#14 目覚めたブランカに、オレはなんて言えばいいんだろう……!
一階に下りると、カウンターで女将さんと若い女の子がもめていた。こんな夜遅くに、女の子が一人で宿屋に……?
「ああ、ハヤさん、ちょうどよかった。このコ、知ってるかい? ブランカちゃんの妹だって言うんだけど」
「え?」
振り向いた女の子は、さらさらの銀髪に赤い瞳……ブランカとそっくりだった。
「あんた、誰?」
性格はずいぶん違うようで、睨みつける目は勝気で語気が荒い。
「えっと……」
どう説明しようか迷っていると、女将さんがさらりと「ブランカちゃんの恋人だよ」と言った。そういうふうに見えてたのか、って、喜んでる場合じゃなくて。
ブランカに似た女の子は驚き、そしてオレを値踏みするように頭のてっぺんからつま先までじろりと見た。
「へえ……恋人ねえ。まあ、いいわ。ブランカはどこ? そろそろメンテが必要でしょ」
オレはドキっとした。このコ、ブランカを治せるのか? この際、何者でもいいや。オレは藁にもすがる思いで、女の子をブランカの部屋に案内した。
「……お姉ちゃん、おひさしぶり。苦しそうね。すぐに治してあげる」
女の子はブランカのものとよく似たスーツケースから、手のひらくらいの箱を取り出した。中に入っている赤い宝石を取り出し、ブランカの胸に乗せる。
「ブランカは試作品だから、容量が少なくて。情報を吸収しすぎると、動けなくなるの。だから、こうして定期的に回収してあげるの」
ブランカの身体がほのかに光り、その光は宝石に吸い込まれていく。
「……君は? ブランカの妹って……?」
「ブランカの設計図をいろいろ改良して作られたの。だから、妹」
にっこり笑うけれど、やっぱりブランカとはあまり似ていないような気がした。
「ねえ、あんたはブランカのことが好きなの? 人形なのに?」
「好きだよ」
「ねえ、私とブランカ、似てるでしょ? 私じゃだめ? 私の方が、優秀だよ」
なんだ、このコ。改良型って言うけど、人間の気持ちは全然わかってないな。ブランカのメンテが終わったら、さっさと追い出そう。
無視を決め込んだけど、べつに返事は期待してなかったのか、ケラケラと笑っただけでまたブランカの方に向き直った。
「はい、メンテ完了。ちゃんと初期設定に戻ったわ」
「……え?」
「じゃ、回収した情報はもらっていくわね。バイバイ」
女の子はブランカの情報が詰まった宝石を握りしめ、スーツケースを掴み、窓を開けてバルコニーに出た。
「私はプレーナ。空白を改良して作られた完全よ」
不愉快な笑い声を残して、プレーナは闇夜に消えた。
……初期設定? なに、それ。
嫌な予感。
出会ってから今日までの、ぎこちないけど恋人っぽくなってきたオレたちの関係が、こんな簡単に消えてしまうのか?
目覚めたブランカに、オレはなんて言えばいいんだろう……




