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第09話  エオナの能力

「『人形を操る能力』か……。顔に似合わずファンシ―な能力だな、ボス。」


「悪かったね、似合わなくて。」


エオナは口を尖らせながら盗賊の心臓からサーベルを抜く。

そして、血を払うと鞘にしまった。


「だが、相手にはしたくない能力だ。視覚共有はなかなかヤバい。しかもそれを自由に飛び回すことが出来ると来た。敵なら最初に殺さなくちゃあいけないタイプだな。」


「その代わり火力不足なんだけどね。不意打ちが出来なきゃ素人でも落とせるよ。」


エオナの能力は正確には『人型の物を操る能力』。

発動条件も手の平で触れるだけという簡単なものである。

ただし、同時に操れるのは5体までであり重いものは空中を飛ばすことは出来ない。

そのため彼は軽くて操りやすい人形を好んで使用する。

全体的に正面から戦うよりも奇襲や偵察に適した能力である。

余談ではあるがあの可愛らしい人形たちは皆彼が手作りだ。


「それはいいとしてやりすぎじゃあないのか? 喉かっ斬ってくれたおかげで声は出されないがこれじゃあ情報も聞き出せない。」


ヘイラは死体に手を合わせたのちため息交じりに言った。

彼らの本来の計画であればここで一人残し情報を聞き出すのが最良であった。

だが、エオナはそれを全滅させてしまったのである。


「それなんだけどね、少し予定を変更しなくちゃあいけなくなった。」


人形に投げ捨てたナップザックを持ってこさせながら彼は顔を曇らせた。


「さっき偵察に行かせたら山の中で他の盗賊を見たんだ。」


「それがどうした、あと10人ぐらいだろう? 私らであればさして問題ないはずだ。」


その言葉に彼は苦笑いをしながら指を三本立てた。

ヘイラはそれに対して小首を傾げる。


「三人か? 余計問題ないじゃないか。」


「30人だよ、ヘイラ君。それもご丁寧に集団でね。」


彼女もエオナの言いたいことが分かり額に手を当てた。

決して倒せない数ではないが戦えば間違いなく大きな騒ぎになる。

更に最悪なのは上手く逃げた盗賊が村に知らせに行くという展開だ。

そうなれば人質へのリスクが格段に上がってしまう。


「……盛大だな。雇い主はさぞかし名のある奴なんだろうな。」


「たぶんね。僕は知り合いじゃあないことを祈っているよ。」


だが、それ以上に脅威なのは相手の底が知れない事である。

ここまで来て事前の情報、推測と大きな食い違いを見せている。

他にもなにか予想外のことがあると考えて行動しなければならない。


「で、叫ばれることは絶対に避けなくちゃあいけないから皆殺しにしたってわけか……。」


「うん。でもまあ、恥ずかしい話驚いて殺しちゃったっていうのが大きいのだけどね。」


「……次から気を付けろよ。」


エオナが下した判断が正しいかどうかは今はまだ分からない。

ここで聞き出せたかも知れない情報を捨てたのだから。

この行動の正当性は結果だけが決めてくれる。


「だから、代わりに情報は盗賊たち本人から聞こう。」


エオナはそう言うと自らと良く似た背格好の盗賊の息の根を止めると身ぐるみを剥ぎだした。


「変装ってことか……。結局は賭けじゃないか。」


「頭領たちの位置を知るならこの方が確実だ。死に際に吐く言葉よりも仲間に話す情報の方が信憑性があるからね。」


本来であればまず取ってはいけない策である。

別人として紛れ込むなどあまりに危険だからだ。

しかし、ここまで敵の人数が増えれば話は別である。


「それに相手は恐らく3・4個の盗賊団の集まりだ。知らない顔があっても特に何とも思わないんじゃあないかな。」


「顔に包帯でも巻いてごまかせば問題ないってことか。」


盗賊団の人数は平均10人から50人。

それより少なければ襲った相手に返り討ちに合う可能性にぶつかり、多ければ全員を食わしていくのは難しいからである。

さらに盗賊団同士が共に行動することは滅多にない。

互いの縄張りを荒らさないように暗黙の不可侵条約が存在するからだ。

そのため頭領同士ならともかく下っ端同士はほぼ面識がないはずだと踏んだのだ。

そのエオナの考えにヘイラも同意すると小柄な盗賊の息の根を止め服を奪った。


「じゃあ、私は茂みで着替えてくるから偵察よろしく。覗くなよ。もし、覗いたら死体を一つ増やすからな。」


「覗かないよ。そんな事をしたら妻に殺されてしまうからね。それに僕は妻の裸以外に興味はない。」


「随分と愛妻家なことで。」


彼女は笑いながら茂みに消えていきしばらくすると戻ってきた。

長い髪は盗賊がつけていたヘルメットの中にしまい男装をしている。

元々女性の象徴が著しく足りていないのでパッと見では華奢な男にしか見えない。


「着替え終わったのか。似合っているじゃないか。」


「そいつはどーも。女なのに男の服着て似合っているなんて嬉しくないね。というかマントだけは盗賊に着せないんだな。」


「僕の愛用のマントを盗賊なんぞに着せてたまるものか。」


「まあいいや、それよりも――」


そう言いながらエオナは死体の顔面を殴り正体を分かりにくくしていた。

