王都の生活も落ち着いて2
今日も、いつもの夢。
暗い塊………。
あれの正体は、結局なんなのだろうか。
今回の一件で、わかる事は増えた。けれど、最終的な争点である敵の正体は、少なくとも俺の目線からは、まだ見えてこない。
魔物の親玉って言う線が、今のところ濃厚なのだろうか。
でもあの塊って、明らかに生き物では無いんだよな…。
俺たちは、もう何度目になるのか、地竜の背中で揺られていた。
それなりに揺れているのに、ローナとメルは、安定のお休み中だ。
今回は以前より、さらに人数が増えていて、大丈夫なのかと最初は思ったのだが、地竜が背中に荷台のようなものを背負う事で解決した。
重さ的にはさらに負担が増えてるはずなのだが、地竜は全く気にしていない様子だ。この生物も、魔術強化を自分でしていたりするんだろうか。
この竜に出会ったのは、まだこの世界に来て間もない頃だった。その時は、そういう物として受け入れたけど、この世界の事が分かってきた今となっては、逆に不思議だよな。
「翔…さん。あれ…」
「ん、ああ…」
俺たちの目線の先には、ずいぶんと久しぶりに見る村の門があった。
前回は、帰って来たと思ったら帰れなくて、まさかの展開だったなあ…。
今回はさすがに、あんな事は無いと信じたい。
そう考えている間に、地竜は前回くぐれなかった門を無事通過していく。なぜだか少し、安心してしまうな。
そういえば、今回はマリーが、門の前には居なかったな…。
手紙で、今日が帰る予定の日なのは伝えてある。前と同じで、不安そうに立っているかもと思っていたんだが…。
実はここ最近の事務的な手紙は、本当に愛想を尽かしていた…とか無いよな?
最初の時の、いつものように俺を咎める内容だけが本心で、会ったらおかんむり状態とか…マリーならあるかもしれない。
それで、不機嫌そうにしながらも、ちゃんと話をしてくれるし、気を使ってくれたりもするんだよな。
俺はいつの間にか、自然に口元が緩んでいた。
そうしているうちに地竜は、いつもの荷卸し場所が見える位置まで進んでいた。
そこに一人…若い女性?が立っていた。
なぜ疑問形なのかと言えば、その人物が思い当たらないからだ。
ここは店の裏手だし、荷受けをするための従業員のはず…なのだが、あんなに若い人は居なかったはず。髪は背中にかかるくらいで、ポニーテールにまとめられている。…かわいい人だなと思った。
……あれ。
ここまで考えたところで、俺はまさか…と思い当たる相手が居た。
いや、でもこの程度でそんなに…?
「しょ、翔さんっ…!」
「え、ああ…そろそろ降りる準備しようか。ローナ達を起こして…」
まさかまさか。
そう考えながら、俺は一度視線を切り、準備を整える。
「そ、そうじゃ…なく………。いいえ…なんで…も、ない…です」
「そう…?」
俺は何か言いかけていたアンシアが気になりつつも、俺は考え続けていた。
確かに…あり得ると言えばあり得る。
そろそろ二十歳になるかって歳だったし、俺が来るまでは栄養が不足してるせいか、ずいぶんと痩せていて、小さかった。
一年も会わなければ、あるいは…。
「今日も、ご苦労様です」
「!!」
地竜が脚を止め、おじさんとその女性が、いつも通りと言う様に話を始める。
俺はなぜだかそれを見れずにいたが…意を決して顔を上げた。
「…あ、お兄さん? いつまでもそこに居ると、荷卸しが始められませんよ。早くしてくださいね」
「わ、わかった…」
久しぶりだと言うのに、第一声がこれだ。前回の意趣返しのつもりだろうか。
そこに居たのは、さっきまで俺が心配なんてしていた…マリーその人だった。
ま、まずい…びっくりした…。
何がって、まるで子供に思えなかった事だ。久しぶりだと、こうも違って見えるものか?
髪なんて、面倒くさがって適当に切ってたのに、伸ばして小奇麗にしているし…何より振る舞いが、どことなく落ち着いているように見えるのはなぜだ…!?
俺はもう、そのことで頭が一杯になっていた。アンシア達も近くに居るし、何か小声で話したりもしている気がするのに。
そもそも、なんでこんなに困惑する事がある?
お前まさか…そんな…自分が歳相応の自覚を持てていないのは勝手だが、相手は一回りも下なんだぞ。
そ、そうだ! あれだよ雑誌とかで、綺麗な子だなーって自分との関係とか抜きで思うやつ…それだよ。
…それもひどい感想と言うか、どういう目で見てるんですかと怒られそうなんだが?
どうしようどうしよう………と、悪い癖が出ている時だった。
「ああもう良いですよ! お二人ともお兄さん想いですね!」
「え?」
気が付くと、なぜかマリーに腕を持たれていた。いつの間に?
「いぃよいしょおお!」
「は…あああああ」
そして次の瞬間には、無理やり荷台の上から放り出されていた。
俺は慌てて体勢を整え、何とか受け身を決める。か、身体が痛い…。
そんな俺の横に、軽やかに降りてくる影が3つ。それに遅れて丸いのが1つ。
「全く、早くしてくださいって言ったのに…。色々期待していたのに、変わっていないですね」
「す、すみません…翔さん…」
「うちとアンシアちゃんは、止めたんだよー? …ふわぁ」
「は…はは…」
結構高さがあるのに。
本当、何と言うか…頼りになる女性陣だ。
思い描いていた感動の再開…とはちょっと違う。でも、良いなと思える。
そんなやり取りをしていた時だった。
上を見上げていたから、気付いた。
いや、早く気付く事が出来た。
「…どうしたんです?」
俺がよほど驚愕した顔をしていたのだろうか。
マリー達が、ゆっくりと視線を上に向ける。
「なん…ですか…あれ……」
「…」
「翔…あの女王の言葉、覚えておるな」
「………だから、忘れた頃に、こういうのは止めてほしいんだけどね」
空中に、明らかに普通では無い、何かが見えていた。
皆は初めて見るはずだが、それでもすでに、警戒をし始めている。それ程、異常を感じられるものだった。
そして、そこにあった小さな暗い塊の中から、ぬるりと何かが伸び始めた。




