表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第五部

〜新しい時代の為に〜




「クレス!」

執務室には、気を失ってユニコーンに介抱されているクレスがいた。ゼビーは、予想外の来客に焦って駆け寄る。

「クレス!しっかりするんだ!」

ゼビーは、クレスの頬を数回叩く。

「う…大統領…?」

クレスは、まだ意識がもうろうとしているらしく、状況が読めていない。

「何があった!?」

「はっ…ドルシェ!」

クレスは、あの時の状況を思い出す。

「ユニコーン!ドルシェはどうした!?」

「がるぅ〜」

ユニコーンは、困った顔をする。

「クレス。落ち着くんだ。ドルシェに何かあったのか?」

ゼビーは、クレスの動揺を抑えながら、事態の把握に努めようとする。

「…大統領すみません…ユニコーンにも悪い事をした」

クレスは、冷静さを取り戻す。

「クレス、核は運び終えて、シェルター移動も完成だ。後は、お前の仲間を待つだけだ。ドルシェは無事なのか?」

「目標達成に至るところが、さすが大統領です。ドルシェは、大丈夫だと信じます」

「目標は、まだ達成していない。新しい時代に全ての人間が生き残る事が最終目標だ」

ゼビーの言葉を聞いて、クレスの表情が曇る。

「ならば、大統領…あなたも避難をしてください」

「…私が行く時は、お前達全員が帰ってきた時だ」

ゼビーは、決意を語る。

「なりません。正直、我々の部隊は、既に生き残れる確率は低いです。大統領に何かあったら新しい時代を誰が引っ張るのですか?」

「その時は、新しい時代が、私を望まなかっただけの事だ」

ゼビーの決意は固い。

「ならば――」

クレスは、素早くゼビーの後ろに回りこみ、後頭部を殴打する。崩れ込むゼビー。

「お許し下さい。大統領…」

クレスは、ゼビーを抱えて椅子に座らせる。そして、電話をかける。

「すぐに執務室に来てくれ」

クレスは、ゼビーの迎えを要請する。

「ユニコーン、行き先は、西…いや、『時の神殿』だ。さぁ、行くぞ」

「ガルっ」

クレスは、ユニコーンにまたがる。

ユニコーンは、一瞬にして部屋をあとにする。

終末を生きる者達が、時の神殿――時の女王のもとへと集う…




〜クフ王〜




「クフよ…四大王は瓦解か…」

「私一人で充分だ。だが、エイシスが厄介だな」

「エイシス…懐かしい名前…」

「エイシスが此処に辿り着く前に、ピラミッドを解放する。時の女王よ、時間の解放を急いでくれ」

「…まだ、終末の弾劾が始まっていない…」

「直に始まる。今は、人間が穴を塞いだせいで、進行が緩やかになっただけだ」

「まだわからぬか…人間が穴を塞いだのは偶然ではない…まずは、指令を出している人間を片付けなければ、終末の計画は終わる…」

「指令を出す人間…?わからぬ…」

「私の目には映る…クレスという者が命令を出している人間…」

「今は何処に?」

「西の宮殿に向かうであろう…」

「また西か…」

クフは、西の方角を見つめる。

「人間め…我々の邪魔ばかりしおって…許さん…!」

クフの顔は、怒りに満ちている。

「エイシスが来る…そして、太陽の意思も…」

「太陽の意思…だと?」

クフの表情が怒りから曇る。

「そう…しかし、太陽の意思は、太陽の力が無ければ、意味を成なさない…西よりも太陽の力を探す方が先…」

「くっくっくっ…人間とは、何処までも低脳な連中だな…ハッハッハッ――!!」

クフは、気が狂った様に笑う。

「良かろう。まとめて葬り去ってやるっ!」

クフは、天井を突き破って外に飛び出す。

「太陽の力…何処だ?」

