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第6部

〜女王の誤算〜




「さぁて、時も止めらんねぇとなれば、次はどうする?」

マーズは、剣先を時の女王に向ける。


『下等生物がほざくな…』


時の女王は、一気に間合いを詰める。剣と剣がぶつかる。次の瞬間、時の女王の蹴りがマーズの腹を直撃して、壁に激突する。時の女王は、間髪を入れずに、光の矢を放つ。

「にゃろっ!」

マーズは、素早く避けて、反撃する。しかし、時の女王のスピードは、全く寄せ付けない。


『人間の速度で、私に勝てると思うのか…?』


マーズは、それでも剣を振るう。

(確かに届かねぇ…何か良い手はねぇのか…?)


『最初は、手品に驚いたが、これが現実の力の差だ…』


「手品…?…そうかもな…だが、人間が人並の能力を引き出せたら、わかんねぇぜ?」

マーズは、不適の笑みを見せる。


『人とて変わらぬ…神に逆らえる存在などない…』


「なら、やってみっか?」

マーズは、集中する。電気がマーズへと集まる。


『…』


「さぁ、覚悟はいいか…?」

マーズが仕掛ける。そのスピードは、時の女王に匹敵する速さだ。


『!?』


紙一重で避ける時の女王。マーズは、立て続けに攻撃をする。

「攻撃は、最大の防御って言うんだ!」


『なるほど…見えたぞ…どうやら、人でも人間でもない存在の様だな…』


「生憎だが…一応、人間だぜ?」

マーズと時の女王の剣が交差する。時の女王は、口を開ける。その瞬間に、閃光が走る。

「くっ…!」

さすがに、マーズは一瞬、目を閉じる。


『油断は、禁物だったな…』


「くっ…そ…」

マーズの腹には、女王の剣が痛々しく突き刺さっている。剣を伝って滴る血。


『神には逆らえない…』


「神…神…うっせぇぇぇ!!!」

マーズは、叫ぶ。そして、女王の剣を掴み、引き抜こうと試みる。

「てめぇが、神だとしても…この地上に…認めてくれるヤツは…いねぇ!!!」

一気に剣を引き抜く。

「はぁ…はぁ…」

光りの矢が何本も刺さり倒れるユニコーン。その横で倒れているクレス。力尽きて、倒れたヤーヴェ。そして、円陣の中で、ひたすら祈りを捧げるリト。マーズの視界に映る全ての状況―。

