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第10話  頭領を始末しよう

大砲。

それは火薬の力で物を飛ばす兵器である。

シンプルな構造のわりに威力が高く当たりどころ次第では龍すら撃ち落せる代物だ。

その強さは戦争の引き金にもなりやすいため、貴族ですら製造には許可が必要になるほど危険視されている。


「しかも、こいつは最新式なんだぜ。精度が高いうえに榴弾が撃てるんだ。」


冷や汗を流すエオナたちに気付かないのか盗賊はぺちぺちと砲身を叩く。


「……しかし、こいつを撃つには砲撃手が必要だろう? 素人に扱える代物じゃあない。」


大砲はただ火薬を詰めるだけであれば誰でも飛ばすことは出来る。

だが、命中精度はお察しの物になってしまう。

目標に当てるには特殊な勉強と訓練を積んだ砲撃手が必要となる。


「ああ、その通りなんだが前職が砲撃手だって奴が何人かいてな。角度とか火薬の量を調整してくれてあるんだ。一発だけなら俺たちでも撃てる。」


「珍しいね……。元砲撃手の盗賊なんて……。」


そう言うエオナであるがこの話を鵜呑みにしているわけではない。

砲撃手と言えば給料が良い職業である。

それが盗賊に身を落とし、それも複数人いるというのはまずありえない。

この場にいる砲撃手は依頼主から送り込まれた者達であると考えるのが普通だ。


「しかも、こいつは全部で16門もある。龍が襲ってきても負けやしないぜ。」


さらにこの言葉がエオナを焦らせた。

この数であれば間違いなくその内の何門かが狙っている場所は人質のいる場所のはずだ。

相手が人間であればオルガがなんとかするだろうが大砲相手では守り切ることは出来ない。

彼にこの場で大砲を破壊するか否かが問われる。


「全くだ。だが、ここでお話をすることが僕たちの目的じゃあない。先を急ごう。」


結果彼は盗賊をせかし、頭領たちの居場所を探ることを選択した。


(数が多すぎる……。一門一門破壊していく時間はない! ならば指揮系統を破壊するのが先決だ!)


一発撃つだけで装填から準備まで時間がかかる大砲を無許可で放つとは考えにくい。

頭領たちさえ始末し切れれば撃ち込まれるリスクは格段に下がる。

そう判断したエオナは目線をヘイラに向けた。

彼女も小さく頷きこの考えに同意したことを伝えてくる。


(頭を潰す! それが僕たちに出来る最善の手だ!)


ここは山中。

この環境であれば頭が潰された時点で逃げ出す者も多いだろう。

そうなれば盗賊を逃がすことにはなるが人質の安全度を上昇させることに繋がる。

そんなエオナたちの思惑など知らない目の前の盗賊は親切に山の山頂近くまで案内してくれた。


「この先だったよな、頭たちがいるのは。いやあ、歩き疲れたな。何か余分に欲しいなあ、おこずかい的な何かを……。」


追加報酬をせびりながら盗賊は指をこすり合わせる。


「そうか、何か上げないとね。しかし、生憎なことにお金はもうないんだ。代わりの物でもいいかい?」


「……ッチ! で何だよ、その代わりっていうのは。」


煙草を取り出し男は口にくわえた。


「地獄の観光ツアー券さ。」


そう言いながらエオナは彼の頭にサーベルを突き刺した。

貫通した剣先にはピンク色の何かが付着している。

完全な不意打ちからの居合であったため男は何が起きたのか悟ることもなくこの世を去った。



「仕事が早いな、ボス。死神もびっくりの無慈悲さだったぜ。」


不自然な形で倒れた盗賊の死体を茂みに投げ捨てながらヘイラは引き気味にエオナを見る。


「人々を苦しめた彼に生きる資格はないからね。でも、即死させてあげたのだから感謝してほしいよ。」


そう言いながら元々死体であった盗賊から能力を解除する。

ここから先は時間との勝負、いかに素早く頭領を殺し大砲を撃たせないという命を賭けたギャンブルである。


「よし、じゃあ行こ――」


パンと気合を入れるために一度手を叩いたのと同時に山の下の方から一発のゴウンと轟音が響いた。

二人の間の空気が凍る。

大砲が発射されたのだ。


「クソッ! 何でだ! 私たちの正体がバレたにしろ判断が早すぎるだろ!」


予想だにしていなかった突然の砲撃。

それに対してヘイラは怒りを拳に込めて近くの木に叩きつける。


「ボス! 村に戻るぞ! 状況を確認しに行くんだ!」


「いや、戻らない。このまま僕らは頭領の首を取りに行く。」


頭に血が上っている彼女に対してエオナは恐ろしいほど冷静だった。

その態度が仲間を心配していないように感じられて余計に怒りが湧いてくる。


「見捨てるってことか? 返答次第じゃ私一人でも村に戻るぞ。仲間を見殺しにするほど私は落ちぶれちゃあいない。」


「落ち着け、ヘイラ君。今の砲撃は一発だけだった。攻撃を目的にしたものであると考えるより脅しの可能性の方が高い。それならば頭領たちが固まっている今、奴らを叩くことこそが最善の策だ。」


