プロローグ
君に伝えたい言葉がある…。
君に話したい想いがある…。
君に……。
何を...ーーーー。
世界は曖昧に満ちている。
それを誰かが証明する訳でもなく、証明したからと言って何かが変わる訳でもない。
光に満ちた世界があれば闇に満ちる世界もある。
そんなありきたりな世界はどこか狂おしいと感じてしまう。
そんな世界に生を成し、生きる理由も見つからないまま死が訪れ、そのまま朽ちていくのもまた一つの有りかたであり在り方なのである。
生き様なんてのは所詮人それぞれであって他人がどう生きようがどう死んでいこうが自分にはあまり関係の無いことなんだなと理解するのはそう難しくはない。
だが、他人と関係を持ってしまったなら関わりを生じてしまったなら、こんなにも心が汚染される事はなかった。故に穢れてしまうことは無かったのだ。
無でいようとすればするほど穢れが邪魔をし心を締め付けてくる。なぜこんなにも重い、なぜこんなにも苦しい…。
体が鉛のように感じそれは深海へと沈むようにゆっくりと堕ちていく…。
もがいてももがいても決して上がっていくことが出来ない闇の底に瞼を通じて赤い光が導くように差し込む。
暗い暗い世界に沈む心に一寸の光。
手を伸ばしてもそれはもう多分届かないだろう。届かせてはくれないだろう。このまま沈みゆく心が無に帰れるのならばそれもまたいいのかもしれない。それがいいのかもしれない。誰も何も感じない世界へ、誰も苦しまない世界へ。ひたすら堕ちて……。
ぐっ、ぷはぁっ!はぁ、はぁ、はぁ。
溺れていた感覚があった。息が苦しく意識が朦朧として、必死にもがいて。諦めていた筈の命が生きたいと叫ぶかのように鼓動がどくんどくんと音を立てて芯に響かせているような。
心のどこかできっと片隅の小さな場所でひっそりと、まだ生きていたい気持ちが残っていたのだろう。生きるものは死に際になって生への欲が強まるとよく言ったものだ。こんな自分にもどうやらそれがあったらしい。
苦しみから目が覚めると、見覚えのない場所に横たわっていた。
一つの部屋…なのだろうか…。
部屋といってもあまりにも不自然で、まるで森林にいるように周りが色鮮やかで、尚且つ空気がおいしい。
空も澄んで風も気持ちよく、まるで外にでもいるかのような錯覚さえも感じさせるからだ。
部屋と感じたのはよく見ると四方が壁に妨げられ、所々にいくつもの扉が取り付けてあったから…。
くっ、頭が酷く痛い。
先程も何かにうなされるように苦しく、死んでしまうところだった。
お目覚めのようですね。
誰かが奥の扉から入ってくる。
白い衣を羽織り、
天女のように美しい女性だった。
状況を理解しようとも頭は働かず、はっきりとしないまま質問をしようと口を開く。
すると女性はオレの口を人差し指で軽く添えるように閉じて、ニコッと微笑み静かな声でこう答えた。
貴方は、一週間前に御臨終になられました…。
途端、その言葉に再び闇へと引き戻された。