「ダガース!いつまで、ババァの力に負けてんだぁ!」

マーズは、ダガースに向けて光の球を投げ付ける。ダガースの尻辺りに当たるが反応はない。


『…無駄な事を…』


「そうとも限りませんわ」

もう1人の女性の声。

「遅過ぎだろ…」

マーズは、声の主に向かって、力の無い野次を飛ばす。

「マーズさん。随分と派手にやられてますわね?」

入り口に立つ女性は、ドルシェだった。

「五分…いや、三分でいい。頼んだぜ?」

マーズは、倒れる。

「あら?将軍とユニコーンさんへの償いは、八分は必要ですわ」

「好きにしてくれ…」

マーズは、倒れたままで放置する。


『何故…下等生物ばかりが、邪魔をする…』


「下等生物?もう、それでも良いですわ。だけど、下等生物は、上等生物のあなた達よりも気高いプライドを持っている事を忘れずに」

ドルシェは、ユニコーンの頭を撫でる。

「ユニちゃん、待たせましたわ。将軍を助けようとして下さったのね。感謝しますわ」

「がるぅぅ…」

虫の息のユニコーンは、それでも、ドルシェの為に好意を見せようとする。ドルシェは、優しく背中を撫でる。そして、将軍の方を向く。

「将軍…。只今、戻りましたですわ。これより、参戦致します」

彼女は立ち上がると、時の女王を睨む。

「さぁ、時の女王さん。全てを終わりにしましょう」

ドルシェは、ランチャー砲と魔弾銃を取り出し、発射させる。しかし、あっさりとかわされる。

「人間の武器は、玩具って所かしら…?」

ドルシェは、ランチャー砲と魔弾銃を、すぐに諦めて、暫魔刀を構える。


『お前ごときに本気はいらない…』


「本気でも、本気にならなくても、私は、あなたを斬りますわ」

ドルシェは、走り出す。


『ふっ…』


時の女王は、ドルシェのスピードの遅さに噴き出す。そして、向かってくるドルシェの後ろを取る。


『な…?』


斬られたのは、時の女王だった。

「早い割には、反応が鈍いですわ」

ドルシェは、怯んだ隙を逃さない。時の女王の腕に、二つの傷が入る。


『おのれ…』


時の女王は、フルスピードでドルシェの後ろに付く。しかし―


『ぎゃーっ!!!』


時の女王の額に傷がつく。

「早いだけが取り柄ならば、下等な人間でも可能ですわ」

ドルシェの姿が時の女王の視界から消える。


『―!』


背中から斬られた痛みが走る。

「上等生物の方が、まさか、見えなかったなんて事ないですわよね?」

ドルシェはジャンプして、ヤーヴェの所へと降り立つ。

「あなたが太陽の力ですわね?エイシスさんという方から、伝言がありますわ。神格界への円陣を燃やせ―ですわ」

「…な…に…?」

ヤーヴェは、首だけをドルシェに向ける。

「太陽の力なくして、太陽の意思は届かない―始まりを始めるならば、やってみては如何かしら?」

ドルシェは、すぐに、その場を離れる。そして、時の女王に攻撃をする。今度は、ドルシェの攻撃を止める女王。


『お前も、あの男と同じ境遇か…?』


「あの男?失礼ですわ!レディに対して、男と同じ扱いは許しませんわ!」

ドルシェは、時の女王の目の前で、宙返りをして、再度、攻撃をする。


バキッー!


