第七部
〜マーズとドルシェ〜
「お前は、男?女?」
マーズは、目の前にいる「生物」に問い掛ける。
『死に行くのに、知る必要はない』
「男の方ですわ」
「そこで判断…?」
マーズは、やはりドルシェのノリが苦手な様だ。
『死ね』
アレンは、手に持った剣を振るう。
「なにっ―!?」
剣を振っただけのアレンの攻撃は、マーズの後ろから襲いかかってくる。
「どういう事だ!?」
マーズは、肩を抑えながら、止血を試みる。
「わかりませんわ。ただ、敵は1人しかいないはず―」
ドルシェは、周りに意識を集中させるが、気配を感じない。
『よく避けたな。しかし、次はどうだ?』
アレンは、剣を振る。
「来るぞ、ドルシェ!!」
マーズとドルシェは、周りに気を配る。
「くっ!」
ドルシェは、寸での所で攻撃をくい止める。
『ほぉ。これならどうだ?』
剣を何度も振るい始める。
「厄介だぜ…」
マーズは、見えない攻撃を避けながら呟く。
「このままじゃ、マズいですわ…」
ドルシェも、打開策を探すが見付からない。
「待てよ…まさか!ドルシェ!5秒でいい!援護頼む!」
「わかりましたわ」
マーズに呼応すると、マーズの後ろまで、ジャンプをして到達する。そして、乱れ飛んで来るアレンの攻撃をかわす。
「5秒スタートですわ」
「こまかっ!」
マーズは、突っ込みを入れた直後に集中を始める。
『何をしても無駄だぞ。』
アレンは、余裕すら感じる声で言う。
「甘いのは―お前だっっ!」
マーズの体から、光が溢れる。
『いっけぇ!』
マーズは、両手を横に広げる。光の円陣が、2人を包む。
『そんな防御は気かぬ!』
アレンは、突っ込んでくる。
「防御?人間の話も聞けないヤツが、偉そうにすんなよ?」
マーズは、手をとじる。
「マーズのスーパーデンジャラスアターック!」
光の円陣が、回りだす。そして、ガトリング砲の様に、次々と光の矢を放つ。
『攻撃は、最大の防御―か』
「名前がダサいですわ」
ドルシェは、矢を剣で払い落とすアレンを見ながら言う。
「名前より技を見ろっ」
マーズは、ドルシェに叫ぶ。
『なかなかの攻撃…だが、ダメだ』
アレンは、口から炎を吐き出す。光の矢は、一瞬で燃え尽きる。
「残念―」
マーズは、ニヤリと不適の笑みを浮かべる。
『ぬっ!?』
アレンの背後からの攻撃。光の矢が、右肩に突き刺さる。
「だから言ったろ?危険だって」
「そういう意味でしたのね!素晴らしいですわ!」
「いや…名前は適当…」
決めたつもりのマーズだが、ドルシェの反応に、動揺する。
『…』
「どうだ?自分の技を喰らった気分は?」
マーズは、立ち上がり中指を立てて話す。
『なかなか面白い手品だが、俺の攻撃とは違うな。これが本場だ』
「ドルシェ、今の技わかったか?」
「だいたいわかりましたですわ」
アレンは、剣を振るう。
「行くぞ!」
マーズの周りの円陣が光り周り出す。ドルシェは、集中する。
「もういっちょ!マーズの―」
「それ恥かしいですわ」
ドルシェは、マーズのセリフを遮る。開いた瞳は、深紅だ。
「…。くそ…」
マーズは、膨れ面をしながら、集中する。来るはずのアレンの攻撃が来ない。
『そういう事か。その円陣は、俺に攻撃させて、隙を作る為の…』
「そういう事だ。そして、ここで終わらないのが俺達だ―」
『!?』
アレンの背後からの攻撃は、頭に生えた角を切り落とす真空波だった。そして、そこに立っていたのは、ドルシェ。
『異空間の応用を、よくぞ見破ったな』
「手品のネタばらすのが得意だからな」
「隙がありすぎですわ」
『!』
ドルシェは、立て続けに真空波を放つ。アレンは、咄嗟に避ける。
『虫けらの身分で、なかなか楽しませてくれるわ!この勝負を付けたくば、生贄の間まで来い!』
アレンは、霧の様に消えていく。
「生贄の間?…めんどくせぇ」
「とりあえず、リトさんの所が先ですわね」
