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夢と、目覚めと

 今日からこちらを書いていこうと思います。

 賞に応募できる分量までは書き上げるつもりです。皆様よろしければ、評価やブクマ、貴重なご意見などよろしくお願いいたします。

 これは、一体なんだろうか。


 雷鳴が轟いている。ひたすらに大きく、強い、いかずちの力の放出。

 どのくらい巨大なのか想像も付かない力の塊が、空中で何かと激しく衝突している。

 何か……横から見ているだけでも、心が凍りつきそうになる。

 暗い、いやそれ以上の、虚無感を感じさせる何かがこちらへ押し寄せてくるのを感じる。

 やがて眩しい閃光に目が慣れたのか、光の中に一つの人影を見つけた。

 それは若い男性で、剣を両手で持ち、光の中心にいた。どうやらこの雷を放っているのは彼のようだ。

 すぐイメージに浮かんだのは、RPGで勇者がラスボスに単身、技を叩き込んでいるシーンだ。最後の一撃、これで世界の命運が分かれるクライマックス。


 いけ! 押し切れ!


 思わず俺はその若い男性を応援していた。

 こういう王道の話は大好物だった。

 今はそれなりに歳も喰ってしまったが、いつか物語の主人公になって、こんなかっこいい場面を演じてみたいと夢見ていたものだ。

 興奮冷めやまぬ中、俺は少しばかり違和感を覚えた。


 この人……ボロボロだ。体も、服や装備も……。


 普通、物語のクライマックスともなれば、主人公は良い装備を着たり、かっこよくて強い武器を持っていたりするものだ。でも実際には、装備や剣はお世辞にも良い物には見えない。それを身に着けているこの男性も、筋肉は付いているようだが、どこかやつれていた。


 何か、腐食みたいな攻撃でも受けたのだろうか。


 俺はそんな、ゲーム脳丸出しなことを考えながら、目の前で起きている衝突を見守っていた。

 しかし、どうにも旗色が良くない。

 激しく音を立ててぶつかる男性が、暗い塊にどんどん押されてしまっている。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。


 頑張れ! 主人公ならそこで負けるな!


 そんな俺の声援が届いたのか、男性は激しく声を上げ、わずかではあるが塊を押しのけたように見えた。

 しかしその抵抗も空しく、だんだん塊に飲み込まれていく。やがてその男性がほとんど飲み込まれてしまい、もうおしまいだと思ったその時、暗い塊の一部が一気に弾け飛んだ! そこにはボロボロになりながらも、最後の力を振り絞った男性が居た。塊はこれを受けて、少しずつ男性から離れていく。

 瞬間、勇者の勝ちだと俺は喜んだ。

 しかし、どうにも様子がおかしい。その男性が、ピクリとも動かないのだ。

 そうこう考えているうちに、男性の身体が指先からパラパラと崩れ始める。すべての力を使い果たし、一つの命が失われようとしていた。

 BAD END。

 そんな言葉が脳裏に浮かんだ。とても、とても悲しい結末だ。特に脈絡なく、なぜか見せられているこのイメージだが、それにしたってこんな終わり方はあんまりだと思う。

 せめてこの勇者に、もっと強い装備や剣を持たせてやればいいんだ。あとは身体もあんなにやつれていた。世界を救う勇者なんだから、もっとたくさん食べて、身体を作ってからあの塊に挑めば良かったんだ。そうすれば、この悲しい結末も、少しは変わっていたかもしれない。それから、それから……。

 だんだんと、周りの光が無くなり、辺りを見づらくなってきた。そもそもこれはなんなのだろうか。夢?それとも幻?


 -     サイゴノヒトカケラ-


 今の、声?は、なんだろう。サイゴノ……最後の一欠片? 一体何の欠片なのだろう。どこかに、何かの欠片が眠っていたりするのだろうか。その欠片があれば、さっきの勇者はあの恐ろしい塊に打ち勝てるのだろうか。

 それなら、俺が……。

 おそらくただの夢か、はたまたいつもの妄想かという、この言葉の意味を考えながら、俺の意識はここではないどこかへ誘われていった……。




 俺は一体どうしたのだろう。

 どこかふわふわした感覚がある。背中に当たっている何かは、ゴツゴツとした硬い物みたいなのに、なぜかとても優しく包まれているような気がした。温かい、大きな大きなぬくもりに包まれている気がした。

 しかし、不思議なことに身体を起こす事ができない。体中の力が抜けたように感じ、まぶたを持ち上げる事すら億劫だ。それでも何とか力を込めてまぶたを持ち上げると、一人の女性……いや女の子だろうか。高校生くらいの歳の子が、ぼんやりと視界に映った。しかも、しきりに口が動いていて、何やら言っている風だ。

 視界もぼんやりしているが、耳も上手く聞こえていないのだろうか。どうにもこの子は少し怒っているような気がする。

 すまない。すぐ、起きて話を聞くから……。

 頭ではそう考えていても、身体はてんで言う事を聞かない。若干聞こえ始めた女の子の声を子守唄に、再び意識を手放した。




「あら、目が覚めましたか」

「え……?」

 目が覚めると、見知らぬ木製の天井があった。そして、横になっているベッドの傍には、一人の女の子が立っている。どうにも、頭が上手く回らない。でもここが、自宅のベッドではないことだけは確かだった。

