#13 待って、待って、どうしたらいいの!
急に静かになって、やたらと心臓の音が響く。落ち着け、オレ。ブランカは人形だぞ、おかしいだろ。
「ね、ブランカ、しっかり……」
「ハヤの温度を感じる」
待って、待って、どうしたらいいの!
「私、温度を感じられるようになったのね。魔法酒のおかげかしら。ふふ、少しだけ、人間に近付けたみたい」
おでこをオレの胸にすり寄せて、大好きな声優さんそっくりな声でななななんてことを!
「……ハヤの脈が乱れてる。ハヤこそ、大丈夫なの?」
見上げる赤い瞳に吸い込まれそう……もう、限界。オレは、ブランカをそっと抱きしめた。
「大丈夫じゃないよ。大好きなブランカにこんなふうに触れられて、正気でいられるもんか」
おかしくったっていいもんね。オレはブランカを本物の女の子だと思ってるし、ブランカだってそうなりたいって願ってるんだから。そっと髪を撫で、額にキスしようとした。
「……あれ、ブランカ、熱ある?」
言ってるうちにどんどん熱くなって、触っていられなくなる。思わず手を離して、ブランカの顔を見た。
「……」
何か言おうとしてるけど、言葉が出てこない。さっきまでキラキラしてた瞳はただのガラス玉のように、ただいびつに歪んだオレを映してる。
「ブランカ? ねえ、ちょっと、どうしたのさ」
嫌な汗が背中を伝う。
これって、まさかオーバーヒートじゃないよね? 機械仕掛けのブランカに、何かトラブルが……え、もしかして、魔法酒のせい? 魔力を取り込みすぎた?
オレはただ混乱して、両手が火傷してるのにも気付かずブランカの肩を揺すった。
「ブランカ! ブランカ!」
もう、何も反応しない。糸の切れた繰り人形のように、ぐらりと体勢を崩した。
「ちくしょう、あいつ、なんてことを!」
原因は何かわからなかったけど、ネイサンを恨まずにいられなかった。
どうすればいいんだ。ブランカは普通の人形じゃない。簡単に修理ってわけにはいかないだろう。
だけどこのままあやしい酒場にいても仕方がない。とりあえず、宿に戻ろう。あそこならいろんなひとが集まるし、機械とか魔法とかに詳しいひとがいるかもしれない。オレはブランカを抱き上げ、店を飛び出した。
複雑に入り組んだ裏路地は方角さえわからない。残飯をあさってる浮浪者に銅貨を握らせ、大通りまで案内させた。
その間にも、ブランカの体温はさらに上がっていく。燃え出すんじゃないかと思うほど。
宿についた時には、ブランカもオレも服が焦げはじめていた。
そっとベッドに横たえて、冷たい水にひたしたタオルでブランカを冷やす。それで改善するとは思えなかったけど、何もしないわけにはいかなかった。
心配した女将さんが医者を呼んでくれようとしたけど、機械技師か魔法使いを探してほしいと頼んだら変な顔された。そりゃそうだ。
ブランカの身体を冷やしたのは正解だったみたいで、少し状態は落ち着いた。それ以上熱は上がらなかったし、けいれんみたいに震えたり、言葉が出なくてあえぐこともなくなった。ただ目を閉じて、まるで眠ってるみたい。人形でも眠るのかな。
やっとオレは自分のヤケドに気が付いて、女将さんに薬をもらいにいった。