確かに一発だけというのは不自然。

エオナの言葉は理に適っている。

だが、村で異変が起きたという事もまぎれもない事実。

どのみち不確定要素を抱えて進まなくてはならない。


「だいたい僕らが戻ったところで何もできる? 何もできないだろう?」


仮にこの砲撃でオルガを始めとする多くの者たちが死んでいるとしても彼らにどうすることもできない。

起きてしまったことを戻すようなことが出来るのは神だけだ。

彼らは神ではない。

それなら結果が出ることだけでも行わなくてはならない。


「オルガが死んでいるにせよ、生きているにせよ最良の結果に辿り着くには頭領を殺すしかない。」


ヘイラに彼の意見に反論をする言葉は見つからなかった。

代わりにヘイラは舌打ちをすると小さく分かったとだけつぶやき頭領たちのいる方へ駆け出した。


「すまない、ヘイラ君……。僕もオルガが気になるが無駄足を踏むわけにはいかない。」


「分かっているさ、ボス。ただ、心が納得しなかっただけだ。それにあの馬鹿は簡単にはくたばらない。」


素直に従ってくれた彼女に感謝しながらエオナもその後を追い先を急ぐ。

木々の隙間を走ること数十秒。

視界に木々のない開けたところの立てられた簡易的なテントの中に6人の影を見つけた。

恐らくあれが頭領たちだろう。

エオナは人形をすべて周りに浮かせ戦闘状態に入る。

ここから先に遊びは不要。

エオナの顔からは笑顔が消えていた。


「だりゃああああああ!」


前を走るヘイラが雄たけびをあげながら茂みから飛び出し一番近くにいた男の腹にハンマーを横に振りぬく。

骨が砕ける音と男は短い悲鳴らしきものを聞きながらヘイラはそのまま一回転し別の盗賊にさらにハンマーをぶつける。

胴体がひしゃげた死体が二つ宙を舞う。


「敵襲だ!」


盗賊の一人が叫んだがもう遅い。

すでにヘイラによって二人、エオナによって一人が戦闘不能となっている。

さらにもう一人が人形たちにリンチされ土に帰って行った。


「ひいいいいいいいいい!」


一瞬で仲間の大多数がやられ盗賊の一人が勝ち目がないと判断し剣を捨て逃げ出そうとする。


「逃がすか!」


エオナはそいつに向かって人形のうちの一体を飛ばし首を切り落とそうとした。

しかし、彼が殺す前にその盗賊は横から現れた強大な棍棒によって腰の所できれいに二つに折れ口から臓器を吐き出した。


「臆病者が盗賊なんかやってたら駄目じゃあねえか。なあ、冒険者よ。」


まるで丸太のように太い鉄の棍棒の持ち主である男が全く整えられていない髭をジョリジョリと触りながら二人に向かって堂々と歩いてくる。

腰にボウガンを下げ、オルガよりも大柄なその男は自分と同じぐらいの棍棒を片手で持ちながらニヤリと笑った。

対峙した瞬間に二人は悟る。

こいつは強者であると。


「能力者か、久しぶりに見たな。礼を言おう。おかげで分け前の量が増えたぜ。」


男からは発言の通り仲間が死んだことへ対する悲しみや怒りを感じることは出来ない。

それどころか横に転がっている仲間の死体に唾を吐きかける始末である。


「こいつは俺になめた口を聞いたんだ。俺のことを脳筋呼ばわりしたんだぜ。ちょうど事が終わったらこいつの盗賊団ごと皆殺しにしようと思っていたんだ。」


「君の胸糞悪い考えなんて聞きたくないね。まだボケた老人の話の方が興味があるよ。」


エオナはそう話しながら男の注意を引き人形で背後から頸動脈を切ろうとする。

しかし、男は後を見ることもなく棍棒を振り人形を破壊した。


「人が話しているときは最後まで聞けと親から習わなかったのか? 知らないなら今教えたから頭の中にしっかり入れておけ。あの世でもきっと役に立つぜ。」


「悪いが私らはあんたと世間話をするほど暇じゃないんだ。降伏して万全の状態で拷問ののち死ぬか、死ぬ寸前まで痛めつけられてから拷問ののち死ぬか、好きな方を選べ。」


「じゃあ、お前らを惨殺してその死体を見ながら一杯やるのを選ぼう。」


男は棍棒をヘイラに向かって振り落とした。

彼女はそれを避けながらエオナに向かって叫ぶ。


「ボス、人形で砲台の位置を探れ! こいつの相手は私がやる! ここには頭領は全員はいなかった!」


ここにいた盗賊の服装から頭領らしき者は目の前の男を含め三人ほどしかいなかったからである。

その言葉を聞き男は低い声で不気味に笑った。


「その通り。ここには三人しかいなかった。残りの二人はさっきの砲撃の様子を見に行ったよ。」


「親切にありがとう。地獄であったら酒を奢ってあげるよ。」


「そうか! じゃあ先に行って準備してな!」


男は走り出そうとしたエオナに対して一気に距離を詰め棍棒を打ち下ろす。

だが、その一撃は彼に当たることはなかった。


「おいおい、目の前にいい女がいるってのによそ見しちゃあ駄目じゃあないか。」


いつの間にか前に回っていたヘイラがハンマーの持ち手の部分でその一撃を受け止めたのである。


「女のくせに良い怪力だ。気に入ったぜ。手足捥いでうちの盗賊団で囲ってやるよ。」


男は一度棍棒を戻し後ろに引いてヘイラとの距離を取る。

その隙にエオナは来た道を戻り山の中へ消えていった。


「いいのか? こんな人気のない場所に一人でいるとこわーいおじさんに襲われてしまうぜ?」


ヘイラは彼が無事に逃げることが出来たとのを見届けると血だらけのハンマーを肩にかけ不敵に笑う。


「恰好をつけるなよ、おっさん。一分で蹴りを付けてやる。その間に閻魔への言い訳でも考えていな。」


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