マーズは、親指を立てる。2人は、走り出す。
〜冥界〜
「久し振りだな。エイシス」
ダグスは、エイシスの前に降り立つ。
「そうだな。人間は、やはり滅びる運命なのか…」
「さぁな。だが、良い感じだったぜ?」
「そうか」
エイシスは、遥か彼方まで岩と砂が広がる世界を見詰める。
「冥界も決着を付ける時が来たな…」
「そうだな。しかし、勝算はあるのか?」
「…。オシリスに辿り着けば」
「オシリスの軍団か―」
「噂をすれば、来たぞ」
荒野の彼方に見える砂煙。偉業の形をした者達が、所狭しと走って向かってくる。
「アイツらも暇だねぇ。何万年やりゃ気が済むんだか」
ダグスは、宙に舞う。
「俺は上から。エイシスは下からで決まり―って、おい!?」
既に光の太刀を発動する寸前のエイシス。そして、剣を勢い良く振るう。遥か遠くにいる軍団を瞬殺していく閃光弾。
「俺、いらなくね…?」
ダグスは、空から眺める。
「始まりの挨拶だ。勝負は、これからだぞ」
消えた軍団の後ろから、それ以上の軍団が押し寄せてくる。
「なるほど。今度は、飛行部隊も一緒か」
ダグスは、息を吸い込み、一気に吐き出す。風と共に燃え上がる炎は、遠くの軍団を、一瞬で燃やし尽くす。
「衰えていないようだな」
「当然。しかし、エデンは、ほったらかしで良いのか?」
「…。あの3人がいれば、何とかなるのだろ?」
「そうだったな。だが、2人と1匹だ」
ダグスは、ニヤニヤしながら言う。
「ドラゴンが笑っても醜いだけだ。やめておけ」
エイシスは、無表情のまま返す。
「相変わらず、ノリが悪いのな」
ダグスは、しらけた顔をして呟く。
「オシリスを消滅させるぞ」
エイシスは、光のごときの速さで消える。
「ちったぁ、ユトリも必要だぞぉ?」
ダグスは、後を追って消える。
「なぁ、ドルシェ?」
マーズは、ドルシェの後を追いながら、質問する。
「なんですの?」
「何処に向かってるんだ?」
「私に聞かれても困りますわ」
「へっ…???」
ドルシェの答えに理解が出来ないマーズ。
「ドルシェ…何で俺の先を走ってんだ?」
「レディーファーストですわ」
ドルシェは、そのまま走り続ける。
「何か、調子狂うなぁ…」
マーズは、苦虫を潰した顔で溜め息を一つ吐いた。
暫く走ると、ドルシェは立ち止まる。
「ここがさっきの部屋かしら…?」
「違う様な気もするが…だが、血の匂いがプンプンしてきやがる」
「開くのが、手っ取り早いですわ」
ドルシェは、ランチャー砲を構える。
轟音一発―
「ハハハ…普通って言葉を知らないのか…?」
マーズは、破壊されたドアノブを拾って呟く。
「マーズさんも、充分、普通じゃないから安心出来ますわ」
「失敬な!俺は、至って普通だ」
2人は、そんな呑気な会話をしながら、中に入る。
「どうやら、違う部屋みたいだが、運命ってヤツに乗せられたか?」
部屋の中央に立つアレン。
『虫けら共よ!待ちくたびれたぞ。この部屋は、かつて、神聖な儀式が行われた部屋。即ち、死ぬ為の部屋だ』
「ったくよ…ドルシェ。先に行ってくれ。俺は、寄り道してから行く」
マーズは、一歩前に出る。
「リトさんは、良いのかしら?」
「とりあえず、任せた」
「…了解ですわ」
ドルシェは、部屋を跡にする。
「さぁて、始めようぜ」
『始まりが終わりだー』
アレンは、セリフが終わる頃には、マーズの横に移動している。
「男に近寄られても嬉しくねぇ」
マーズは、炎をぶちかます。アレンは、片手で炎を受け止める。
『お前は、異端でありながら、何故に人間の味方をする?』
「…。そっくり返すぜ。お前は、人間だったのに、何故、人間を滅ぼそうとするんだ?」
『知れた事よ。人間などに未来はない。時の女王との契を交わした時にわかったのだ。人間などという中途半端な生物である限り、俺に未来などない―と』
アレンの拳に力が籠る。