「気分はどうです? 話はできそうですか?」

 これはいけない。身体はどうにも重いが、話が出来ないほどではない。誰なのかはわからないけれど、あまり心配をかけたくはない。

「ああ、身体は重いけど、話はできそうだよ。君が、面倒を診て?くれたのかな」

「まあ、あそこにあのまま居て貰っては困りますから」

「あそこに、あのまま……」

 思わずオウムのように聞き返してしまったが、言われてみると今寝ているここは、先程目を覚ました場所とは違うところのようだ。背中に当たる感触も、ゴツゴツしておらず、それなりにやわらかい。あまり良いベッドというわけでも無いようだけれど。

「それでは改めてお伺いしますね」

 気が付くと、女の子は俺の傍から離れて、板張りの部屋の隅で後ろを向いて居た。そして何か、1メートル程の長い物を両手に持っている。それを持ったまま、長い丈のスカートをふわりと翻し、こちらに振り向いた女の子を見て……。

 俺の意識は一気に何段階か覚醒した。

 いや、まだぼーっとはしているんだけどね。なぜかはわからないんだけど。

「あなたは、どこの、誰ですか?」

挿絵(By みてみん)

 普通に生活していて、実物を見ることなどまず無い。厳つい西洋の剣を、両手に持つ女の子がそこに居た。

「はい! 上木 翔と申します! しがない会社員をしております!」

 条件反射で普段通りの敬語で名乗ってしまった。

 いや、問題はそこじゃない。それはもう完全無欠にそんなことじゃない。

 なぜ俺は起き抜けに、あんな大きな剣を向けられているんだ。しかもそこそこかわいらしい女の子に。

「かいしゃいん、と言うのは聞いたことが無いです。ますます怪しい……」

 女の子は警戒を強めた様子で、キッと目つきを強めた。俺との距離は相変わらず離れたままだ。俺がどうしたものかと動きかねていると、女の子が言葉を続けた。

「質問を変えます。どうしてあそこに居たんですか?」

「あそこって……? どこのことかはわからないけど、俺は無実だよ! 変態と言う名の紳士だよ!」

 女の子の周りの空気が、すうっと2度ほど下がった気がした。やばい焦って意味の分からないネットのノリを口走った!

「……あなたがさっき寝ていた場所のことです」

 スルーされた! セーフ……セーフか?

「その場所がわからないんだけど……」

「とぼけないでください。あなたが寝ていた神樹のことです」

 神樹……ということは、もしかしてあのゴツゴツとした感触は、木の幹とかだったのか。

 しかしそんなことより、もっと大事なことがある。

 ここは一体どこなんだ。

 そもそもゲームやマンガ好きで慣れているせいか、普通に受け入れてしまっていたが、神樹なんて単語は生きていて早々使うものじゃない。少なくとも、俺の住んでいる場所の近所にそう呼ばれる大木があるということもない。

 では、どういうことなのか。

 そうだ。冷静になれば色々おかしすぎる。そもそもなぜ剣が、こうして目の前にあるんだ。

 女の子の来ている服、どこの国の服だ。嫌に古臭い。今まで生きてきた中で感じたことがないくらい“濃い”とわかるこの不思議な大気は、ただの気のせいか?そう、これはまるで……。

「異世界転移……」

「何を言ってるんです?」

「す、すまない。とにかく、君の言う神樹様の所になぜ居たのかは、本当にわからないんだ。信じてほしい。むしろその時は意識も半端で、気が付いたらこのベッドだったって感じなんだよ」

「気が付いたら、メルクリウ様の所に居た……?」

 とにかく剣が怖い俺は、早口で一気に言い訳をするしかなかった。メルクリウって言うのは神樹の名前か何かだろうか。

「俺、こわくないよー? 優しい人間だよー?」

 またよくわからないことを言っている自覚はあるが、寝起きでいきなり剣を突きつけられるのを想像してみてほしい。間違いなく怖いはずだ。俺は怖い。

 いらないことを呟きながらビクついていると、やがて警戒を解いてくれたのか、女の子は剣を床にゆっくりと降ろした。本当に良かった……。

「もし本当なら、もしかしてあなた……」

 何やら納得した様子で呟いている。とりあえず危機を脱したのだろうか?

 安心した俺は、先ほどまで身体が異様に重かったのを思い出した。先程までは剣との距離を取るために起こしていた上半身が、ズルズルとベッドへ沈んでいく。

 あ、これはダメだ。また意識落ちそうだ……。

「ちょ、ちょっと! だいじょ――」

 これからどうなるのだろうか。さっき思った通り、ここは本当に異世界なのかな。もしそうなら……少し楽しみかもしれない。

 先程まで剣を向けていた女の子が、一転心配そうな声をかけてくれているのを聞きながら、俺はまたしても意識を手放していくのだった。

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