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第13話  鬼は先を考えない ②

「まずお前らを守るためには絶対条件として相手の大砲の動きを封じる必要がある。人質を取るのが一番簡単な方法だ。」


「でも、仲間ごと撃って来るかもしれませんよ! 役立たずはいらないとか言って。」


エマは即座にこの作戦のもっとも大きな穴について指摘する。

その質問に対して鋭く尖った犬歯を見せつけるように口角をつり上げオルガはニヤリと笑う。


「確かにその通りだ。ここで捕まってもあの二人の職務怠慢として大砲を撃たないとしても強行的な手段をとる可能性は十分ある。」


「じゃあ、この作戦は……。」


「酒は最後の一杯が一番おいしいんだ。だから人の話は最後まで聞くべきだぜ、ガキンチョ。」


「ガキンチョじゃないです。エマです。」


エマが頬を膨らませ抗議するが彼は無視して話を続ける。


「いいか、人質が足りないなら増やせばいい。運がいいことにこの近くには雑草並みに盗賊がうようよいる。それを捕まえてこればいい。」


「で、でも仮にうまく捕まえてきても奴らは撃つかもしれない。そ、そんな不確かな作戦には同意したくない。」


中年の男性が怯えた目をしながらオルガに訴えかける。

そんな彼の目の前でオルガはチッチッチと舌を鳴らした。


「撃てないさ、奴らは。その理由を今から懇切丁寧にこのオルガ様が説明してやるから神父の説法を聞くようにありがたく聞きな。」


徐々に調子に乗っていくオルガに釣られて人質たちの目にも光が戻ってくる。


「いいか、今盗賊団は何かしらの約束か金で非常にギリギリの状態で繋がっている。仮定として5つの盗賊団としよう。まず、あの二人だけを人質にした場合奴らはどんな行動に出ると思う、ガキンチョ?」


「エマです。う~ん、奴らのミスですし何のためらいもなく攻撃してくるんじゃないですか?」


「正解だ。ご褒美としていい男のスマイルをあげよう。」


「いらないです。」


「即答かよ……。」


わざとらしく残念そうな顔をするがすぐにいつものにやついた顔になり話を続ける。


「次の問題だ。この二人を捕まえたのち新たに他の盗賊団員を人質にした場合奴らはどう出る?」


「え……? やっぱり、攻撃してくるんじゃ……?」


「残念、不正解だ。」


まるでコメディアンのような言い回しをするオルガにエマは若干腹が立ったがそれを胸の中に押さえ込む。

それを言葉にしたら話が進まなくなると思ったからだ。


「そいつらは言うなら被害者だ。職務怠慢なあの二人のな。そんな罪もない彼らを殺すような指示を頭領が出してみろ。誰もそいつにはついて行かなくなる。」


「そんなにうまくいきますか? 恐怖で押さえつけて逃げられなくするかもしれませんよ。」


盗賊は決して優良企業などではない。

その中身は上下関係が厳しく恐怖政治に近いものも数多く存在する。

簡単に逃げられるような組織ではない。


「普段ならそれも考えられるな。だが、今回に限っては移籍先が目の前にあってすぐに身の安全が確保される。この状態なら逃げる奴は多いはずだぜ。」


「つまり、盗賊たちは仲間割れを恐れて動けなくなるってことですね!」


オルガの作戦は頭領間での身動きを取りづらくすることである。

この状態で撃つという意見は最悪、自らの盗賊団の弱体、もしくは解体への引き金になってしまい、撃たぬという意見の者は団員の増加を期待することが出来る。

つまり満場一致で撃つとならない限り、大砲を撃つもしくは強硬手段に出るという事はまずありえない。

大砲の一発の意味合いが大きな重みを持つのである。

頭領たちは間違いなく互いの腹の探り合いとなるだろう。

そうなれば多くの時間を稼ぐことが期待できる。

即席にしてはまずまずの策だ。


「どうだ? ナイスな案だろう?」


彼の考えを理解し村人たちの間に再び小さな歓声が上がる。

オルガはそんな彼らを満足げな顔で眺めているが、内心は全く穏やかではない。


(こいつらは指摘してこないがこの策は穴だらけ……憶測だけで成り立っている。風向き一つで読みなんてものはガタガタに崩れちまうだろうな……。)


