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滅びゆく世界で我々は祈り続ける。  作者: ネームレス
対アンノウン対策部隊ミアード本部第十三隊
3/4

ミア・リロード①

 使用武器:ライフル

 訓練成績:A

 命中率:A

 評価

 個人戦においても優秀な成績を残し奇術も強力。祈力も全体平均を大きく上回り、極めて高い戦闘能力を持つ。しかし、容姿こそ可愛らしいものの性格は難あり。我が強く周囲からの反感も多い。現在は部隊を作り隊長を務める。だが、前々から抱えていた《問題》が表に出始める。

 彼女、ミア・リロードはアンノウンを前にすると極度の緊張状態に陥ってしまう。実戦においては致命的な問題と言えるだろう。


 *



「はぁ……はぁ……」


 スコープから覗く化物(アンノウン)は目(と思われる器官)をこちらに向けた。


「ひっ」


 自分の口から短く悲鳴が出たことに気づくことはない。ただ義務を行うようにスコープを覗き続ける。


『……い』


 指が震える。

 引き金に触れる指がカタカタと音を鳴らす。


『……ろ』


 祈力を銃に、弾丸にチャージする。しかし、自分の感覚から伝わるチャージ量は一向に増えない。

 ああダメだ。心が悲鳴を上げている。歯がカチカチと鳴る。恐怖で今にも悲鳴を上げそうだ。


『……か…………ろ……』


 いや落ち着け私の能力は精神状態に大きく左右される怖い隠しようもないくらいに怖い心を強く持て嫌だここから逃げ出したい勇気とか愛とかでどうにかしろどうして私がこんな戦場ところに大きく深呼吸して一旦気持ちを切り替えてイヤだもうイヤだこんなトコロにいたくない二げだしたいスベてをナげスててこんなジゴクにセをムけてシにたくないシにたくないシにたくないシに


「なら俺が時間稼ぐよ。俺が時間を稼いでお前がチャージして撃つ。簡単だろ?」


 それだけが、心の支えだった。


 *


「いい加減起きろぉおおお!」

「きゃー!」


 どすん、と鈍い音を立てて床へと落ちた。……というか落とされた。


「な、な、なにすんのよー! ぶっ殺されたいの!?」

「バカ野郎! もうすぐ朝飯のサービスタイム終了だぞ! 時間見えてんのか!?」


 そういって抹殺対象カルロがグイッと近づけてきた時計には「AM 7:47」という表示。

 ……。…………。


「あと十三分しかないじゃない!?」

「だから言ってんだ! なのにお前ときたら起こそうとした俺に反撃までしてきやがって! なに? なんなのお前? 頭のてっぺんから足のつま先まで暴力行為が染み付いてんのかえぇ!?」


 そういうカルロの顔には私が攻撃した跡か、酷く赤い掌の模様がついていた。


「……プッ」

「上等だテメェエエエエエ!!!」


 飛んできた拳をいなし、がら空きの腹にこっちの拳を叩き込む。


「あー! もうこんなことしてたら時間が! ダッシュで着替えるから待ってて!」


 ギュム、と何かを踏みながらタンスの中から服を取り出す。……選ぶほど服もないから一瞬で着る服決まるのはいいけど、やっぱ虚しい。


「おいそこの暴力女。ナチュラルに人を踏んでくんじゃねえ」

「え? もう起き上がったの? ……次からはもう少し強くても大丈夫か」

「まず殴ったことに対する謝罪をくれ」

「正当防衛」

「ぐっ」


 タンスの中から適当に服を引っ張り出して手近なところに置き、時間が惜しいためすぐに着替える。


「せめて俺を出してからにしろよ……。あぁー、あと」

「んー?」

「涙のあとは消しとけよ」


 そう言って、カルロは出て行った。

 頰はわずかに濡れていた。



 *



「…………」

「…………」

「ねえカルロ」

「んだよ」

「腹減ったんだけど」

「誰のせいだ誰の」


 対アンノウン対策部隊隊員を対象にした朝八時まで朝食セット無料サービス。私たちにとってタダ飯というのは何よりも優先すべき事項なのだが……


「今日は食べれなかった……」


 寝坊により間に合うことはなかった。

 くっ、もっと早く起きることができていれば……!


