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第14話  鬼は先を考えない ③

「こいつらを縛っといてくれ。サンタがプレゼントをラッピングするように丁寧にな。」


白目をむいて泡まで吹いている盗賊を家の中に運び入れながら事も無げにオルガが言った。


「まだ外に出て1分ぐらいしかたってないんですが……。相変わらず無駄に強いですね。」


「すげえな、あんた!」


「当たり前だろぉ! このオルガ様が最強だっていうことは世の常識だぜぇ!」


エマをはじめ村人たちに賞賛の声をかけられ、高笑いを上げながらますます調子に乗っていく。

無駄に喜怒哀楽が激しいのがこのオルガという男である。


「ああ、気分がいい! 酒がないこと以外は最高だ!」


「まあ、無駄口はそのぐらいにしてさっさと働いてください。」


有頂天になっているオルガにエマが釘を刺す。

彼女もこの男の扱い方が何となく分かってきたのである。


「だんだん口が厳しくなってきたな、嬢ちゃん。」


「エマです! いい加減覚えてくださいよ! 何回言ったと思っているんですか!」


「悪いが俺の頭はいい女の名前しか記憶できないんだ。覚えて欲しいのなら早く大きくなってナイスバデイになることだ。」


嫌味ったらしい答えに頬を膨らませそっぽを向くエマを笑いながら玄関の前にどっかりと腰を下ろした。

その額には脂汗をうっすらと浮かび上がっている。


(さあて、ここからが本番だ。奴さんがどう出るか、覚悟決めて待たせて貰おうじゃねえか!)


ここまでは大した問題もなく進むことは予定通りだがこれ以降はまるで予想できない。

先ほどの盗賊の報告からどう動くかは神に祈るしかないのだ。

この時のオルガはいつものように不敵な笑顔を浮かべ、指揮に影響が出ない様にするしかなかった。

そんな彼に再びエマが話しかけてた。


「暇そうですね。それとも作戦を練っているんですか、オルガさん?」


「いや、別に。燃料が切れそうだから極力動かない様にしているだけだ。」


空になったボトルを取り出しながら残念そうに肩をすくめる。


「暇ならよかった。一つ聞いておきたいことがあるんです。」


「なんだ、愛の告白か? それなら後三年待ってからにしな。」


「あなたには一生しないので安心してください。ああもう、すぐに話をずらすんですから……。」


エマは一度大げさにため息をついた後、オルガの横に腰を下ろす。


「これが最善の策……そう言いましたけど嘘ですよね。本当の最善の策はオルガさんだけでもここを逃げ出すことでしょう?」


彼女の言う通り、オルガは一人だけであればこの場を切り抜けることは余裕である。

盗賊の人数など言わずもがな、本気で動く彼に大砲の玉が当たることなどありえない。

それにも関わらずあえて危険を冒してまで村人を守る意味が彼女には分からなかった。


「私たちはつい昨日であったばかりの関係です。ここまでする義理はないんじゃあないですか?」


「別に深い考えがあるわけじゃあねえ。ただここでてめえらを捨てて逃げるのはいい男がすることじゃあねえと思っただけさ。」


だが、帰ってきたのは命を切り売りするこの場の返答とは考えられぬものであった。

その答えに思わず笑いがこぼれる。


「こんな時でも恰好を付けるんですね。随分でかい肝っ玉を持っているようです。」


「当たり前だろ? 男が恰好を付けなくなったらそれこそ終わりだぜ。」


どんな時でも何一つ変わらぬこの男の存在がどれほど皆の心の支えになっているだろうかと彼女は思った。

今、疲弊しきった村人たちの精神にはすがる物が必要である。

常に圧倒的な自信を身にまとっているオルガという男はまさにその役割にピッタリな人材であった。

彼の存在こそが村人の心を支えているのである。


「あの……オルガさん。」


「ん? どうした? このナイスな俺の横顔を気にいったのか?」


エマは立ち上がりオルガの前へと移動する。

そして、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございます。後、ほんのちょっぴりですが私はカッコイイと思いましたよ。」


