#22 安心してね、オレはブランカだけが好きだよ!
「ちょっと、いい加減なこと言わないでよ」
突然、馬車の前方から女の子の声。立ち上がり、振り向いてマントのフードをはずしたのは……プレーナだ! いつの間に乗り込んでいたんだ? 不敵に笑う顔の左半分に大きくヒビが入ってて、怖い。
みんな驚いて後方に逃げ、小さい子は泣き出した。
「私は改良されたの。改造だなんて失礼ね!」
よくわからないけど、人形なりのこだわりなのかな。
勇者の末裔クンがみんなを守るように剣を構えたけど、プレーナは軽く鼻で笑って、次の瞬間には間合いに入っていた。
「ただの人間が、こんなもので何しようって言うの?」
指先でちょんと剣に触れる。それだけで勇者の末裔クンは後ろによろけた。どんな力だ!
がんばって体勢を立て直して、両腕を震わせて押し返そうとするけれど、プレーナはびくともしない。力比べに飽きると、あっさり剣を奪ってオレ達の方に向き直った。
「ねえ、ハヤ。質問の答え、聞かせてよ」
質問? 質問ってなんだ?
「ひどいわ。ねえ、私の方がブランカより優秀だって言ったじゃない」
「悪いけど、オレは君が大嫌いだよ」
「あは。やっぱり? こんな顔じゃダメよね。王都に戻って治そうと思ったけど、よく考えたらここにあるじゃない。ね、ブランカ、その顔ちょうだい」
しまった。他の乗客たちの視線が刺さる。せっかく、隠していたのに。そっくりなプレーナがそんなこと言ったらばれちゃうよね。
「ハヤはその顔が好きなのよね。心もここにあるし、いいじゃない。私がハヤに愛されてあげる」
なに勝手なこと言ってんの。でも、この状況は利用できる。
「プレーナ、オレは君のことを知らない。知らないのに好きになれないよ。君は何者? ブランカと同じ創造主に作られたの? なんのために?」
背後でブランカが動揺しているのがわかる。プレーナには見えないように、そっと手をつないだ。安心してね、オレはブランカだけが好きだよ。
プレーナは余裕の表情で剣を下ろした。
「私はブランカみたいに、創造主の道楽で作られたんじゃないわ。きちんと王立研究所で、大切な使命を持って生まれたの。だからブランカとは出来が違うのよ」
「使命?」
オレが興味を示したのがうれしかったのか、プレーナは調子よくペラペラとしゃべりだした。とりあえず攻撃してくることはなさそうだし、他の乗客たちには申し訳ないけど、しばらく付き合ってもらおう。
「私は、病弱なお姫様の形代なの。お姫様の心を移して、長く生きてもらうために作られたのよ」
だから、より情報の保存量が多く、より速く処理できるのだと自慢した。
「だったらその顔、王立研究所ってところで、きちんと治してもらった方がいいんじゃない?」
「あら、ダメよ。もう、その研究所はないもの」
「え?」
「とっくに破壊しちゃった」
やばい。このコはやばい。たぶんモラルとかないし、気分次第で平気でここにいるひとたちを傷付ける。
オレは馭者に頼んで、馬車から降ろしてもらった。
「えー、ここから歩いていくのー?」
「うん。他のひとに聞かれたくないから」
ブランカも王都までまだずいぶんあると心配してくれたけど、仕方ないじゃん、あのひとたちを巻き込むわけにはいかないし。がんばって歩くよ。