「しかも今日に限って部隊ごとの模擬戦バーサスだぜ? 俺らみたいなのはこういうとこで成績出さねえといよいよ生活費すら危ういっつーのに……」

「最ッッッッッ悪」

「無駄に溜めんな。最悪なのはこっちも同じだ……」


 コンディション最悪。流石にこのままじゃ……。


「おーい。朝飯食ったかビリコンビ」

「そんなんで今日の試合大丈夫かー?」


 ああ、もううっさい。誰あいつら。


「この前入った新人だろ。でなきゃ模擬戦前のお前にゃ声かけんよ」

「それどういう意味よ」

「自覚無し。はぁ」


 くそっ。どいつもこいつも。

 よく覚えてないけど嫌な夢は見るし、朝飯は逃すし、なんか変な挑発かけてくる雑魚はいるし。今日は厄日だわ。


「ぴ、ピリピリすんなよ。怖えから」

「あんた。私の相棒なのに私が怖いっての?」

「平気で某リョキ振るってくる女が隣でピリピリしている。そんな状況で強くないとは言えん」

「チッ」

「いや、ホント怖いっての」


 相棒も役に立ちそうにないし。


「おーい。なんも言えねえのかー?」

「腹減って体力ねえんだろ? 察してやれよ」

「お、じゃあこの食いかけのおにぎり食うかね?」


 よし、あいつらは殺そう。

 そう思って腰を上げようとして__隣にいた相棒が全力でそれを阻止してくる。


「なにすんのよ」

「いやほんとやめてお前がルール無用で暴れたら洒落なんない。だからやめて」


 涙目でふるふると懇願してくるカルロを見て少し溜飲を下げる。ちょっとスッキリした。今度からイラついたらこいつをいたぶろう。

 落ち着きを少し取り戻して腰を下ろす。こんなとこで無駄な体力使ってる暇なんて無かった。


「ありがと」

「はいよ」


 むう……もう少し有り難がりなさいよ。


「おい。お前らもいい加減にしろよ」

「あ、先輩。でもあいつらって討伐成績Eなんすよね」

「だったら別にそこまで強くないんでしょう?」

「いやあいつらはだな……」


 と、そんなことやってる間にまたあいつら。


「あんま気にすんなよ」

「べ、別に(抹殺リスト候補として)意識してるわけじゃないんだからね!」

「ツンデレ乙」


 私はそこまで喧嘩っ早くないですし!


「恥ずかしいんすよね。同じ神託者として」

「戦えないなら引っ込んでればいいんすよ」

「お前らな……」

「俺らならもっといい成績出せますよ?」

「そうそう。それに__アンノウン前にして動けなくなる役立たずなんて戦場じゃ邪魔でしょ?」

「っ」


 思わず俯く。

 私が戦闘において、役に立てない理由。

 初めての戦闘の時から、アンノウンに対し本能的に恐怖を感じ、体が動かなくなってしまう。


「……自分で言うのはともかく、他人に言われんのは、イラつくな」

「……カルロ?」


 どうしたの? と聞く前に、彼はすでにこの場から動いていた。


「おい、お前。それは別にリロードがどうこうって話じゃないだろう。誰だってあんなバケモン見れば少なからず怖いに決まってんだろう」

「いやいや。俺ら別に強くないですし」

「あー、もしかして先輩も怖いんですか? なら俺らが守ってあげますから」

「……お前らなぁ」

「おい」

「ん?」

「あんたは」

「か、カルロ?」


 あんた、いったい何するつもり……?


「お前ら」

「お、おいカルロ」

「悪いな。下がっててくれ。あと、注意してくれてありがとな」

「はぁ? んだよ急に」

「あ、お前役立たず女のパートナーだろ」

「なに? 守りに来たの? 王子様は大変ですねぇ」


 ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべながら余裕そうな二人の前に、カルロが立つ。


「まあ、なんだ。いろいろと言いたいことはあるけど」


 もう一歩、近づく。

 あ、まさか、


「カルロ! ちょいm」

「死ねぇええええええ!!!」


 ごすっ。

 鈍い音が響く。

 同時に、ドサッ、と何かが倒れる音も……。

 ……あーあ。


「いやぁ、スッキリしたぁ」

「は、はぁ!? なにやってんだてめえ!」

「生意気な後輩に鉄拳制裁した。反省も後悔もしてねえ!」

「胸張って言うことじゃねえ! なんなんだよお前ら! 頭おかしいんじゃねえの!」

「頭おかしくなくてこんなとこいれるか! バカかてめえは!」

「逆ギレ!?」

「ああてめえらが言う通りミアは見た目は可愛くて正直ドストライクだが中身はクソだし悪口の九割は本音だし唯一の相棒たる俺を平気で巻き込むような攻撃をしてくるし、その割にアンノウン見ちゃうと途端に動けなくなるビビリ野郎だがな」

「そこまで言ってねえ!」

「だけどてめえらより長くここにいて、てめえらより多く戦場に出て、成績こそ低いが実際にアンノウンぶっ飛ばしてこの世の平和を守るのに貢献してんだ! バカにすんならぶっ飛ばすぞ!」

「もう既に俺の相方がぶっ飛ばされてんだよ!」

「ならてめえもぶっ飛べ!」

「理不尽!」


 ごすっ。


「行くぞミア! 胸糞悪りぃ!」

「ねえ待って。あんた今勢いで言った悪口を無かったことにしてるよね。ねえ」


 というかあんたの方が今すごい勢いで悪口言ってたよね。

 とは言っても、聞く耳持たなそうな相棒はずんずんと先に行ってしまう。このあと模擬戦あるというのにどこに行く気だろうか。

 ……まあ、いいか。


「ねえカルロ」

「んだよ別に勢いでやっちゃってちょっとまずいなぁなんてこれっぽっちも思っちゃいねえぞ」

「バリバリ思ってるよね」


 ったく。この相棒は。


「死ねばいいのに」

「おう。別に気にすん……おい。そこは「ありがとう」だろうが!」

「え?」

「そこで本気でわかんないなんて表情しないで!?」


 なにを言っているのだ。悪口言われてお礼を言うなんて、Mじゃあるまいし。


「……ま、そっちの方がお前らしいか」

「そうでしょう」

「ドヤるな」


 全く、こいつは。


「ま、これからもよろしくね。相ぼ」


『アンノウン出現。アンノウン出現。戦闘員はただちに武装しゲートに入ってください』


「う……」

「……行くか」


 ……嫌だなぁ。

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