#19 銀髪、赤い瞳、顔も声もブランカそっくりなのに、なんでこんなにムカつくんだろう!
しばらく並んで幻想的な星を見上げてたけど、オレがでかいくしゃみをしたせいで現実に引き戻された。せっかくいい雰囲気だったのに……
「入りましょう。風邪をひいてしまうわ」
ドアに手をかけた瞬間、ドアノブが爆発した。
「うわっ! 熱っ!」
遅れて痛みがくる。また火傷かよ!
「……!」
警戒してあたりの様子をさぐっていたブランカが、大きく目を見開いた。オレ達の背後には、大型犬くらいの火だるまが……文字通り、燃えてるだるまが三体。
「ファイア・ゴーレム! なぜ、こんなところに!」
ものは言いようだなあ、ちょっと凶暴そうな気がしてきた。
「誰が操作を……」
火だるま達はゴロンゴロン転がりながら、そこら中を燃やしまくる。早くなんとかしないと、山火事になる!
「ハヤ、お願いがあるの」
「何?」
「私のスーツケースを取ってきてちょうだい」
こんな状況でブランカを一人にしたくなかったけど、二人でここにいたからって仕方がない。今は、ブランカの戦闘能力に頼るしかないんだから。情けないけど。
オレは急いで建物の中に入り、ブランカのスーツケースと自分のリュックをつかんだ。
「どうしたんだい?」
勇者の末裔クンが、驚いた顔で呼び止めた。ちょうどいい、おまえも手伝え!
「外に火の魔物が現れたんだ。あんた、強いんだろ? 一緒に来てくれ!」
「え? ぼ、僕は、その、火とは相性が悪くて……」
大魔法使いの弟子チャンも、水の魔法は使えないと首を振った。はいはい、期待はしてなかったよ。じゃあ、せめて中にいるひと達くらいは守ってくれよ!
「お待たせ、ブランカ!」
「ありがとう。ハヤ、危ないから離れていてね」
スーツケースから取り出した十本の糸を指に装着して、勢いよく腕を振り上げる。目覚めた道化人形がオレ達の前でナイフを構えた。舞うように両手を動かし、糸を繰る。思わず妬いてしまうくらい見事なコンビネーションでブランカと道化人形は火だるま達を壊していった。
「やった!」
「……だめ!」
砕けただるまの欠片が、次々と爆発した。さらに細かく砕けた欠片がまた爆発して……! 建物の周りがあっという間に火の海になった。
「ふふ、消えてよ、ブランカ」
「え?」
炎の向こうの大木から、不愉快な笑い声。高い枝に座った女の子がオレ達を見下ろしている。
「おまえは、プレーナ!」
「あら、覚えててくれたの? うれしい!」
銀髪、赤い瞳、顔も声もブランカそっくりなのに、なんでこんなにムカつくんだろう。
「……ハヤ、あの子を知ってるの?」
「うん。あとできちんと説明するね」
何度も記憶を奪われていることを知ったら、傷付くかもしれないけど。取り返したとして、元に戻したらまた動けなくなるかもしれないし。でも、知らないままではいられないよね。
「ブランカ、オレを信じて。オレは君が好きだし、君のためならなんだってする。だから、今はあの子を追い払って、この火をなんとかしよう」
「……そうね」
オレはとてもじゃないけどプレーナと戦えないからブランカに任せて、火の方をなんとかしなきゃ。中にいるひと達もそろそろ異変に気付いてビビってるんじゃないかな。オレはリュックの中を覗いた。




