#16 オレは再びこの美少女人形と旅(デート)することになった!
ブランカはぱちぱちと瞬きして、オレの顔を見つめた。思い出せ……ないか。
「昨夜、君を見かけてからすごく気になってたんだ。ダメかな」
「……いいわ」
無表情のままうなずいて、オレの向かいに座る。他の客たちの舌打ちが聞こえてきた。ふふん、早い者勝ちだもんね。
「オレ、林 光輝。旅行中で、オーミには一ヶ月くらい滞在してるんだけど、次はどこに行こうか迷ってて。ね、君は一人で旅行? 次はどこに行くの? もし迷惑でなければ、一緒にどうかな」
人間の女の子だったら、きっと通報されてるね。でも、オレは君がそんなことしないって知ってるもん。ほら、困った顔で瞬きしてる。
「私……は、ブランカ……一人で旅してるわ。次は……そうね、ひとがたくさん集まるところ……王都に行こうかしら」
「王都? オレ、行ったことない。連れてってよ」
「でも……」
「ね、ね、なんで女の子が一人で旅してるの? いろいろ危険とかない?」
危険なのはおまえだよってツッコミが聞こえてきそう。
「べつに……私、戦えるから……」
「そうなの? じゃあさ、オレを守ってよ。オレ、剣も魔法も全く使えなくて、魔物とかに襲われたらどうしようって困ってたんだ」
我ながら卑怯すぎるけど、それくらい必死なんだから許してね。ブランカの瞬きの回数が増える。
「……あなたこそ、どうして一人で旅してるの? 不安なら、用心棒を雇えばいいじゃない」
う……考えてもない切り返し。そして、まさにその通り! かくなるうえは……
「うそついてゴメン! じつはオレ、君があんまりかわいいから一目惚れしたんだ。だから、そばにいたい。……ダメ?」
ああ、一生懸命、情報を処理してる。瞬きが止まらない。
昨日までのブランカは、ずいぶん人間の心を学習していたんだなあ。反応が違いすぎて、これはこれでかわいくていいかも。
「ごめんなさい。私、ひとの気持ちがまだよく理解できないの。一目惚れということは、あなたは私に好意を寄せている……合ってるかしら?」
そ、そんな丁寧に言い直さないで。恥ずかしいなあ。オレはこくこくとうなずいた。
ブランカは少し迷って、手袋をはずした。白い指先、関節にはまった小さな球体のおかげでなめらかな動きができる、機械仕掛けの人形の手。
「私、人間ではないの」
「そうなんだ」
「あの、だから、いくら好意を寄せられても……私、あなたの子供は産めないわ」
オレは思いっきりコーヒーをふき出した。前から思ってたけど、ブランカの創造主ってちょっとぶっ飛んでない? なんで、好き=子作りになるの? 何かトラウマでもあるの?
「安心して。オレ、そういうのが目的じゃない。ただ君のことをもっと知りたい。もっとたくさん話したいだけ」
「……あなたが私を理解してくれるのなら、いいわ、一緒に旅しましょう。あなたはとても感情が豊かみたいだから、とても勉強になるわ。よろしくね、ハヤ」
「やったね! よろしく、ブランカ!」
神様、ありがとう!
オレは再びこの美少女人形と旅することになった。