「勝手をほざきやがって。てめぇの個人の感情で、全てを否定してんじゃねぇよ」
マーズは、壁に掛かっている斧を手に取る。斧が、電気を帯びて形を変えていく。最後には、剣の形に変わる。
『相変わらず、こざかしい手を使うな。だが、神の剣でもない、只の鉄では何も出来ないぞ?』
「人間をやめたら、脳ミソも退化したのか?神の剣とは、己の意思一つで生まれ変われるモンさ」
鉄の剣が、光り出す。そして、次第に透き通った光を放つ剣へと変わっていく。
『面白い。ならば、俺も見せてやろう。人間が作った、神を斬る為の剣を!』
アレンの手の平で、剣らしき形の光が映し出される。
『これが、対神の軍団の為に作られた剣だ』
「ほぉ。んで、俺は神じゃねぇぜ」
『まだ、わからぬか。』
アレンは、剣を床に突き刺す。
「なっ!?」
マーズの足元から、剣が飛び出てくる。太股をかする剣。
『次は、どうだ?』
剣が天井から襲ってくる。避けるが、腕をかすめる。
「なかなか面白い手品だな」
マーズは、それでも余裕を見せる。
『ここからが本番だ』
アレンは、突如、突進を始める。マーズは、剣を構える。
「お前に長い時間、付き合ってる暇はないぜ?」
マーズも突進を始める。2人の剣がぶつかり合い、気流が外へ向かう。
『さぁ、地獄への招待状だ。受け取れ』
アレンの目の色が、緑色に光り、光線がマーズを襲う。ジャンプをして避けるマーズ。
「ホンっと、お前達は、不意打ちが好きだよな」
マーズは、神の剣を振るう。目で確認が出来る程に、空気が切り裂けて、アレンを目指していく。
『やはり、その程度の力だったか』
アレンは、不適の笑みをこぼしながら、左手を突き出す。カマイタチの様な攻撃は、アレンの左手によって止められる。
「神の剣だぜ?甘過ぎだろ」
『―!』
真空を受け止めた左手の後ろから、剣の先が現われる。
「いっけぇぇぇ!!!!」
マーズは、更に自分の剣に向かって、最大限の電磁波を流す。それは、空間を飛び越えて、アレンの前に現われた剣先に届き、一気にアレンの心臓辺りに突き刺さる。
『おのれ…!』
電磁波は、確実にアレンを捉える。
「ついでだ―!」
マーズは、瞬間移動で、一気にアレンの前に到達する。
『―!』
マーズの剣は、アレンの胴体を切り裂く。
『調子にのるなよ』
切り離された身体のそれぞれから、生えてくる身体。
「気持ちわるっ」
2人のアレンの登場に、拒絶を示すマーズ。
『…』
片方のアレンが、動き出す。
「このやろぉ!」
襲いかかるアレンの剣を避ける。
「ぐっ―!?」
マーズの肩に突き刺さる剣。もう1人のアレンが、いつの間にか、マーズの後ろを取っていた。
『…』
「しまっ…!」
何も無いはずの空間から、剣が出てきて、マーズの横腹に突き刺さる。
『…』
次々と現われる剣は、マーズを串刺しにしていく。
「こ…こんな所…で…くた…ばれ…ね…」
『終わりだ』
2人のアレンは、前後から、マーズの首をはねる。
『所詮は、虫けらだったな』
アレンは、更にマーズに向かって、業火を浴びせて燃やし尽くす。
ドルシェは、ランチャー砲でドアを破壊する。
「…。時の女王さん、出てきたら如何かしら?」
『…』
光りと共に、時の女王が現われる。
「あなたも悪魔に魂を売っていたのですね」
アレンと同じ生物が立ちはだかる。
『アレンは、魔なる人間…私は、魔を纏う神…』
ドルシェは、カエサルから奪った剣を振りかざす。
「つまり、2人とも悪魔の子分ですわね」
剣が、炎を携えてうねり出す。
「最後の勝負ですわ」
ドルシェは、剣を鞭の様に振るう。炎を携えた剣は、網状になり、時の女王に襲いかかる。
『…』
女王は、両手を広げる。両手の平から、こぼれ出す砂。
『時とは、一定の質量で動く…質量を減らせば、時は緩やかになる…』
砂の流れを止める女王。すると、炎の剣の動きが遅くなる。余裕で避ける女王。
『時の理が、お前に通じなくても、それ以外は違う…』