時の女王の剣が折れる。


『神の剣が―!?』


動揺を隠せない女王を尻目に、ドルシェは、ダガースの所へと寄る。

「ダガースさん。エイシスさんより、忘れ物を預かって来ましたから、お返ししますわ」

動かないダガースに、手を添える。一瞬、うっすらと淡い光りが見えて消える。

「俺を起こしたのは誰だ…?」

ダガースの体の奥から聞こえる声。

「エデンのエイシスさんですわ」

「…古の盟約を果たす時か…良かろう!」

ダガースの体が金色に輝き出す。


『一体…お前は何者だ…?』


「あなた方が大嫌いな下等生物ですわ」

ドルシェは、あくまでも皮肉を忘れない。

「久し振りだな。時の女王」

そこにいるのは、ペガサスの体を持ち、二つの竜の頭を持つ生物が立っていた。


『まさか…ダグス…しかし、滅ぼしたはず…』


時の女王は、知っている様だ。

「お前らに、滅ぼされたんじゃねぇ。エデンの声を聞いたから、滅んだふりをしてやったんだ」


『エデンの声…』


「こまけぇ話は、忘れた。だが、お前が間違ったっていう事だけは覚えてるぜ?」

ダガースは、時の女王に飛び掛かる。


『―!』


何が何だかわからない間に、壁に激突する女王。

「悪いが、手加減してるんだがな」

ダガースの羽根が、優雅に動く。

「ダガースさん、凄いですわ!普段の天然ぶりからは、想像出来ませんですわ」

「ドルシェにだけは、言われたくねぇ…」


『何故だ…神が、下等生物に劣るのか…有り得ない!』


女王のオーラが爆発する。

「どうやら、お怒りみたいだな。ドルシェ、勝てるのか?」

「…ダガースさんは?」

「残念だが、ダグスとしては、盟約を果たして終わりだ。ダガースは、勝てねぇ」

「盟約って何ですの?」

「これだ」

ダガースは、巨大な炎を二つの口から吐き出す。そして、ヤーヴェを直撃する。

「どういう事ですの!?」

さすがのドルシェも驚く。

「俺は、雷を好むが、本質は炎。ヤーヴェとは、炎の盟約を交わしている」

「あ…」

ヤーヴェが起き上がる。

「助かった。礼を言う。」

先程の瀕死の状態からは想像が出来ない位に、何事も無かったかの様だ。

「リト」

ヤーヴェは、優しく肩に手をおく。リトは、静かに目を開けて、ゆっくりと振り向く。

「お兄様…声が聞こえるのに…道が…道が見えない…どうしたら良いのですか…?」

リトは、泣きそうな顔をする。

「リト。私を…いや、私達を信じるか?」

ヤーヴェのまなざしは、リトを真直ぐ見詰める。




〜終末の盟約〜




うなる大地。荒れ狂う空。建物は、大地の怒りの前に崩壊した。

「ここも、もうダメか…?」

ソルジャーは、通信室で煙草を吹かす。所狭しと並ぶ機械は、ショートして爆発を始める。

「通信士も楽じゃないねぇ」

消火器を持ち出し、消火を始める。

「こりゃ…全然、ダメだ」

ソルジャーは、消火器を放り投げて、パソコンの前に座る。


『友よ。明日の空の下で会おう』


送信をしようとした瞬間―大爆発が襲う。


「外は、どうなっているんだ?」

「神よ!」

「ママァーっ!」

度重なる大きな地震は、核シェルターを簡単に揺らし、恐怖を煽る。その度に、人々の悲鳴があがる。

「大統領。他のシェルターとの交信が途絶えました。恐らく、通信塔の故障かと…」

「目と耳が絶たれたか。負傷者がいないか、すぐに調べるんだ」

「はっ!」

「…一体、どうなるんだ…」

ゼビーは、暗闇の中で呟いた。


「さて。盟約は果たしたし、俺は冥界へ帰るぜ」

ダガースが光り出す。

「まぁ?約束を律義に守るんですわね」

「まぁな。この事態を止めらんねぇなら、この先も一緒だ。だから、俺達の力ではなく、自分達の力で何とかするんだな」

「なるほどですわ。ただ、一つだけ教えて欲しいですわ」

「時の女王は、時を支配しただけだ。元々、時は自由であり、全てに平等だった」

「話が早くて、助かりますわ」

「お節介ついでに、一つだけ手を貸すぜ」

ダガースが時の女王の元へ到達する。

「時の女王よ。悪いな」

ダガースは、女王に向かって火を吐く。


『ぎゃーっ!』


女王の羽根が、片方、燃えてなくなる。

「これで、時を止める事は出来ねぇ。まぁ、ドルシェとマーズは、あんまり関係ねぇみたいだけど、一応…な?」


『おのれ…!』


時の女王は、光の矢を放つ。

「時の女王よ。冥界に来たら、いくらでも相手してやる。だが、俺とエイシスの二人が相手だがな」

ダグスは、光の矢を全て、炎で消し去る。


『エイシス…』


「やはり、ダガースさんは、エイシスさんと知り合いだったのですね」

「まぁな。そんじゃ、行くか。…未来を人間の手で掴めよ」

淡い光りと共に、ダグスの姿が消える。そして、スフィンクスのダガースがいる。

「という事で、ダガースだ」

「ホントですわ。ヤーヴェさん!こっちは、私達に任せて、そちらでやるべき事を、お願いしますわ!」


「信用出来るか…?」

「信じます。少しの可能性でもあるならば、全てをかけます」

リトの目に、倒れるマーズが映る。

(マーズ…私も頑張るから、起きて…!)


