カルロ・チャム②
「チャージ……ショッッッッットォオオオオオオオオオオオ!!!」
「ひゃぁあああああああ!!! 助けてアンノーーーーーーーーン!!!」
無線から聞こえるハイテンションな声を聞きながら、回避を諦め硬そうなアンノウンの後ろに隠れる。
ジュッ! という生々しい焼けた音がすぐ後ろでなった時は正直生きた心地がしなかった。
「バカかてめえ! 相方を殺す気か!? そんなに牢屋の中に入りてえなら一人でかってに入ってろ!」
「敵対しているはずのアンノウンと人間の涙ぐましい共同作業。泣けるね! 映画化待った無しだよ!」
「話聞け!頭イカれてんのか!?」
「第二射行くよー!」
「助けてアンノウン!」
俺の奇術によって都合よく近くにいるアンノウンの隙間を縫うように逃げて囮、盾にしていく。
あいつ……躊躇ねえなおい!
「俺を狙うな俺を! アンノウンを狙え!」
「無茶言わないでよ! 吐くわ!」
「そういえばそうだったな!」
「あんたに向けてなら普通に撃てるのに。何でだろうね?」
「生粋の殺人鬼が! アンノウンよりよっぽど人にとって害悪な存在だよ! 百害あって一利無しだバカ野郎!」
「や、やだなもう……照れるじゃん」
「褒めてn撃つなぁああああ!!!」
ミラがいた方向で一瞬光ったかと思えば、次の瞬間には必殺の威力が込められた光線が空間を切り裂くように奔る。
咄嗟に頭を下げて回避するが、髪の毛が何本か溶けた……。俺、いつか禿げるんじゃねえかな。それも近いうちに。
「死にたくない死にたくない死にたくない神様仏様お母様誰でもいいから助けてください……」
「……どう、でもいいけど、そのままいたら、死ぬ、よ」
「へ?」
ふと、影が落ちる。
ふと見上げると、そこには俺に覆い被さるように立っていたアンノウン……。
「……」
『……』
「は、ハロー?」
『◼︎◼︎◼︎』
「それじゃ、そういうことで」
よくわからん唸り声を発するアンノウンから離れるように踵を返し、一歩踏み出すと同時にガシッと掴まれる。
「や、やだなぁ。離してくださいよ。これから用事が……こら、離せっ、この、いや、ダメだって、君に抱き寄せられたら俺死ぬから! ゴリゴリされて死んじゃうから嫌ぁああああああああ!!! 助けてミラさああああああああん!!!」
「おぇぇ……」
「吐いてんじゃねええええ! さっき気持ち悪そうにしてたのはそれかあああああ!」
「だってぇ……」
「怖くない怖くない今一番怖い目にあってるの俺だからあとこのままじゃ本気でR指定入っちゃうようなグロ映像完成しちゃうからR指定描写とか作者無理だからここら辺のアンノウン全部俺に夢中だからとにかく俺の命が尽きる前にぃいいいいい!!!」
「がん……ばりゅぅ」
バシュゥッ!
よもやこれまでか。そう思われた瞬間、俺を抱きしめようとしていたアンノウンの胴体に風穴が空く。
高熱によってマグマのように溶けた肉体が落ち、地面を焼く。
「……は、ははは」
「気持ち悪ぃ……」
「ははははは……助かった。……んだけど、……もうひと頑張りいっすか?」
命の危機から脱した体には力が入らず、うまく動かせない。
首をゆっくりと動かして辺りを見回せば、俺の奇術に引き寄せられたアンノウンがうようよと……。
「がんばりゅぅ……」
「……毎度毎度飽きずこんなんばっかりだちくしょう!」
*
「おーい、平気かー」
「た、助かった……」
「フォンさんに感謝しろよ? 緊急で近場の奴をすぐに向かわせてくれたんだから」
「おう……」
フォンさんとはミアードで最優と呼ばれるほどの神託者で、その奇術は戦闘員全員と繋がり声を届けることが出来る。
一度に多くの情報を処理し、直接戦闘には出向かないものの、オペレーターとして前線で戦うみんなを支えてくれる頼れるお姉さんである。……なぜか誰も顔を見たことがない謎の人物でもあるが。
「おぇぇ……」
「ほいお疲れ。大丈夫か」
「おぇぇ……おぇぇ……」
「おい。なぜ俺の顔を見てもう一回吐いた」
「カルロおぇぇ……」
「元気そうだなおい」
同期の奴らは慣れたもんで、そんなミアの様子に苦笑していた。
「まあお前らは休め。後は俺らがやる。なんかあればまた呼ばれんだろ」
「フラグか?」
「違うから」
「死ぬなよ」
「やめろ」
そんな軽い言い合いを数人とやり、見送る。
後に残るのはゲロインと化したミアと全身ボロボロの俺のみだ。
「ほれ、水」
「キサマからの施しは受けん」
「急なキャラ変更はよせ」
「ぐびぐび」
「何も言わずに飲むな」
「ぐびぐっ、!? げほっ!」
……。
「あー、スッキリした。ん? どしてカルロ濡れてんの?」
「それを本気で言ってるなら殴る」
「てへぺろ☆」
「ふん!」
「せい!」
「ぐふぇっ」
殴ろうとしたら殴られていた。
い、痛ぇ。
「いやぁ。今日も働いたねえ」
「……っ。……何事もなく進めんな」
呼吸を整え文句を言う。
まあ、こいつに何か言ったところで無駄なんだが。……でも何も言わないとエスカレートしそうだし、しょうがないよね。
「……ごめんね」
「……いつものことだろ。アンノウン見たら調子崩すのなんか」
ミアと初めて会った時から、既に“そういう風に”なっていた。
アンノウンを見たら調子を崩し、終いにゃ吐く。基本は狙撃なのにスコープから覗くだけで拒否反応は起こる。おかげでまともに狙えやしないし、だいたいいつも俺を狙って、俺がアンノウンまで誘導するという甚だ不本意な形が決まってしまった。
そんで無理矢理ハイにしていたテンションが下がった時、こいつは決まって謝ってくる。
普段は人が死のうが何しようがどうでも良さそうにしてるくせに、こういうところだけはしおらしい。
だが、まあ……
「よし、切り替えた。次はきちんと当てる」
「誰にだ」
「君のハートをロックオン♪」
「やめて!?」
こいつもうずっとゲロってろよ。
調子よく吐かずに終われば初っ端俺への不満を暴言に乗せて言ってくるし、めちゃくちゃ酷い時は当然のように俺にぶちまけてくるし、なんなんだよこいつ。ガチで百害あって一利無えじゃねえか。
「ん?」
「どした?」
「この感じは……」
「この感じは?」
「フラグの気配!」
ズシィン、ズシィン
(こちらフォン。こちらフォン。お二人とも出番です。お願いします)
「ねっ!」
「お前は獣か! というかこれ絶対作者が思いつかなかっただけだろ! もうちょっと流れを考えろ流れを!」