「…」
ドルシェは、剣を捨てる。
「全てを、お見せしますわ」
ドルシェは、集中する。身体から立ち込める光。
『やはり…お前は、太陽の使いの転生だったか…』
「エイシスさんが乗り移って気がつきましたわ」
ドルシェの体が、黒く変化していく。
「時を支配した、哀しき女王―さよならですわ」
ドルシェは、右手を前に突き出す。次の瞬間―
『こ…れが…太陽の力…』
時の女王の背中から、ドルシェの拳が貫通している。
「愛の深さ故に、憎む以外の道を失った哀しき存在…」
ドルシェは、手を抜くと、掲げた左手に暫魔刀が戻ってくる。
「魔と化した神には、うってつけの武器ですわ」
暫魔刀が、紫色に輝き出す。
『私を消せば、時が壊れるでしょう…』
「壊れたら、もう一度、作りますわ」
ドルシェは、暫魔刀を上から下に、勢いよく振るう。
『アレン…』
時の女王は、黄金の砂の様に崩れていく。
「マーズさんの好きな女性は、無事かしら…」
ドルシェは、円陣を見詰める。
〜神格界〜
「声がするのに、いつまでたっても着かない…」
リトは、白いモヤの道を歩き続ける。
「道を間違えたのかな…」
リトの心には、不安がよぎる。
「リトちゃん。待たせたな」
リトは、声の方に振り向く。そこには、マーズが立っていた。
「マーズ!?」
リトは、いるはずがない存在に驚きを隠せない。
「化け物にやられて、ここに来ちまった」
マーズは、頭を掻きながら言う。
「やられたって…まさか…!」
リトが言葉を言い終わる前に、マーズはリトを抱き寄せる。
「もう、全て終わったんだ。帰ろうぜ?」
マーズは、リトの耳元で囁く。
「…マーズ?」
リトは、マーズの温もりを感じながらも疑問を抱く。
「戻ればわかるさ。時の流れを止める事は、出来ないってな」
抱き寄せるマーズの腕に力が籠る。
「…離れて」
リトは、マーズを突き放す。
「どうしたんだよ、リト?」
突然のリトの行動に動揺するマーズ。
「あなたは、マーズじゃない!」
「俺は俺だぜ!?」
「マーズは、死んでも諦めたりしない!それに、私が生きているのに、先に逝ってしまうなんて有り得ないわ!」
「しょうがねぇな」
マーズが消えていく。
「!?」
リトは、唖然とする。
「よく気が付いたな」
また、声がする。今度はヤーヴェだ。
「お兄様…?」
「あれは、神格までの道の試練だ。神格は、精神の高みを極めなければ、進む事も出来ない」
「精神の高み…」
リトは、心に思い付いた情景を浮かべる。人々の笑顔。動物との共存。大事な友達と笑い合える時間。そして、愛する人との幸せな時間…
「今から、五分だけ神格界への道を切り開く。辿り着けるか?」
リトは、ヤーヴェを強く見つめて頷く。
「よし…。リト、必ず生きるんだ。そして、新しい時代を盛り上げていくのだ」
「お兄様…?」
ヤーヴェのセリフが、別れの言葉に聞こえて、不安になるリト。
「大丈夫だ。私は、まだ死ぬ訳にはいかない。リトは、己の使命を―」
ヤーヴェは、炎を繰り出す。
「この方角だ!」
轟音と共に、炎がモヤを切り裂いて突き抜けていく。
「凄い…」
リトは、ヤーヴェの力を目の当たりにして驚嘆する。
「さぁ、行くんだ」
ヤーヴェの体は、段々と薄れていく。
「お兄様!?」
「心配するな。死ぬ訳ではない。…リトよ。この先に何が待構えていても、自分の心を信じるんだ。暗闇を照らす光は、心の中に存在している」
ヤーヴェは、そう言い残して消え去る。
「お兄様ぁ!」
リトの叫びは、辺りに空しくコダマした。
ヤーヴェがいた場所をボンヤリ眺めるリト。
「…必ず…必ず、着いてみせるわ…!」
リトは、ヤーヴェが開いた道を走り出す。リトは、これまでの出来事が、走馬燈の様に甦り、涙が溢れ出す。何故、こんな事になったのか?答えは、誰が教えてくれるのか?様々な想いが胸に走る。
(マーズ…無事だよね…?)