『下等生物達…許しません…』


光の矢が、一気にヤーヴェとリトを目指す。

「ダガースさん!」

「おう!」

ダガースとドルシェは、二人の前に移動して、光の矢を全て、払いのける。


『おのれ…消えてなくなれっ…』


女王は、光の球体を放つ。

「その手は、通用しねぇって、いってんだろ?」

光の球体が、収縮していく。

「マーズさん、おはようですわ」

「寝てた訳じゃねぇ。傷を塞いでたんだよ」

「マーズ!てめぇ、呑気に寝てやがったのか!?」

「ドルシェ、その口塞げ」

「あら?ダガースさんのおかげで、今生きてるのですわ」

「ちっ。グルかよ…」

マーズは、頭を掻きながら、溜め息を一つ吐く。

「上等生物さんが、お怒りですわ」

「上等生物って何だ?」

「私達が下等生物だから、立派な上等生物って事ですわ」


『いい加減にしろーっっ!!!』


時の女王の声が変わる。

「最早、性別不明。って事で、手加減しねぇぜ?」

マーズは、腕を広げる。周りの空気が震え始める。

「私達は、援護にまわりますわ」

ドルシェは、女王との間合いを詰めて、暫魔刀を振るう。


『そんな剣、へし折ってやる!』


「無理ですわ。上等生物さん?」

ドルシェの剣は、女王の左腕を切り落とす。


『利かぬわぁぁ!』


切れた腕が、再生する。

「気持ち悪過ぎだろ!」

ダガースは、後ろから、再生した腕を食いちぎる。


『おのれぇ!』


「よそ見は、いけませんわ」


『これでも喰らえ!』


女王の口が開き、閃光が走る。

「うぉ!?」


『な…んと!?』


「上等生物さんが、姑息な手段を使っては、示しがつきませんわ」

閃光で不意を付いた一瞬の攻撃を、ドルシェは、しっかりと受け止めていた。

「俺の所だったら、ヤバかった…( ̄ェ ̄;)」

「いっくぞぉ!」

マーズの声が響き渡り、辺りに電磁波の波が漂い始める。



「リト行くぞ!」

「はい!」

ヤーヴェは、炎の質量を増やしていく。

「マーズ!行ってくるわ!」

「リトちゃん!頑張ってこいよ!」

マーズは、ウィンクを送る。そして、マーズとヤーヴェは、ほぼ同時に力を注ぎ込む。

マーズの放つ風に乗った電磁波は、うねりながら巨大な砲弾へと変わる。時の女王は、避けようとするが、間に合わない。


『なん…だ…!この…ちか…ら…!』


時の女王の身体が、千切れていく。


「はっ!!」

ヤーヴェは、円陣に向かって、炎を放出する。円陣に、一気に火が付く。

「リト!踏ん張れ!」

ヤーヴェは、炎を送りながら、応援をする。

「お兄様…行ってきます!」

円陣が光りながら燃える。リトの身体は、円陣の中で、間接照明に照らされた様に光る。

「頼んだぞ…リト…!」

ヤーヴェの体から、炎が溢れ出す。余りに暴発したエネルギーの為か、ヤーヴェの本体が絶え切れない様だ。

「後、少し…」

リトの体が、薄れていく。ヤーヴェは、いよいよ、体中に炎が廻る。

「これが…最後だぁぁぁ!」

ヤーヴェは、渾身の力を振り絞る。業火を円陣に投げ付ける。リトの姿が、消えていく。

「頼んだぞ…我が妹よ…」

ヤーヴェは、炎と共に焼失する。


「くそババァ!消えやがれ!」

マーズの放つ電磁波は、時の女王の周りの空気を飲み込む。


『空間が…切れた…?』


「喰らえ!!!」

マーズは、一瞬、気を吐き出す。すると、時の女王の周りで、電磁波がショートして、爆発を起こす。

「ドルシェ!ダガース!」

ドルシェは、両手を時の女王に向けて瞳を閉じる。ダガースは、宙に舞い、口から炎を吐く。更に爆発を起こす。

「今度こそ、終わりですわ」

開いた瞳は、紅く染まっている。両手から発せられる真っ赤な球体は、爆発する電磁波と炎を飲み込んで、勢いを増していく。


『こんな物で終わると思うなぁぁぁぁ!』


時の女王の気力が、一気に上がる。

「無駄な努力だぜ?」

マーズは、剣を取り出す。


『その剣は…!?』


透き通り輝く剣。天使が神に送ったとされる伝説の剣―

「出しただけだぁ」


『!?』


時の女王を襲う、大きな衝撃。ドルシェが放った球体が、女王に食い込んでいく。