彼女はそれだけ言うと他の人質たちの輪へと入っていた。

残されたオルガは何となく照れくさい気持ちになり何となく頭を掻いた。

盗賊に襲われようと、大砲に囲まれようと常に不敵な笑みを浮かべていた男が初めて困った表情になっていた。

恰好を付けるくせに指摘されると以外に弱い男である。

彼が柄にもない顔をしていると入り口のほうから怒鳴り声が聞こえた。


「人質どもに告ぐ! おとなしく仲間を解放しろ! そうすれば命までは取らん!」


「空気の読めねえ奴らがおいでなさったな。てめえら、入り口から離れろ。俺一人で交渉をする。」


人質たちにそう命令をした後、オルガはゆっくりと扉を開け半身だけ外に出し辺りを見回す。

そこにはどこから集まってきたのか少し離れたところから足の指を含めても数えられないぐらいの盗賊がこちらを睨んでいた。


「うじゃうじゃ集まってきやがって。砂糖を巣の前に落としたアリかてめえらは!」


「なんだと、コラぁ!」


「人舐めんのも大概にしとけよ、この野郎!」


「だっさいバンダナしやがってよお!」


オルガの挑発した言葉に切れた盗賊たちが切りかからんと盛り上がるのを一人の初老の男が鎮める。

どうやら彼はこの盗賊たちを指揮する立場、頭領に当たる人物のようだ。


「貴様らが何をしてもここから逃げることは出来ん。おとなしくしていることが最善だとは思わんか。」


「悪いがおとなしく死ぬほどこの村の奴らはお人好しじゃないらしい。こいつらの要求は村長の身柄だ。あんたの説得は聞く気はないからさっさとこっちの要求をのみな。」


ニヤニヤと笑い挑発するような態度で対応するオルガに明らかに苛立ちを見せながらも男は落ち着いて話しかけてくる。

怒りに流されないところは流石頭領というべきだろう。


「村長をそっちに送ってやる。だが、先に同胞を解放してくれ。」


「村長の身柄が先だ。そうしたら、9人のうち2人を解放しよう。制限時間は3分だ。遅れれば1分ごとに一人殺す。以上!」


一方的に自分たちの要求を叩きつけると話を聞かないと言わんばかりに扉を閉める。

いきなり攻撃されるという最悪の結果だけは免れて一安心していると人質たちから歓声が上がる。


「よく啖呵を切ってくれた! スーとしたぜ!」


「ああ! 声だけじゃなくてあいつらの悔しそうな顔を直接見たかったぜ!」


まるでお祭りのように盛り上がっていく彼らとは真逆にオルガの気分は下がっていく。

4分経過したら必ず一人殺さなくてはならないからである。

彼には殺さないという選択肢はない。

なぜなら、必ず殺すことをアピールしなければ相手方に舐められてしまう可能性があるからである。

だが、殺してしまえば相手が強硬手段に出る口実を与えてしまうことになる。

作戦の成功を左右する三分間を扉の前でじっと待ち続ける。

永遠とも感じられたこの時間は以外にもすぐに終わりを告げた。


「村長を連れてきた! 開けろ!」


二分が経過したころ外から再び声が聞こえてくる。

扉を開けると盗賊たちに囲まれた男が確認できる。

オルガは酒をくれた男だということに気が付いたが念のため確認を取る。


「ガキンチョ、ちょっと来い。外の奴が本当に村長かどうか見てくれ。」


オルガの下の方からちょこんと首だけを出したエマがグーサインで答える。


「間違いないです。うちの村の村長です。」


「よし、もういいぞ。中に戻ったら適当な盗賊を二人連れてこい。」


エマが中に戻ったことを確認するとオルガが扉の前に出て交渉を開始しようとすると先ほどの男がこちらを睨んでいた。

年は取っているが鋭い眼光の男である。

そんな彼に向かって相変わらずニタついた顔でオルガは対応する。


「村長をこっちに寄こしな。そうすればお仲間をすぐに開放するぜ。」


「こちらの要求が先だ。同胞の解放を要求する。」


「お前らの意見を聞く気はない。大体お前らは信用できないからな。こっちが先に渡したら村長を寄こさず新たに解放を要求してくるかもしれない。」


「貴様らに選択肢があると思うなよ、小僧。こちら側には大砲があることを忘れてもらっては困る。」


「そいつをどうする? 仲間ごとふっ飛ばすか? やれるもんならやってみろよ!」


一向に進まない話し合いに男の方から妥協案を提示する。


「分かった。村長を先にそちらに送ろう。だが、解放される同胞の数を3人にしてもらいたい。」


「断る! と言いたいところだが心優しいこの俺は酒を追加することでその条件を飲んでやろう。どうだ?」


「構わん。おい、予備の酒があるはずだ。あれを持ってこい。」


近くにいた部下に命令すると男は一歩前に出てオルガに尋ねてくる。

その顔には先ほどまでの不機嫌なものではなく不気味な笑顔であった。


「お前、そいつらのリーダーか? 見たところカスっぱちのE級冒険者のようだが。」


「クイズ番組なら司会者次第で正解になるとは言っておこう。」


「なら話は早い。そいつらの倍の金でお前を雇おう。こっちに来ないか?」


男は片手をオルガの方向へと差し出した。


「俺に寝返れってことか?」


「そうだ、そこでクソ共と最後を迎えるより利口な考えだとは思わんか?」


男の提案に対しオルガも口角を吊り上げ鋭い牙をむき出しにしながら笑った。


「悪くはねえ提案だ。さらに言えばてめえが美女なら俺は迷いなく乗るだろうぜ。」


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