最後に浮かぶのは、マーズだった。
走るリトの目前に、そびえ立つ塔が見えてくる。
「見えた!」
リトは、更にスピードをあげる。塔が近付くに連れて、薄れていく。いや、モヤが戻り始めたのだ。
「お願い!待って!」
リトは、消えかかる塔と戻り始めるモヤに懇願する。しかし、非情にも、モヤは拡がっていく。
『汝に問う!人間とは、欲望!人とは、傲慢!ならば、我等、神格は何を纏う!』
突然の響く声に、回りを見渡す。勿論、何も見えない。
『さぁ、答えよ!』
リトは、瞳を閉じる。そして、祈りをする様に話し始める。
「神格とは、神の嘆きの姿です」
リトは、瞳を開く。
『……』
リトの目の前のモヤが薄れて、先程の塔が出現する。
『汝が神を語る理由は?』
「お願いがあります!時の女王を止めて下さい!終末の定めを解放して下さい!」
『終末を止める術はない。残念ながら、我々の力では、今の時の女王には勝てぬ。だが、お前には、何者にも負けない心を持っている』
「誰にも負けない心…?」
リトは、困惑する。
『己の心を信じよ。そして、己の仲間を信じよ。それが、新たな道を作るやもしれん』
【戯れた事を言うでない】
そこには、鷲の顔を持ち、5mはありそうな、三つ又の槍を持つ生物が立っていた。
「あなたは誰ですか!?」
【冥界の王―オシリス】
「冥界…!?」
リトは、驚きを隠せない。
【人間も人も終末によって滅びる運命。そして、冥界は永遠の楽園となる】
「まさか…あなたも時の女王の仲間―!?」
【勘違いするでない。冥界は、人間も人も…例え、神格でも裁かれる場所。】
『オシリスよ!何故に我等の領域に踏み入った!』
【知れた事。この世の全てに、終末の弾劾の雨を降らせる為】
(やっぱり、時の女王と同じ…)
リトは、塔を仰ぎ見る。リトの回りに、オーラが甦る。
「冥界の王よ。己の欲望を満たす為に、終末を成就させる事は、神への冒涜です。直ちに冥界に還りなさい」
【太陽の意思…!これはこれは…まだ、気がつかぬか?終末とは、己の中の欲望を暴走させる事で、エデンの秩序・過去を破壊し尽くす事。そして、ここにいる神格を冥界に送る事で、エデンの暴走が加速する。姿を見せよ!神格の人よ!】
『我等を消し去り、エデンを崩壊させる…エデンは、終末など臨んでおらん!』
塔から二つの光が舞い降りる。次第に形を表す姿は、翼を持たない天使―そんな表現が似合う。
【あとの2人は、既に消滅した様だな】
『…太陽の意思よ。塔に入るのだ』
「…わかりました。神格の方達のご武運を祈ります―」
リトは、踵を返して走り出す。
【私を無視出来るとでも思っているのか…?】
オシリスは、一瞬にして、リトの前に立ちはだかる。
「どきなさい」
リトは、怯む事なく言い放つ。
【私は、絶対者。どんなに強いオーラを持ってしても、私を拒む事は出来ない】
『太陽の意思よ!行け!』
声と共に、閃光がオシリスに襲いかかる。閃光は、オシリスの心臓辺りに直撃するが、全く動じない。
【貴様らから、先に裁くとしよう】
リトの前から消えたオシリスが、神格の2人の後ろに立つ。
『馬鹿…な…』
『太陽の意思…早く…塔…に…』
2人の神格は、薄れて消えていく。
「一体、何が起きたの…?」
リトには、ただ立っているだけに見えたオシリス。
【これが、絶対者の力。そして、神の情けに助けられた小さき存在など、児戯にも劣る】
「…取り消しなさい…」
【…?これが、宇宙開闢以来、続いている全てだ】
「取り消しなさいって言ってるのよ!彼等は、地球の為に…神の名の元に、背を向けた哀しき存在なのよ!どうして、そこまでしなくちゃいけなかったのか、あんたには、考えも付く訳ないわ!」
【くだらぬ話だ。生憎だが、私には、神に向ける背ですら持ち合わせていない】
「あなたは、悪魔と何も変わらないわ!」
【冥界が何故、存在するか知らない様だな。裁かれる前に教えてやろう。冥界とは、エデンが誕生して以来、地上に済む生物の思念によって誕生した場所だ。つまり、地上の生物が全て消滅して、我に裁かれない限り、冥界と私は、この世の混沌に存在し続ける。私を消す事は、エデンを消滅させなくてはならないのだ。つまり、神ですら私を消し去る事は、困難を極める】
オシリスは、勝ち誇った表情で、リトを見下す。
「それでも、私は戦うわ!」
【勇ましいな。しかし、お前を葬り去るのに、1秒もいらん】
オシリスは、三つ又の槍を振りかざす。
「混沌から生まれた存在に、神を語る資格など無い」
オシリスの動きが止まる。
【…奈落の女神!】
「あなたは…?」
リトは、優しくて暖かく、それでいて背筋に伝わる冷たい感覚を併せ持つエイシスに見とれる。