そう、この策に対する裏付けとなるものは何一つとしてないのだ。

例えば人質の価値。

オルガが出した策は盗賊団同士の力関係がある程度拮抗し、仲がそれほど良くないことが前提となっている。

だが、もし一つでも強い盗賊団がありそれが命令を出せる環境であればこの策はすべて無意味となってしまう。

それどころか敵を刺激したことにより現状が悪化し皆殺しにされる可能性もある。

さらに相手は生きている人間たち、他にも想定できない問題も数多く存在するだろう。


(でも、これしか閃かねえんだよなぁ。失敗したらエマだけでも連れて逃げるか。)


つまりはこの作戦、人質たちにとっては命を懸けたギャンブルに等しいものである。

だが、オルガは彼らにそのことを伝えず都合のいい所だけをあえて話す。

ここでパニックが起きれば作戦もクソもなくなってしまうからだ。


「とにかくは、人質をとり村長を連れ戻す。そこから先の話はそこまで無事にことが進んでから改めて説明する。文句はないな。」


その問いに対しての反応を見ることもなくオルガは自らの手錠を引きちぎる。

固く冷たいそれがあっさりと破壊できる彼に対して村人たちの期待は大きくなり、当然反論をするものはいなかった。


「それじゃあ、行動を起こす。その前に何人かの手錠を壊してやるから俺が連れてきた盗賊をすぐに取り押さえろ。残りの奴は後回しだ。」


それだけ言うとボトルを取り出し、酒を一気に煽る。

ここまで表面上は強気な態度を取っている彼であるが実はその内心は過度のストレスを感じていた。

今まで誰かのために、それも守りながら戦うなど経験した事がなかったからである。

まさに『酒! 飲まずにはいられないッ!』状態なのだ。


(敵を殺すだけで話が解決しないのがこれほど面倒とはな……。やっぱり、性に合わねえなぁ……。)


そんな弱気な考えを吹き飛ばすように酒を飲み切り自らの頬を強く叩く。


「よっしゃ、行くぞ!」


そう言うと勢いよく立ち上がり玄関の扉を蹴り開ける。

そして、間髪入れることもなく付近にいた盗賊二人を掴み家の中へと叩き込む。

コンマ数秒の出来事に盗賊たちはなすすべもなく床に頭を垂れることしか出来なかった。


「油断しているからだ、馬鹿ども。最も警戒していたところで結果は変わらなかったがな。」


玄関先で伸びている二人に唾を吐きかけると他の盗賊を捕まえるべく再び外に顔を向ける。

だが、そこにはすでにこの騒ぎを聞きつけ集結しつつある盗賊たちの姿があった。

その数、8人。


「お、おお。随分と早いな。劇場の裏口で囲まれる有名俳優にでもなった気分だぜ。」


予想以上の集まりの速さに流石のオルガも驚いた表情になる。

一方、盗賊たちも仲間を二人瞬殺されたためすでに手には武器が握られている。


その内の一人がドスの利いた声で彼を威圧してきた。


「てめえ、何勝手に出てきてんだ? ああ? ぶち殺すぞ!」


「いやあ、そろそろ注文していた出前が届くと思ってな。外で待とうとしていたんだ。」


「はあ!? なあに分けの分からねえこと言ってやがる! ふざけた事を言ってんじゃあねえぞ!」


「ジョークの分からねえ奴だな。まあ、別にいいか。てめえらをこれから豪華人質体験会に参加させることには変わりないんだからなあ。」


ふざけた態度を取り続けながらオルガは一歩、また一歩と臆することもなく彼らとの距離を詰めていく。

その悠々たる立ち振る舞いに盗賊たちは本能的に恐怖を感じた。


「な、なんだこいつ! 気が狂ってるのか!」


物怖じせずに歩み寄ってくるオルガに盗賊たちは一歩後ろに下がる。


「逃げんなよ。これからお前らは大事な役割があんだからよお!」


オルガはウエイトレスのような営業スマイルを浮かべながら怯えた盗賊たちに襲い掛かった。

そこから語ることは特にない。

ただ、鬼が暴れものの数秒で盗賊を一人残し全員ぶっ飛ばしただけなのだから。

気絶した彼らを次々に家の中に投げ込み終えると、何が起きたのか理解できず硬直している最後の盗賊に話しかける。


「お前さんは捕まえねえ。だからお仲間の間抜けどもに伝えな。人質を取ったから交渉しようとな。」


それだけ言うとドアをぴしゃりと閉じ家の中へ姿を消した。


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