表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/33

#12 だ、抱きしめていいかな!

 薄暗い店内に小さなランプがゆらゆら揺れる。テーブル席が二つと、カウンター席が三つしかない。仕方なくカウンター席に座ると、奥から胡散臭い男がひひひと笑いながら出てきた。マジで帰りたい。


「ひさしぶりだね、オ・ネイサン。可愛い子たちを連れてるじゃないか」


「おひさしぶり。そうでしょう? うちの優秀なスタッフなの」


 ついさっき、クビになったけどな。


 男は注文も聞かないうちに、ジョッキを三つ差し出した。中には……なんだ、これ。色のついたドライアイスみたいなモヤモヤが入ってる。


「魔法酒よ。もともとは修行中の魔法使いが酒の代わりに飲んでたらしいけど。私たち魔物でも楽しめるの」


「オレ、魔法とか使えないし、魔物でもないんだけど」


 ジョッキを揺らすと、中のモヤモヤの色が変わる。サイケデリックな模様に酔いそう。


「大丈夫。アロマみたいなものよ。味のある空気というか。空気だから、ブランカちゃんもいけるでしょ?」


 オレははっとおっさん……じゃなかった、美人(オ・ネイサンって名前なのか?)の顔を見た。気付かれないように、ブランカの関節とかは隠してたのに。


「ブランカちゃんの中には魔力が流れているわね。魔法酒を飲めば魔力を補給できるし、人間みたいな感覚(・・・・・・・・)を体験できるわ」


 こいつ、どこまで知ってるんだ。まさかブランカ、こんなあやしげなもの飲まないよ……ね……って飲んでる! なんで! いつも慎重なのに!


「……なんだか……ふわふわする……」


 どん、とジョッキを置いたブランカの瞳がとろんとしてる。うわ、一気飲みしたの!


「大丈夫? 気持ち悪くない?」


「ふふ、大丈夫よ。少しぼんやり、するけ……ど……」


 やばい、完全に酔っ払ってる。飲み会とかで何度も見てきたけど、このあと豹変するやつだ。どっちだ、げらげら笑いだすのか、やたらと説教しはじめるのか……


 ブランカはじっとオレの顔を見つめたかと思うと、そのままオレに倒れかかってきた。


「ちょ、全然、大丈夫じゃないじゃん!」


「……ハヤが、お客さんたちと話している時、なぜか胸のあたりが痛くなったわ。敵に攻撃されて傷ついても、痛みなんて感じないのに……そうね、きっとこれが痛いという感覚ね……」


 ふにゃふにゃと力の抜けたブランカは、本物の女の子みたいにずしりと重くて温かかった。どうしたらいいのかわからなくて、呆然とするオレ。ネイサンと胡散臭い男はニヤニヤ笑ってる。


「ねえ、ブランカちゃん、その痛みをなんて言うか知ってる?」


 ブランカはめんどくさそうに首を振った。鼻先でさらさらの銀髪が揺れて、なんだか甘い香りがする。だ、抱きしめていいかな?


「嫉妬、よ」


 ……え?


「よかったわね、ブランカちゃん、人間の心を一つ手に入れたわね。嫉妬するってことは、同時に愛してるってことよ。あら、二つ手に入れたじゃない」


「え、何言って……」


 ネイサンは自分のジョッキを飲み干し、胡散臭い男に銀貨を渡して立ち上がった。


「こうでもしないと、正直に言わないでしょ。じゃ、ハヤちゃん、あとはがんばって」


 ぽんとオレの肩をたたいて、夢喰いのオ・ネイサンは店を出ていった。気を利かせたつもりか、胡散臭い男も奥に引っ込んだまま出てこない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