「お前が太陽の意思か。私は、エイシス。お前は、お前の使命を果たすが良い」
エイシスは、剣を構える。
【何故に、此処にいる?】
「愚問だな。お前こそ、神格と冥界を繋いで、神を取るつもりか?」
エイシスの剣が光り出す。
【神など興味ない。我が軍団を突破したのか?】
「お前の軍団など、ダグス1人で充分だ」
【なるほど…ならば、最初の血祭りは、奈落の女神―】
槍の突きが、エイシスの腹に刺さる。
【所詮、この程度…ぬっ?】
「この程度は、お互い様の様だな」
エイシスの姿が、崩れていく。
【残像か…はっ!】
残像が消えると同時に現れて、横一文字に剣を振るうエイシス。オシリスは、寸での所でジャンプしてかわす。
「太陽の意思よ!早く行け!」
エイシスの言葉に我に返るリト。
「お願いします!」
リトは、何が何だか理解出来ないままに走り出す。
【そうはいかん…!?】
追いかけようとするオシリスの前に立ちはだかるエイシス。
「冥界に終止符を打ってやろうとしている時に、余所見は禁物だろ」
【エイシス…!!】
オシリスの拳に力が籠る。
再び、剣と槍が混じり合う。
【冥界の軍団はどうした?】
「冥界の軍団…?今頃は、地獄に戻ってる頃だろ」
【無限の戦士を全て、葬る事など出来ぬ!】
「残念だが、不可能では無かったぞ」
エイシスは、一度、オシリスから離れる。そして、一気に攻める。
【認めん!冥界の軍団は最強!】
「ならば、確かめてくるんだな」
エイシスの剣が光り出す。
「はっ!!!」
気合いと共に振り切る剣から、閃光弾が走る。
【光の太刀とは…懐かしいぞ?】
オシリスは、三つ又の槍を地面に突き刺す。オシリスの前に広がる霧は、閃光弾を飲み込む。
「…」
【お前の攻撃は、全て私に通用しない】
「面白い」
エイシスの剣が、黄金色に変化していく。
【ほぉ。ならば―】
オシリスの霧の壁も、黄金色に輝き出す。
【神の色を扱えるのは、お前だけではない】
「…」
エイシスは、黄金の太刀を放つ。
轟音―
ぶつかる二つの黄金は、激しく爆発をする。爆風になびくエイシスの髪。
【黄金の太刀、敗れたな】
目の前に立つオシリス。そして、黄金の壁は、健在している。エイシスは、オシリスと壁を睨む。
【いくら睨んでも無駄だ。何故なら、我は神ですら、傷を負わせる事が出来ない存在だからだ】
オシリスは、両手を空に掲げる。轟く雷鳴。
【神をも越える一撃の一つ目だ】
稲光が辺りを真っ白にする。
【格の違いを痛感して、後悔するがよい】
オシリスの視線の先には、光に縛られたエイシスがいた。
【その光は、生命を吸い尽くして光を放つ。さすがだな。とても明るく光っているぞ?】
「…よく喋るヤツだな。これで、私の動きを止めたつもりか?」
エイシスの身体が光り出す。呼応する様に、纏わりつく光の紐も光り出す。
【まさか…!?】
際限なく光りを放つエイシス。光の紐は、段々と赤色に変化していく。
「格の違い?そんなに見たければ、見せてやろう」
エイシスの身体が、極限まで光る。紐は、真っ赤からどす黒い赤に変わって破裂をする。
【なんという事!】
「さっきは、私の技が、全て通用しないと言ったな?もう一度、さっきの壁を見せてみろ」
エイシスは、剣を構える。
【良かろう!成す術が無い事を悔やむがいいわっ!!】
オシリスの前に、再び、黄金の霧が現れて、壁を作る。それを見届けたエイシスは、低く構える。
「神の太刀―」
エイシスの身体の光が、剣に集まる。細くしなやかに長い剣は、形を変えていく。
「第1の天使―」
剣は、フェンシングの剣の様に、鋭い先端を持つ形に変わる。そして、一気に走り出すエイシス。
【何と―!】
壁を突き抜けるエイシスの剣。そして、三つ又の槍の柄の部分に突き刺さる。槍には、ヒビが入り、粉々に砕け散る。
「第2の天使―」剣は、形を更に変えていく。今度は、空まで届く光りの筋を携えた剣になる。
【一体、どういう事だ!】
エイシスは、動揺するオシリスに構う事なく、切り掛かる。間一髪で避けるオシリス。光りの筋は、遥か遠くまで大地を切り裂く。
【おのれぇっ!!!!!】
オシリスの目から光線が発射される。身軽にかわすエイシス。オシリスは、更に、右手をかざして、衝撃派をかます。
「くっ…」
エイシスは、衝撃派をまともに喰らい、顔を一瞬、歪めるが続ける。
「第3の天使―」
剣は、元の細くしなやかに長い剣へと戻る。しかし、明らかに先程までの剣とは違うオーラを放つ。
【次の攻撃を放てば、お前は無傷で済まないぞ】
「それがどうした?」
エイシスは、渾身のフルスピードで、剣を振るう。
ドガーン!!!!!!!!!!
