#2 夢で美味いものを食べようとすると、必ず口に入れる直前で目が覚めるんだよな!
他の建物よりも大きくて立派な造りで、軒下には皿とフォークとナイフをデザインした絵の看板がかかっている。中はむっとした熱気に包まれ、機嫌のいい客が楽しそうに酒を飲み料理をつついていた。
急に、空腹感が増す。
空いてる席を探すけど、ウエイトレスも先客たちもさっきのおっさん兵士と同じように警戒してオレを睨みつけている。入りにくいな。でも、まあ、夢なんだし、いいか。
オレがずかずかと店の奥の席に着くと、ウエイトレスは渋々注文をとりにきた。
「何かオススメのやつ」
「……当店は、魚料理がおすすめですが」
「じゃあ、それで」
料理が出てくるまで、オレはぼんやりと店内を観察していた。すっかり緊張した空気、客たちの話題はおそらくオレのこと。いいけど、じろじろ見るのはやめてほしい。
木製のテーブルと椅子、壁には不思議な模様のタペストリー、いったい、どういう世界なんだろう。ゲームだと、こういう場所で仲間を集めて、冒険に出たりするんだけど。てか、オレ、夢でまでゲームのことばかり考えてるな。できれば、美少女戦士とか仲間になってほしいな。
「お待たせしました」
愛想のないウエイトレスがどんと皿を置く。なんだよ、変な服着てたって、客は客だぞ。
腹がふくれたら、こんな店さっさと出てってやるよ。フォークとナイフを手にした途端、目の前にでっぷり太ったおばちゃんが立ちはだかった。
「ちょいと、あんた。よそ者みたいだけど、ちゃんと金は持ってるかい?」
どうやらこの店の女将らしい。オレはリュックの中から財布を出して、五千円札をテーブルに置いた。千円札だったらたりないかもしれないし、たったこれだけの料理に五千円以上払う気もなかったし。
女将がにっこり笑ったので、オレもにっこり笑って一口ほお張ろうとした。が、香ばしい魚のフライはオレの口に入ることはなかった。
「どこの国の金だか知らないけど、ちゃんとここで使える金を用意してからおいで」
女将はオレからフォークを奪い、軽々と店の外につまみ出してドアを閉めた。
何が起きたのかわからず、地面に座り込んで呆然とするオレ。一度ドアが開いて、リュックを投げてくれたのはせめてもの情けか。
そう、夢で美味いものを食べようとすると、必ず口に入れる直前で目が覚めるんだよな。って、あれ? まだ覚めないの? ちょっとこの設定、疲れてきたんだけど。
ここがどこかわからない。言葉は通じるけど、金は使えない。何をどうすればいいんだ?
「あの……」
途方に暮れるオレに、救いの女神!
濃いグレーのマントに身を包み、フードをすっぽりかぶっているけど、ちらっと覗く顔は絶世の美少女!
ああ、夢なら覚めないで!
「あの、店に入りたいんですが……」
「あ、ああ、ごめん」
オレは空腹も忘れて見惚れた。なんだかいい香りがするし、声は好きな声優さんにそっくりだ。きっと、オレの願望が凝縮されてるんだな。
オレの横をすり抜けて、店の中に消えた背中にため息をつく。仲間になって、一緒に冒険……なんてうまくいくはずないか。