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#30 これでオレも堂々と恋人って名乗っちゃうもんね!

 朝早くから技術者たちが大勢集まって、準備をしたりブランカの状態を確認したりとあわただしい。オレは何もできないけど、だからって呑気にお城で待っていられなくて、研究所の近くにある茶店の隅っこの席でじっとしていた。


 子供が産まれる時の父親とか、怪我人や病人の大手術を待つ家族って、こんな気持ちなのかな。時間が経つのが遅いような、早いような、もどかしい。


 ウエイトレスのお姉さんには王様が事情を話してくれたから、時々水を注ぎにくる以外はそっとしておいてくれた。それでも、厨房の方からひそひそ噂する声は聞こえてくるんだけどね。


 カラン、とドアに取り付けた鐘がなって、王様がにこにこ笑いながら店に入ってきた。


「無事に終わったよ。今、情報を読み込みながら整理してる。プレーナがついているから大丈夫だよ」


 王様はオレンジジュースを注文して、ぐいっと飲み干した。オレはやっと息をするのを思い出したように、大きなため息をつく。


「……ありがとうございます」


「ん、うまくいってよかった。とてもいい技術なんだけど、悪用を防ぐためすぐに封印しないと」


 もったいないけどね、と王様は肩をすくめた。


「博士はね、最初はブランカちゃんを娘として奥さんと可愛がるつもりだった。でも、奥さんが亡くなった時に、その記憶をブランカちゃんに埋め込むことはできないかと考えたんだ。結果は、できる。ただし、ブランカちゃんの容量では、全ての記憶は保存できない。そして、たとえ記憶を持っていたとしても、それは奥さんではない。そう気付いて、博士は諦めて、ブランカちゃんを自由にした」


 それなのに、前の王様はその技術を横取りし、病弱な娘の記憶を入れるためにプレーナを作った。そして、その開発に携わった一部の人間が、金儲けを企んだり、自分を不老不死にしようとしたり、無敵の兵器を作ろうとしたり……


「今、やっと二人が自由にのびのびと生きられるようになって、博士も喜んでいると思う」


 ああ、強くて賢いだけじゃなく、優しい王様だな。きっとプレーナは王様に愛されて、素直ないい子に育つだろう。ブランカはどうかな、オレといて、どんな風に変わっていくんだろう。


 ふと、テーブルに置いていた王冠が震えた。真ん中の大きな石が光って、壁にプレーナを映し出す。通信機になっているのか。便利だな。


「へーか、ハヤ、ブランカが目覚めたよ」


「わかった。すぐに行く」


 緊張するオレの背中を押して、王様はいそいそと茶店を出た。


 研究所のドアの前でプレーナがちぎれそうなくらい腕を振っている。王様が頭を撫でてあげると、うれしそうに目をつむった。恋人っていうより、愛犬だよな、これは。


 機械やケーブルの間をすり抜けて、中央のベッドにたどり着く。起き上がったブランカの瞳はまだぼんやりしていたけど、オレに気付いた瞬間、ほっと笑った。


「……ただいま、ハヤ」


「おかえり。具合はどう?」


「まだ少し混乱しているけれど、すぐに戻ると思うわ」


 なんだろう、照れたような、複雑な表情。本当はとっくに人間と同じくらいの感情を持っていたんだ。美少女っぷりにますます磨きがかかって、今さらだけど照れる。


「ねえ、ブランカ。全部思い出した?」


「ええ」


「記憶の中に、好きになったひとはいた?」


「そうね……たくさんのひとと出会って、別れて、大切に思うひとたちはいるけれど……『好き』という感情を教えてくれたのは、ハヤ、あなただけよ」


 よっしゃあ! もし、ブランカに忘れられないオトコとかいたらどうしようって思ってたけど。これでオレも堂々と恋人って名乗っちゃうもんね!



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