『な…なんと…!』


女王も球体に飲まれ始める。

「確か、あなたの仲間の上等生物さんが、似た様な芸を見せていましたわ」

「相当、下等生物って言われた事に恨み持ってんな…(-д-;)」

ダガースは、呟く。

「あら?そんな事ありませんわ。上等生物さんの芸が使える下等生物がいる事を教えてあげただけですわ」

「はいはい…」


『そこまでだ―』


時の女王ではない男の声。

「また新手かよ?」

マーズは、周りに気を配る。

「マーズ!後ろだ!」

マーズは、反射的に横に飛び込む。顔の横を何かが通る。

「また、上等生物かよ!?」

視界に入るのは、人間と変わらない姿をしている。


『我は、人間。奈落の底で生きてきた』


男は、時の女王の元へと向かう。


『待たせたな…』


『アレン…』


アレンは、時の女王を飲み込んでいく球体を握り潰す。

「ワイルドな方ですわ」

「ジョーク言ってる場合かよ…かなり、ヤバいんじゃね?」

ダガースは、アレンをじっと見る。


『神の剣を持つ男よ。我と戦うという事は、地獄に落ちるという事になるが?』


「てめぇは、何者だ?」


『応える必要はない』


アレンの目の色が、青く光る。迸る衝撃波。

「うぉ!?」

2人と1匹は、吹き飛ぶ。

「なんつぅ力だよ…!」

マーズとドルシェは、壁に激突する寸前で止まる。

「親玉かしら?」

「あの顔は、間違いなく親玉だろ」

ダガースは、壁に激突するが、すぐに構える。


『やっと、戻れた。終末は、失敗なのか?』

『下等生物の反乱で、乱れている…』

『なら、始末するとしよう』


アレンは、三人の方を向く。目が合ったのは、ドルシェの様だ。


『女か…悪く思うな』


アレンが手をかざすと、ドルシェが吹き飛ぶ。

「―!?」

今度は、壁に激突する。

「ドルシェ!」

近くにいたダガースが、駆け寄る。しかし、ダガースも弾き飛ばされる。

「どうなってんだぁ!?」

天井に激突して、落ちていくダガース。

(気功系の力か?)

マーズは、慎重に分析する。しかし、何が起きているのか理解出来ない。アレンが、マーズの方に振り向く。

「はっ!」

マーズは、先制攻撃を仕掛ける。アレンの周りに、水の柱が沸き立つ。そして、一気にアレンに襲いかかる。


『ふん…』


アレンは、直撃しても動じない。

「ついでに貰っておけ!」

マーズは、神の剣を振るう。


『ほぉ?』


アレンは、剣を腕で受け止める。

「マジかよ!?」

傷一つ付けれない事に、驚くマーズ。


『無礼の数々…許しません…』

時の女王は、マーズが怯んだスキを見逃さなかった。無数の光の矢を放つ。

「近過ぎだろ!?」

マーズは、避け切れない。しかし、炎が目の前を通過して、光の矢を飲み込む。

「チームワークは基本だな」

ダガースは、立て続けに炎をアレンに向けて吐く。アレンは、片手で炎を受け止めると、ドルシェに向かって、弾き返す。

「―!?」

間一髪で避けるドルシェ。

「ダガースさん!危ないですわ!」

「俺じゃねぇだろ…」


『虫けら共よ。悪あがきはよせ』


「最後は、虫けらかよ」

マーズは、地面に手を添える。


『そうはいきません…』


時の女王が、マーズの前に立ちはだかる。

「ちっ!」

マーズは、その場から離れる。

「ダガース!時間を稼げ!」

「犬使いが荒いぜ…!」

ダガースは、時の女王の前に移動する。


『神獣よ…速さだけは、認めましょう…』


時の女王は、光の矢を放つ。交わすダガース。

「時間どころか、隙がねぇかも…」

ダガースは、焦りを覚える。


『そろそろ終わりにしよう』


アレンは、ドルシェの方を向く。

「私が、最初の獲物かしら?」

ドルシェは、暫魔刀を構える。


『獲物?勘違いするな。お前ら虫けらは、踏み潰すだけだ』


「その割には、私達の邪魔ばかりしますわね?」


『その減らず口も言えなくなる』


気が付けば、アレンはドルシェの目の前に到達する。拳が振り上げられる。ドルシェは、反射的に横に避ける。アレンの拳は、床を破壊する。飛び散った破片が、ドルシェの頬に傷を付けた。