すでに盗賊の恰好をしているため完全に虐待現場にしか見えない。


「何しているんだ? そういう趣味なのか? なら、あまり深く突っ込まないが……。」


「手土産を作ろうと思ってね。あ、ヘイラ君。この二人以外は殺して茂みの中に入れといてくれ。」


ヘイラは盗賊に止めを刺し、片手で投げ捨てながら尋ねる。


「手土産? 死体のギフトなんて誰も欲しがらないぞ?」


「まあ見ていてよ。」


そう言いながらエオナは盗賊の死体に自らの服を着せだした。




***



仲間を殺されていることなど想像だにしていない盗賊たちはくつろいでいた。

頭数が多すぎて全員に仕事がいきわたっていないのだろうか。

ボードゲームに興じている者やトランプで博打を打っている者もいる。

はっきり言って警戒心など皆無に等しい。


「あれなら大丈夫そうだな。流石下っ端。何も考えていないようだ。まさに馬鹿丸出しって奴だ。」


「上がいくら頑張っても末端の者は真面目に働かない……。領主時代を思い出して胃が痛くなってきた……。」


「そんな軟な精神じゃあないだろ、あんたは。」


そう言いながら顔には包帯を巻き変装した二人が茂みの中から堂々と現れる。

その後ろからは先ほど殺された盗賊も手を縛られながらついてきている。

無論生きているわけではない。

エオナが操っているのだ。

そんな彼らを盗賊たちのうち何人かは一瞥したのち自らの遊びに戻る。

気づいている様子はない。

そのことを悟るとエオナは近くにいた盗賊たちに話しかける。


「休んでいるところを悪いが冒険者を捕まえた。頭領たちの所に持っていきたいんだがどうしたらいい?」


酒を飲んでいた彼らはうっとうしそうに顔を上げる。

敵対心は感じるが気が付いているわけではない。

どうやら予想以上に盗賊団同士の中が悪いようだ。


「行きたきゃ勝手に行けよ。それとも仲良しこよし、手を繋いでいかなきゃあいけねえのか?」


「そう言うわけではないが……見ての通り僕らも怪我を負った。一人でいいから手を貸して欲しいんだよ。」


そう言いながら1万ギルほど相手に握らせると満足げに笑うと立ち上がった。


「しょうがねえな。ついて行ってやるよ。」


「助かるよ。じゃあ、冒険者の一人を連れて行ってくれるかい?」


「おう。……こいつはまた随分と派手に痛めつけたな。顔面がボコボコじゃあねえか。これじゃあ、情報も聞き出せるか分からねえぞ。」


「手強かったからね。手加減できなかった。」


ボロが出ないように適当に嘘をつきながら盗賊に前を歩かせる。

顔をしっかりと見られないためと本当は道がさっぱり分からないことを悟られないためだ。

だが、無言で行くほど彼らも暇ではない。

引き出せる情報は引き出さなくてはならない。


「しかし、僕らを含めてかなりの人数がいるね。何人ぐらいいるんだろう?」


「さあな。まあ、6つの盗賊団が集まっているから150人ぐらいじゃあねえのか。」


100人程度だと踏んでいたエオナはその人数の多さに一瞬は驚いたがすぐにいつもの表情に戻し情報を整理する。

予想をはるかに上回るその人数はエオナにとってはかなり問題である。


「こいつは参ったな……。」


「逃げるんだったら退路は確保するよ、ボス。」


彼の能力は少数の敵に対する奇襲や隠密行動には適しているが人海戦術に対してはめっぽう弱い。

人形を飛ばしてもこの人数が相手ではすぐに撃ち落されるため、砂漠に水を撒くようなものである。

そのため大人数とやりあえる実力のヘイラやオルガと違い彼だけが非常に危険な状態の中にいるのだ。


「こいつは参ったな!」


だが、このエオナという男は危険であると認識したうえで顔に手を当て口角をつり上げ嬉しそうに笑う。

彼はこの自らの命が危機にさらされたこの状況を楽しんでいるのである。


「お、おい。お前さんの相方が突然気が触れちまったようだが大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫。この人は頭の重要なねじが何本か抜けているだけだから。」


「人はそれを大丈夫とは呼ばないと俺は思うよ。」


突如笑い出したエオナに盗賊はドン引きする。

その後、彼は不気味な男とは関わらないでおこうと固く誓った。

エオナもその視線に気づき手遅れであるが平静を装う。


「し、しかし、冒険者を待ち受けるとは少しばかり危険な仕事だよね。」


「いや、そうでもねえだろ。何しろ『アレ』があるからな。」


盗賊がその『アレ』を指さしながら言った。

それは人類が作り上げたものの中で最高の兵器と呼ばれる物。

それはヘイラには馴染みが薄く、エオナには非常になじみ深い物であった。


「ボス、こいつは……。」


「家から逃げ出してからは初めて見たよ……。これがあると言うことは依頼主は本当に貴族のようだ。」


彼らが見たものは木々の隙間から村めがけて固定されている鈍い黒色を放つ一門の大砲であった。

貴族ぐらいしか入手することができないそれは横に立つ双眼鏡を持った盗賊と共に静かに火を噴く瞬間を待っているようであった。


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