表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/33

#23 オレのために争わないで!

 幸いあとは山を下るだけだし、馬車が定期的に通る道だからきちんと整備されているし。寝不足と胃痛はあるけど、まあ歩けると思う。次の馬車に拾ってもらうってテもあるし(いつ来るかわからないけど)


 それより、プレーナをなんとかしなきゃ。刺激しないように離れる方法を考えないと。


「えっと……研究所はなくなって、で、そのお姫様はどうなったの?」


 イヤな予感しかないけど。案の定、プレーナはにやりと笑った。背筋がぞっとする。


「……私が完成する前に死んじゃった……って言えば、ハヤはホッとするんでしょ?」


 こいつ、けっこう人間の心がわかってるな。ほんと、イヤな奴!


「だって、おかしいじゃない? 後からお姫様の心を入れるつもりなら、なんで『私』を作ったの? 私は教えられたとおりに学習して、意志を持ったわ。なのにお姫様の情報を上書きして、『私』を消しちゃうなんてひどくない?」


 たしかに、ひどい。でも、だからって研究所を破壊して(きっとたくさん死傷者が出ただろう)、お姫様を……それは絶対に許されることじゃない。


「私は完全プレーナ。ね、私が一人いればいいの。試作品はさっさと消えてよ!」


 振り上げた両手の指から細い糸が伸びる。その先には派手なフランス人形が巨大な鎌を担いでて、ばっちり戦闘態勢。やばい、逃げられない。


「……情報をありがとう。そう、あなたの心の容量は人間くらい大きくて、書き換えが可能なのね。ならば、それを奪えば私は人間に近付ける!」


 ひょえー! ぶ、ブランカ、君、こんなに好戦的だったっけ?


 ブランカの動きに合わせて、スーツケースから道化人形が飛び出した。両手のナイフがいつもよりいかつい。


 あわてふためくオレの頭上で、道化人形とフランス人形がぶつかり合う。金属音が響くたびに、火花が飛び散った。


「あんたがいなければ、ハヤは私を愛してくれる! 私を必要としてくれる! 消えろ! 消えろ! 消えろー!」


「残念だけど、私がいなくなればハヤは悲しむだけ。あなたを愛したりしない。私の記憶を返して。それはハヤと私の大切な思い出よ。あなたはただ、私の複製コピーでしかない」


 うわ、ブランカ、相手が人間じゃなかったら容赦ない……一番プレーナの痛いところを突いてる!


 話を聞けばプレーナもかわいそうなところがあるし、できれば穏便に解決したいんだけど。


「ちょ、ちょっと待って、二人とも! オレのために争わないで! ケンカするコは嫌いだよ!」


 先に動きを止めたのは、意外にもプレーナの方だった。ブランカは一撃加えてから道化人形を呼び戻す。いや、怒ってるのはわかってるよ。でも、ほんと容赦ないね。


「あのさ。なんでどっちか一人じゃないとダメなわけ? ブランカはブランカ、プレーナはプレーナでしょ。別の二人なんだから、二人ともいたっていいじゃんか」


「だって!」


 食ってかかるプレーナの瞳が揺れる。もし、涙を流す機能があれば、泣いていたのかもしれない。


「だって……ブランカがいたら、ハヤは私を愛してくれない……。私、こんなにハヤのことが好きなのに。ううん、この気持ちはブランカのだけど。でも、もう私の心と混ざり合ってしまったもん。ねえ、ハヤ、胸が苦しいよ。私を好きになってよ」


 う……あ……忘れてたけど、このコ、ブランカと瓜二つなんだ。ヒビの入った不気味な顔だけど、目を潤ませて(涙は出ないけど)、そんな情熱的に迫られたらオレは……


 オレは、ブランカ一筋です。はい。ごめんなさい。ブランカ、睨まないで。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