「あ…」

「ヤバい…」

マーズとダガースは、その光景を見て、顔色が変わる。

「レディを傷物にしたわね…」

ドルシェの口調が変わる。


『安心しろ。死にいくだけの存在だ』


「…私は、何処にも行くつもりはないわ」

ドルシェの瞳が、紅く染まっていく。

「マーズ。どうする?」

「悪いのは奴等だし、ここは、シカトで―うわっ!」

マーズの前に現われるドルシェ。

「マーズ、剣を借りるわよ?」

ドルシェは、マーズの神の剣を奪う。そして、一気にアレンの元に向かう。

「俺の武器が…」

「しょうがねぇ。諦めろ」

ダガースは、マーズを慰める。


『あなた達は、私が葬り去ってあげましょう』


時の女王は、壁にかかっていた大きな杖を取り出す。

「なぁ…俺って、脇役的な扱いに感じるのは気のせいか?」

「あ?…ダガース。まるで、主人公みたいな言い方してるぜ?ちゃんと、言葉の勉強した方がいいぞ」

「喧嘩買うか?」

「ババァに今までの返品が先だ」

「そうだったな」

1人と一匹は、構える。



『虫けらが、何をしても変わらないぞ』


「…」

ドルシェは、何も言わずに切り掛かる。暫魔刀が、紫色に輝きだす。アレンは、腕で受け止める。


『やはり、無駄だったな』


「それは、どうかしら?」

次第に、暫魔刀が食い込み始める。


『ほぉ…?ただの虫けらではなかったか。だが、所詮、虫けらだ』


アレンは、腕を横に振って、ドルシェごと吹き飛ばす。ドルシェは、飛ばされながら、体制を立て直して、着地する。


『…』


「あんまり、虫けらをナメない方がいいわよ?」

暫魔刀を横一文字に振ると、紫色の閃光が、アレンに向かって迸る。


『―!』


アレンは、ジャンプをして避ける。その頭上の空中で、剣を構えて待ち伏せていたドルシェ。

「本気出さないと、痛い目見るわよ?」

再度、紫色の閃光が走る。


『くっ!』


アレンは、咄嗟に腕をクロスにして、閃光を受け止める。

「まだよ」

ドルシェは、もう一つの剣―神の剣を振るう。見えない何かが、アレンに激突する。


『この技…エイシスか…?』


「残念ながら、ドルシェよ」ドルシェとアレンは、落下しながら、お互い構える。

「本気を出す気になったかしら?」

暫魔刀が、紫色から青色へと変化していく。


『…良かろう。だが、一瞬で終わるぞ』


アレンの体が、赤味を帯びていく。


『まずは、見えない恐怖を与えよう』


アレンが、視界から消える。

「―!」

ドルシェは、焦る事なく、目を閉じる。そして、目を開くと同時に、暫魔刀を横に突き出す。


『なっ!』


ドルシェの剣は、見事にアレンの左肩に突き刺さっている。アレンは、堪らずに剣を抜いて、着地する。ドルシェも着地をして、すぐにアレンに攻撃を仕掛ける。

「見えない恐怖を体験したいのね?」

ドルシェの姿が消える。


『馬鹿な…!』


アレンは、横に気配を感じて、すかさず蹴りを入れるが、空を斬る。


『何処だ…』


「ここよ」

ドルシェは、アレンの目の前に現れる。


『ぬっ!?』


アレンは、ドルシェが振り下ろす暫魔刀を受け止めようと、腕で防御する。しかし―


『ぐはっ!?』


アレンが、前に倒れ込む。アレンの足は、膝から下が無くなっている。

「二刀流は、みせかけじゃないわよ?神の剣の切味は、どう?」


『おのれ…許さん!』


「あら?何度目の本気??」


『この宮殿ごと吹き飛ばしてくれるわぁ!!』


「それは無理―」

ドルシェは、暫魔刀をアレンの心臓に突き刺す。そして、神の剣を後頭部に突き刺す。


『甘い…』


アレンは、宙に浮く。

『神に魅入られた武器でも、使う側が虫けらでは、威力は三分の一だな』

アレンは、神の剣と暫魔刀を手に取る。

「…」

ドルシェは、魔弾銃を取り出す。


『無駄だぞ…?』


アレンは、二つの剣をクロスさせる。すると、十字の光が浮かび上がる。


