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エピローグ

 冬が終わり、春のはじめの陽気な一日。街は色とりどりの花で飾られ、通りに並んだ店では甘い菓子やきれいな宝石が売り出されている。


 今日は恋人の日。


 好きなひとに贈り物をして、想いを伝える日なんだって。日本でいうバレンタインとホワイトデーみたいなものかな。


 想いを伝えあったオレ達には関係ないイベントだけど、浮かれた街を歩くのはなんだか楽しい。ドキドキしながらプレゼントを選ぶ若い男の子や女の子に混じって、オレはブランカに似合いそうなアクセサリーを物色した。


「きれいな銀髪だから、エメラルドの髪飾りが似合いそう。だったら、そろそろ服も春物にしたほうがいいかな」


「ハヤもこの国の服を着てみたらどうかしら」


「ブランカが選んでくれるなら」


 ふふ、どうだ、このいちゃいちゃっぷり。君たちも勇気を出して告白すれば、こんなふうになれるかもね。他の客たちの羨望のまなざしが心地いい。


 ひとしきり愛にあふれる幸せな街を満喫して、オレ達は宿に戻った。


 夕食を済ませ、ブランカが愛用の道化人形を調整するのをぼんやりながめる。ささやかな嫉妬心を隠して、ポケットを探った。


「はい、ブランカ」


 テーブルの上に、小さな箱を置く。ブランカは手を止めて、ぱちぱちと瞬きした。あ、ひさしぶりに見たな、それ。


「オレからのプレゼント」


 ブランカは箱を手に取り、じっと見つめている。いや、中身、中身!


 ぱちんと開けると、小さな赤い宝石の指輪がきらりと光った。ブランカの瞳と同じ色の宝石。


「これは……」


「うん。王様がブランカの『心の器』を作ってくれてるときに、オレもバックアップ用に作れないかなーってチャレンジしたんだけど。全然できなくてさ。結局、魔力も何もない、ただの宝石なんだけど」


 ブランカはくすくす笑って、ありがとうと言った。


 オレ達は王様に教えてもらったから、もう知ってるもんね。ブランカの中に流れる魔力や、魔法酒の原料、それに『心の器』を作るための魔法石が何でできているのか。それは、強い強い人間の『想い』でできている。


 ブランカの細い手をとり、指輪をはめた。サイズぴったり。陶器のように白くすべらかな肌に、赤い宝石がよく映える。


「うれしいわ。たとえ魔力はなくても、ハヤの気持ちを感じるもの」


 喜んでもらえてよかった。指輪の意味はわかってなさそうだけど。


「じつは、私からもプレゼントがあるの」


「へ?」


 ブランカはテーブルの上を片付けて、紙袋を置いた。


「本当はお菓子を作りたかったけど、私は味見ができないから……」


「開けていい?」


「どうぞ」


 紙袋の中には、チョコレート色の小さなキャンドルが三つ。甘い匂いがする。


「味や、匂いはわからないけれど、温度ならハヤが教えてくれたから」


 一つに火をつけてみると、ふわっとチョコレートの香りが広がって、ゆらゆら揺れる優しい炎に心が温かくなる。


「同じ温度を感じて、同じ想いで、同じ時間を過ごせたら……と」


 え、ブランカ、照れてる? 頬が赤いよ?


 火の色が反映しただけよ、ってうつむく仕草がかわいくて。つないだ指先がどきっとするくらい温かい。


「……ハヤの温度に近付けてみたの。触れられたときに、心地よかったから」


 もう、人間の女の子とほとんど変わらないじゃん。いつの間にそんなことできるようになったの。


「ありがとう、ブランカ。うれしい」


 言葉じゃ言いつくせないほどうれしいよ。


 ただのさえないアパレル店員が、こんなかわいい美少女と出会って、デートすることになるなんて。人生、何が起こるかわからない。


 とにかく言えることは、オレはすごくすごく幸せだ!





                (おわり)


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