オシリスに、剣は届かずにエイシスが吹き飛ぶ。
【言ったはずだ。この体は、神ですら傷付ける事が出来ぬと】
エイシスの身体には、至る所に切り傷が出来る。
「まだだ…」
エイシスは、剣を杖代わりにして立ち上がる。
【あがくな。死に急がずとも、すぐに、死は訪れる】
オシリスは、衝撃波を連発する。その度に吹き飛ぶエイシス。
「…」
エイシスの剣は、光りを失い、いつもの剣に戻っている。オシリスの攻撃は、更に続く。砕けたはずの三つ又の槍が再生する。
【冥界とは、思念の元に創られた世界。故に、その世界に君臨する王には、不可能はない】
気が付けば、エイシスの前にオシリスが立っている。
「誰も聞いていない」
エイシスは、一度、間合いをあける為に、後ろへジャンプする。
【根本的な物が違うという事だ。お前の動きよりも早く、と思えば、早くなれる―】
エイシスの後ろをとるオシリス。
「―!」
三つ又の槍の突きを、間一髪で避けるが、衝撃波によって、地面に転がる。
「それでも、私は負けない」
エイシスは、背中の両刃の槍を取り出して構える。
【神の槍か】
オシリスは、三つ又の槍を空にかざす。
【神の槍とは、エデンの力があって、初めて威力を発揮する。ここは、最早、神格ではなく、冥界の領域。ただの槍では、何をしても無駄だ】
オシリスは、勝ち誇った表情を浮かべている。
「何度も言わせるな。私は勝つ―」
エイシスは、空高く跳び、槍を構える。
「まだ、わからないのか?冥界に無い物…それはエデンの意思!」
黒光りの方の刃が鈍く輝き出す。
「黒点―」
槍は、炎を携える。そして、炎は、エイシスにも移る。
【最大の一撃で来い。そして、後悔をする事になれ】
オシリスの前に、黄金の壁がはびこる。
「…」
エイシスが急降下を始める。その姿は、まるで、彗星が落下するが如く、激しい炎と輝きを放っていた。
【どんな攻撃も無駄だぁ!】
オシリスは、三つ又の槍に気を溜める。
激しい衝撃と轟音―
【…何故…?】
三つ又の槍は、エイシスの腕に突き刺さる。そして、エイシスの槍は、オシリスの胸を突き刺していた。
「お前が、どんなに強い身体を持っていても、神ではない。その傲慢が、冥界の王どまりだったな」
エイシスの槍が、更に食い込む。
【これしきで―】
オシリスが力を入れようとした瞬間。
「黄金の太刀―」エイシスは、剣を抜く。両刃の槍のもう片方が、黄金の輝きを放ち、エイシスの剣を照らし出す。
【お前の太刀など…利かぬ】
オシリスは、槍を抜こうとする。しかし、力を込める程に、槍は、一層輝く。
「己の欲望に酔い痴れる、傲慢不遜の王よ。その力で滅ぶがいい」
エイシスは、剣を横一文字に振り切る。オシリスの体が、光りを放ちながら、崩れていく。
【このオシリスが…冥界の王が…?】
オシリスは、消え去った。エイシスも、そのまま、倒れる。
「やっと、エイシスが勝ったか?」
ダグスの回りにいた、無限の兵士が消えていく。ダグスは、その様を眺めながら呟く。
「盟約は、果たしたな…」
〜真実の道〜
「ここは…神格界…?」
塔の中のリトは、目の前に広がる光景に息をのむ。何も無い景色は、音すら無く広がる。
「どうしよう…」
リトは、立ち尽くしたままで、動揺を隠せない。
「…ダメ。頑張らなくちゃ…」
とりあえず、真直ぐと走り出す。
『汝、神への道を開くのか―』
突然、聞こえた声に立ち止まる。
「あなたは、誰ですか!?私は、終末を止めたくて、此処に来ました!」
リトは、周りを見渡す。そして、一点で視線が止まる。そこには、1人の男が佇んでいた。
『太陽の意思よ。終末は、定めの時。それを止める事は、不可能であり、神への冒涜になるぞ。それでも、終末を止めると申すのか?』
「神への冒涜…それでも…それでも構いません!今、私が導かなければ、罪もない存在まで―」
『自惚れるなぁ!!』
振動が伝わる程の声に、リトは、一歩下がる。