『格の違いを痛感するがいい』


アレンは、浮かび上がる十字の光を放つ。


『なに!?』


光は、ドルシェの方に向かわずに、壁に激突する。

「暫魔刀は、マックスターさんの持ち物。あなたごときが扱える剣ではないわ」

ドルシェは、目を閉じて集中する。開かれた瞳は、深紅から蒼色に変わっている。


『ならば、力でねじ伏せる!』


アレンは、剣を折ろうとする。

「私に隙を見せるのは、命取りよ?」

ドルシェは、魔弾銃を撃つ。弾は、蒼白い発光体となり、アレンの腹を貫通する。


『どういう事だ!?』


「説明する必要は無いわ」

ドルシェは、立て続けに攻撃する。右肩、左肩を捉える。


『おのれぇ!!!』


アレンの足が生えて、床に降り立つ。


『何故、私と対等に渡り合える…』


アレンは、予期せぬ出来事に混乱する。そして、時の女王の方を向く。


「ドルシェのヤツ、マジでつえぇのな。優勢じゃん」

ダガースは、戦況を分析する。

「ここまではな。だが、嫌な予感がするぜ…?」

「確かに。さっさと終わらせた方がいいな」

2人は、一気に走り出す。


『アレン…』


時の女王は、アレンと目が合う。アレンは、無言のまま頷く。2人は、抱き合う。

「…?」

ドルシェは、抱き合う2人に向かって、魔弾銃を撃つ。しかし、見えない壁に弾かれる。

「マーズさん!皆を連れて、逃げましょう!」

ドルシェも何かわからないが、得体の知れない嫌悪感を抱く。

「ダガース!」

マーズとダガースは、素早くクレスとユニコーンを救出する。マーズ達は、一塊になり姿が消える。




「皆、無事か?」

マーズは、周りを見渡す。

「何とか…な」

ダガースは、犬に姿が戻っている。

「酷いですわ…」

普通に歩ける場所も無い位に崩壊する地上は、正に終わりを告げようとしている。

「よしっ。んじゃ、お前らは、将軍を頼んだぞ」

マーズは、立ち上がり腕を回す。

「もしかして、戻るのかしら?」

ドルシェは、マーズに問いただす。

「リトがいるからな」

マーズは、そう言って消える。

「相変わらず、女が絡むと早ぇな…」

ダガースは、時の神殿を眺めながら言う。

「…って、ドルシェも行ったのかよ!?」

ダガースは、辺りを見渡すが、ドルシェの姿は見つけられなかった。


「何だ、こりゃ!?」

先程の戦闘があった部屋に散らばる釘。

「どうやら、違う部屋に迷ったみたいですわね」

「ぬぉっ!?ドルシェ!?何で居るんだよ!?」

突然する声の主に驚くマーズ。

「何でって、付いてきたから居るのですわ」

「いや…そうじゃなくってぇ…」

マーズは、ドルシェのノリに調子が狂う。

「細かい事は、後ですわ。それよりも、ここが何処なのかを調べるのが先ですわ」

ドルシェは、窓の方へと向かう。窓には、しっかりと釘が打ち込んである。そして、床を覗き込む。

「この部屋って、処刑とかをする部屋じゃないかしら?」

ドルシェは、床に染み付いた跡を見て、推測する。

「確かにそうかもな。だが、何故、この部屋に…?」

「マーズさんが、間違えたせいじゃないかしら?」

「そこかよ…ま、早く出ようぜ」

マーズは、ドアへと向かう。

「あれ?ドアノブがねぇ」

マーズは、ドアの前で立ちつくす。

「処刑部屋ですもの」

「お…なるほど。んじゃ―」

マーズは、ドアを蹴破る。

「派手ですわね」

「ワイルドと言ってくれ」

「ワイルドですわね」

「……」

マーズの顔は、引きつる。どうやら、ドルシェのノリは苦手な様だ。

「そういやぁ、ドルシェとチーム組むの始めてだよな?」

マーズは、細心の注意を払いながら、廊下に出る。

「そうですわね。私は、基本的に護衛チームにいましたから。表ですわ」

ドルシェは、堂々と廊下に出る。

「…。俺よりもお前の方が、ワイルドでない?」

「あら?女性は、ワイルドじゃなくて、ダイナミックの方が喜びますわ」

(ホントか?)

