カルロ・チャム①
『俺、どうしても叶えたい願いがあるんです!』
それは、遠い昔の記憶。
『こんな明日が来るかもわからない世界だからこそ、希望持ちたい。夢を持ちたい』
この世界の残酷さを知らなかった、幼き頃の思い出。
『だから俺は、今日も祈り続けます』
俺の原点。俺の始まり。
きっと、みんなもこんな風にして《奇跡》を起こす。
俺も奇跡を起こす者の一人となって、自らの《祈り》を世界に捧げる。
『可愛い女の子からめちゃくちゃモテますようにって!』
嗚呼、神様。
どうか愚かな俺をお許しください。
そしてできるなら、こんな《奇術》を無くしてください。
この、《アンノウンからモテまくる奇術》を。
*
幻想大陸 《ファタリーム》。
四大陸の中で最も《神託者》が存在する大陸だ。
自然が多く、人々もおおらかな性格をした人が多い。未開拓地も多く、中には「森の中で幻獣を見た」と言われるほどの神秘的な空気を纏う大陸である。そういった環境のおかげか、神託者が発現する奇術も様々な種類が存在する。
亀が空を飛ぶようになる奇術や、犬猿雉を強化する奇術。虹からビームを出す奇術もあれば地面から自らの石像を作り出す奇術も存在する。
とにかく幅が広い。「不可能を生み出すことが不可能」「無いなら作れ。作れないなら創れ」「夢が溢れる(物理)」等々、他の大陸からは《パンドラボックス》と言われるほどに不思議が溢れている__それが幻想大陸 《ファタリーム》だった。
ファタリーム都市 《ミアード》
対アンノウン対策部隊ミアード本部第十三隊隊長ミア・リロード
同隊隊員カルロ・チャム
アンノウン討伐成績E
「ミアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 俺ごと殺る気かよてめえ!? 逃げ遅れたら死んでたぞ!」
「うっさい! 死にたくないならキリキリ逃げろ! そして死ね!」
「やっぱり殺す気だよこの人!」
俺の名はカルロ。カルロ・チャム。神託者だ。たった二人しかいない、正直部隊と言っていいのか微妙な部隊、第十三隊の隊員だ。
討伐成績は最低ランクのE。存在する全部隊の中でダントツのビリを叩き出した、ある意味伝説に名を残すであろう部隊だ。どうしてそんな部隊に俺がいるのだろう。
「ったく。もうちょい粘ってくれればねぇ」
そして俺の目の前にいる美少女。いや、性格はクソだが。名をミア・リロードと言う。この十三隊の隊長である。
その身に秘める祈力は強大。発現した奇術は《浪漫砲》。銃器のみに効果があり、祈力を込めれば込めるほど一撃の威力が跳ね上がっていくことだ。
難点を挙げるなら、チャージする時間は本人の精神状態に依存し、チャージし過ぎると砲身が溶けて銃が使い捨てになってコスパがやばいということか。
「お前、俺の奇術はわかるだろ。無茶いうな。戦闘能力皆無だぞ俺。死ぬぞ? マジで死ぬぞ? ちょっと笑えるぐらい簡単に死ぬぞ? さらには討伐成績が最低のおかげで給料も低い。日々の生活費で消えるからまともな装備も揃えれない。わかってんの?」
「わからない。わかりたくない」
「あなたがもう少し頑張ってくれればこんなことになってないんですけどねえ!」
「私だっていっぱいいっぱいなのよ! そう言うならあんたがもっと私の狙いやすいようにアンノウン誘導してよ!」
「できるか! 逃げるだけで精一杯だ! 現状維持で限界ギリギリだっつーの!」
「はん! その程度があんたの限界ってことよ!」
「「やんのかこらぁ!」」
日々の会話も俺らにかかればこの通りである。
「ほーら。またやってるよ。痴話喧嘩」
「夫婦漫才でしょ? いつ結婚するのかね」
「残念夫婦」
「見てて恥ずかしいから他所でやってくんねえかね」
「「誰がこんな奴と!」」
*
「……はぁ。今日ももやし、か」
「もやし、か。じゃないわよ。米もあるでしょう。味噌汁も」
「茶碗の半分にも満たないごはんに極限にまで薄めてもはやただのお湯に風味付けとして入ってる申し訳程度の味噌だけどな」
「三食出るだけいいと思いなさい」
現在、俺とミアは少しでも節約するためにと本部に用意されている寮に一緒に暮らしている。いや、やましい気持ちはない。そんなもの、この同棲紛いのルームシェアが始まって一週間で霧散した。
シャワーは一日一人五分以内。電気は夜九時には消灯。日々のごはんのおかずはもやし。部屋にあるのは最低限の生活必需品。日々食欲的な意味での飢えと戦っているためいちいち隣にいる相棒に欲情なんてしている余裕もなかった。むしろ、毎日の戦闘結果から互いにダメ出ししあいいがみ合う日々である。
「次こそは絶対に結果残す」
「へいへい。期待してますよ」
「絶対に期待してないでしょ」
ばれてーら。
「というかさ。メンバー増員しねえの?」
「え? ……あぁ、増員ね、増員……」
まただった。ミアは毎度のことながら、隊員の追加の話になると表情を曇らせる。
うちの隊は俺とミアのたった二人であり、他の隊は多いとこだと二十人、そうでなくとも平均五人はいるというのに何が気に入らないのかミアはメンバーを増やそうとしない。こいつはうちの現状をわかっているのだろうか。
「ま、どっちにしても討伐成績ビリのうちに入りたいなんて物好きはいないか」
「だ、だよねー! 入ってくんないよねー……」
「言ってて悲しいならやめろや」
俺も悲しくなるだろう。
「ま、無い物ねだりにしかならないからメンバーの件は置いとこうよ」
「うーん……」
なんかいいように……というか強引に逸らされたような。
「明日は明日の風が吹く。私たちは私たちのやり方でのんびりやっていこう」
そう言ってミアは笑った。元が美少女なだけあって、その笑顔は見るだけで周りを元気にする力がある。
……。……はぁ。
「これでアンノウンを前にしてテンパりさえしなきゃなー」
「OKそんなに話をほじくり返したきゃ相手になってやるよ」
口喧嘩第二ラウンド、開始。