『太陽の意思よ。神の導きを主ごときの導きで、変えられるなどと言うでない。神には神のお考えがあっての導き』
「…。嫌です…。私は、私の信じる神にのみ、光を求めます!」
『まだ、わからぬか。お前が此処に来たのも、神の導きなのじゃ。そして、この後に起こる事も―じゃ』
「この後…?」
リトの目の前に、大きな門が現われる。
「!?」
塔の中に現われた、大きな門に声も出ないリト。
『これは、嘆きの門。神格界と神界の境目じゃ。ここを通れば、神界に辿り着き、主の願いも叶うやも知れぬな…』
「神界…行きます。それが、私の使命ならば、行ってみせます!」
リトは、ゆっくりと歩き出す。
『焦るな。この門は、名前の通り、通る者の嘆きによってのみ開く。主に嘆きが無ければ、開く事はおろか、通る者に永遠の苦しみを与える』
「私の嘆き…」
リトは、これまでの人生を振り返る。
「嘆きなのか、わからない…でも、行くしかないです」
リトは、再度、歩みを始める。
『ならば、止めはせん。主の強さ見せて貰うぞ』
「あなたは、誰なのですか?」
『ワシか…クフの世話係じゃ』
「クフ王の?」
『如何にも。そして、この門を見届ける番人じゃ』
男は、門を軽く叩く。
「見届ける…私を待っていたという事ですか?」
『さぁな。ただ、この門を通るという事は、神に合う資格があるという事かもな…さぁ、通ってみるが良い』
男は、門を指差す。リトは、門を、じっと見詰めて、ゆっくりと頷く。
「番人様、ありがとうございます」リトは、歩き出す。そして、扉に手をかざす。
「…。神よ、聞いてください。私には、この終末が、何故、起きたのか理解が出来ません。人間も人も…同じ様に地上に身を置く事は、出来ないのでしょうか?地上を愛する事は、出来ないのでしょうか?私には、理解出来ません。皆、地上を愛していました。なのに、それ以外を愛する事は、神の定めに反する事なのですか?どうか、答えを教えてください。私達、全ての者に、神の真意を示してください」
『主は、全てを愛すると申すのか?』
男が、哀しい声で問い掛ける。
「はい」
『全てを愛するという事は、許す事だと理解しておるのか?そして、これまでの全ての者の全ての行いを許すと申すのか?』
「…許します」
『ならば、主が愛する男が、奈落の人間に殺されたとしても、許せるのか?』
「え…?」
『どうだ。許せないであろう。これが、人であり人間なのだ。愛するが故に、憎しみも生まれる』
「…。許します。それで世界が救われるなら―きっと…彼は、それを望みますから…私も、同じ事を望みます」
『…無理をしても、心は嘘を付けないぞ』
「嘘なんかではありません。何故なら…彼は、終末なんかで、死ぬ様な存在ではないですから」
リトからオーラが復活して、壁をこじあけだす。
『信頼というヤツか…それも、愛が導くものなのかもしれんな…』
「…人も人間も、同じ地上にいる事を忘れなければ、愛も信頼も、平等に分け与えられると思っています」
『エデンの愛…見事じゃ。終末を止める手段は、ただ一つ!時に選ばれし存在を捧げるのじゃ』
「時に選ばれし存在…誰ですか!?」
『それは、主自身で探すのじゃ』
「…?あなたは、一体、何者なのですか?」
『地上では、神などと呼ばれる事もあるかのぉ』
「それじゃ!?」
嘆きの門が消えていく。
『本当に、我のお告げを聞き届ける存在かを確かめただけじゃ。さぁ、嘆きの門をくぐり、現格へ帰るのじゃ』
男は、嘆きの門を指示す。
「ありがとうございます。私は…戻ります!」
リトは、祈りをして門をくぐる。
『エデンの声が聞こえなくとも感じ取れる者もいたか…まだ、捨てたもんじゃないのぉ…』
「オシリスも片付いたみたいだな」
ダグスが、ようやく、エイシスの元に辿り着く。
「…」
エイシスは、ダグスを見た瞬間に、そのまま倒れる。
「エイシスがここまで…」
ダグスは、エイシスを乗せて消える。