マーズは、真剣に考える。


『遅かったな』


ほのぼのムードを壊す心に響く声。アレンだ。

「ちょっと、野暮用でな」

マーズは、そう言うと、炎の球を天井に向かって投げ付ける。


『そのまま消えれば良いものを…』


「あなた達こそ消えるべきでしたわ」

ドルシェは、魔弾銃を放つ。弾は、空気中で何かに衝突して爆発する。

「ドルシェ。気を付けろよ?奴等、さっきと雰囲気が違う」

マーズは、構える。

「異端の者!」

聞き覚えのあるセリフ。

「まさか…カエサル!?」

マーズは、耳を疑う。しかし、目の前にいるのは、間違いなくカエサルであった。

間一髪で、カエサルの剣を避ける。

「時が我々の時間を、戻していたのを知らぬみたいだな」カエサルは、得意になる。

「知らねぇよ。俺が起きた時は、既に、あの状態だったしな。しかもヒイキは汚ねぇ」

マーズは、構える。

(ちっ。武器がねぇ)

マーズは、右手に炎を燃やす。そして、左手には、水が迸る。

「このカエサルを、あそこまで追い詰めたのは、異端の者…貴様が初めてだったぞ」

「異端じゃねぇっつうの」

「マーズさん、知り合いなのですか?」

一気にトーンダウンするマーズ。「あのな…知り合いが、剣で襲ってくるかよ!?」

マーズは、身振り付けて話す。

「それでは、敵なのですね?」

ドルシェは、カエサルに向かって、走り出す。

「女…邪魔するなら死滅のみ…!」

カエサルは、構えてドルシェに向かっていく。次の瞬間―

「残念だけど、あなたの出番は終わりよ」

ドルシェの瞳が紅く染まっている。

手から発せられる真空波は、カエサルの胴体を切り裂く。

「なっ!?」

カエサルは、自分の腹部を見詰める。

「眺めても無駄よ?」

ドルシェは、カエサルの剣を奪うと、頭から切り裂く。

「ば…馬鹿な…」

カエサルは、薄れていく。そして、消え去った。

「つ、強ぇ…しかし、初めて、追い詰められて、次に消されるって事は、脇役だったのか…」

マーズは、ドルシェの手際の良い攻撃に驚嘆するが、カエサルの境遇に同情する。

(ドルシェは、ホントに人間か…?)

「マーズさん、何か言いた気な顔をしていますわ」

いつもの口調に戻るドルシェ。

「何が乗り移ってんだ?」

「神ですわ」

「へっ?」

思い掛けない返答に、思わずマヌケな返事をするマーズ。

「多分だから、わかりませんけど」

ドルシェは、表情一つ変えずに言う。

(冗談だったの…?)

マーズは、呆気に取られる。

『カエサルの馬鹿め。虫けら達よ。死ぬ覚悟は出来たか?』


「優柔不断なもんで、まださっ!」

マーズは、炎と水を両方、解き放つ。


『児戯に等しいわっ!』


何もない所から、現れるアレン―

「あれ?さっきと違くね…?」

そこに居るのは、人間と同じ姿をしたアレンではなく、大きな2本の角とコウモリを彷彿させる羽根、そして、鋭い牙と爪を持つ者がいた。

「悪魔かしら…?」



「あの2人め…めんどくせぇ事だけ押し付けやがって」

ダガースは、愚痴をこぼす。

「しかし、将軍は、どうやったら動くんだ…?」

動かないクレスを眺めながら、呟く。

「がる…」

「なんだ?ドルシェに会いたいのか?もうちょい我慢しろ」

ダガースは、神殿を見詰める。

「おっと―」

断続的に続く地震は、確実に神殿を崩壊へと導く。もはや、地上に安息の場所は無いに等しかった。



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