だからね!」

「意外と余裕あるね!?」

「お兄さん…?」

 マリーさんの鋭い眼差し頂きました。

「変な事してる場合じゃないでしょ!」

「それなら~うち越しに送ればいいよぉ」

「ローナさんは…集中…してください」

「はい! 普通にイエローに触るから!」

 俺は、やけくそ気味でイエローの肩に手を乗せた。

「ひゃあ!? しょ、翔君そんな強く…こっちは集中してるんだからね!」

「何ですかその色々いやらしいセリフは」

「翔…さん。すぐに、魔力の流れに乗せて…下さい!」

「頑張って~翔様ぁ」

 …この目の前の存在に飲み込まれたら、どうなるか皆わかってるのか?

 ……いや、そうか知らないんだよな。なら仕方が…無い?

 そんな余計な思考を頭から追い出しつつ、俺は魔術の練習と同じ要領で、身体の中の魔力を探っていく。

 しかし、少々不安だった。

 身体を鍛えるのは、ずっと休まず続けていたが、魔術の方はそうでは無い。

 何度やっても、その後気絶するのは変わらなかったし、万が一練習で起こした魔術で、問題でも起こしたら大変だからと、ここ一年の王城暮らしでは、練習をしていなかった。

 こう…そうだ。思い出してきた…?

 身体の中に通る、血管とは別の何か…そこに流れる力を感じ取って………。

 …?

 記憶より、少し量が多い様な気がするが…今はそれならそれで万々歳だ!

「これでっ…何とかなれえええええ!!」

 俺は魔術の真似事と同じ要領で、イエローを通って光の先へと進むようにイメージする。

 自分に出来る全力…それをぶつけた。

 これで多分、俺はいつも通り気絶する…。今出来るのは、こんな程度しかない。

 でも良いんだ。ここは俺、が先頭に立たないといけない場面じゃない。だから舵取りを任せて、全力で求められた事を返す。

 人によっては普通でも、俺が今までどうしても出来なかった事。

 けれど…この世界に来て、そういうのもあるんだって学んだ事だ。

 信じて……誰かにゆだねる事だ。

「う…」

 身体から力が抜け、目が霞み始める。

 視界が白くなって、暗い何かの姿が見えなくなったのは…俺が見えてないと言うだけだろうか?

 ちゃんと何とかなったなら…良いんだけど…。

 いや。俺が参戦するまで、拮抗してたんだ。きっと大丈夫…。


 俺は、そんな不思議な確信と共に、ゆっくり意識を手放した。

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