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#11 それは、オレが行っても大丈夫な店ですか……!

 おっさんの洋服店は瞬く間に評判になって、街の女のコはもちろん、他の街からもわざわざ買いにくるくらい人気が出た。あれほど抱えていた在庫はすっかりなくなって、今では新作がわずかに並んでいるだけ。値上げをすすめたけど、おっさんは興味なさそうにこう言った。


「私は、女のコ達が喜ぶ顔が見れたらそれでいいの」


 そりゃ、女のコ達は喜ぶだろうよ。かわいくて質が良くて、破格なんだから。でも、オレ達に給料を払って、生地や糸を仕入れて、残る金なんてわずかだと思うけど。大丈夫なのかな。


 一ヶ月ほど経ったある日、オレとブランカが出勤すると、そこにおっさんはいなかった。代わりに、すごい美人が鼻歌まじりにミシンを踏んでる。長い黒髪に紫がかった瞳、青ざめた肌に真っ赤な口紅がぎらぎらしてる。男? 女? わからない。


「おはようございます、店主さん。今日はどの服を着たらいいですか」


「ほえ?」


 思わず変な声が出た。どこに店主がいるの。


 ブランカは迷わず美人の方に近寄った。美人は手を止めてにっこり笑う。


「おはよう、ブランカちゃん。じつは、しばらく店を閉めて、制作に専念しようと思って」


「そうですか。では、私たちの仕事は終わりね」


「ええ、ありがとう。本当に助かったわ」


 ちょ、ちょっと待って、何、ふつーに話してんの? え、どういうこと? この美人が、あの傭兵みたいないかついおっさんだって?


「彼は夢喰いよ。亜種みたいだけれど。人間の夢を食べて魔力に変える、魔物よ」


「あら、ブランカちゃんったら詳しいわね。そう、私は夢の中でもとくに『あこがれ』を好んで食べるの。二人が呼んでくれたお客さんの『あこがれ』はとても美味だったわ。でも……」


 美人の姿が消えたかと思うと、ふとオレの前に現れてぐっと顔を近付けてきた。く、食われる……!


「でも、一番おいしかったのは、ハヤちゃんの恋心ね。こんなに強い想いは初めて。おいしくて栄養満点で、おかげで元の姿に戻れたの」


 かちゃりとブランカのスーツケースの鍵が開く。美人はあわててオレから離れた。


「言ったでしょ、私が食べるのは『あこがれ』だけ。魂とかには興味ないわ」


 夢喰いって魔物は、魂食うのかよ! 知らずにオレは一ヶ月も……今さらだけどぞっとした。


「……ね、ブランカちゃん、怒らないで。食べたのは本当に少しだし、持ち主には何も影響ないのよ?」


 ブランカはじっとオレの方を見た。うん、この一ヶ月、とくに体調に変化はないし、むしろブランカと一緒に仕事ができてやる気満々、元の世界では得られなかった充実感でいっぱいだよ。


 納得したのか、ブランカはスーツケースを閉じた。よかった、バトルとかにならなくて。


「でね、今日はお礼も兼ねて、二人を飲みに連れていこうかと思って」


「え、でも……」


 ブランカは、飲めない。


「ふふ、私は魔物よ。特別な店を知ってるの」


 それは、オレが行っても大丈夫な店ですか……?


 店主に連れられ裏路地をくねくね歩く。もう、ここがどのあたりか全然わからない。やっとついた店はいかにも妖しくて、できればオレは帰りたかった。



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