クフは、下界を眺めながらヤーヴェを探す。

「見つけた…」

クフは、急降下する。地上から見える、その姿は、まるで水星の様であった。

「さぁ、今、出してやるぞ?」

クフの姿が、空中で見えなくなる。

一秒もしない間にクフが現れる。腕には、リトの兄、ヤーヴェが抱えられている。ヤーヴェは、意識が無いらしくうなだれていた。

「太陽の力よ…まずは、お前から消えて貰おう」

クフは、地上に降り立つとヤーヴェを地面に放り投げる。

「時間の狭間に捕まるとは、運が良いのか悪いのか…どちらにしても終りだがな」

クフが気を溜め始める。

「ガルぅ〜♪」

そこに現れたのは、クレスを乗せたユニコーンだった。クフの気が散る。

「邪魔だ」

クフは全く動かないが、突然、突風が巻き起こる。

「気を付けろ!ヤツは精霊も操れるみたいだ!」

「ガルッ」

ユニコーンは、クフの後ろに付く。

「ほぉ。だが、遅い」

クフの回し蹴りが、ユニコーンの顔を霞める。クレスは、一瞬のホツレの時間を狙って、ランチャーを発射する。

「甘い」

クフは、超至近弾のランチャー砲の弾を腕で弾く。

「ガルガルッ」

しかし、ユニコーンの蹴りの一撃が炸裂する。顔面に見事に蹴りが入るが、クフは顔色を一つも変えない。


「なかなかの連携だな…何者だ?」

「終末などさせん!」

クレスは、ランチャーを放つ。しかし、簡単に弾かれる。

「終末を知る人間…お前がクレスだな?やはり、神は我等を臨んでいる」

クレス達の目の前で、クフが二人になる。

「分身!?」

「ガルッ!?」

クレス達は、驚きを隠せない。

「私の邪魔をした罪は重いぞ…」

二人のクフが、同時に襲いかかる。

「ガルッ(°д°;;)」

間一髪のところで、ユニコーンは、素早く上へ逃げる。

「ユニコーン!あいつの本体がどっちか分からないか!?」

クレスは、ユニコーンにしがみつきながら叫ぶ。

「ガルぅ〜(>_<)」

頼りない返事のユニコーン。

「こりゃ参ったぞ…」

「まだだ…」

クフは、更に分裂する。

「さぁ?囲まれたぞ?」

周りには、クフの分身が何百人いや、何千人といる。

「いつの間に!?」

尋常じゃない増殖の早さにクレスとユニコーンは固まる。

「一斉攻撃だ」

分身のクフから閃光弾が発射される。

「これまでか…!」

クレスが覚悟を決めた瞬間――

クレス達の周りに、真っ赤な火柱が上がる。炎は、無数の閃光弾を燃やし尽す。

「―――!?」

クフは、突然の障壁の出現に目を見張る。

「まさか…!」

クフは、炎の元を見る。すると、そこには炎を携えたヤーヴェが立っていた。

「時間の狭間に埋もれたのは不運だが、お前が殺す為に脱出させてくれたのは、運が良かった。神は我等を見捨てていない」

「おのれ…太陽の力…!」


クフは、ヤーヴェを睨む。ヤーヴェは、そんなクフに指を差す。

「歴代の『人』の歴史の中で、最も神に近いと言われた王――クフよ。終末は『人』の為に用意された舞台だという事を教えよう」

ヤーヴェの周りの炎は、形を変えて竜に変化する。

「火竜か…面白い!」

クフは、動揺するよりも楽しんでいる。

「喰らえ!太陽の力を!」

火竜が、勢い良く飛び起つ。次々とクフの分身を飲み込む。

「その程度の破壊力では、私は倒せん!」

クフは、呪文を唱える。真っ黒な雨雲が空を覆う。

「空は我々の支配下にあるのを忘れたか!」

クフの腕の一振りで、大雨が降り出す。

「雨ごときで、太陽の炎は消せない!」

ヤーヴェは、更にもう一匹の火竜を放つ。二匹の火竜は、互いに渦を巻きながら昇天していく。やがて、曇を突き抜ける。

「そう来たか」

クフは、空を睨む。空が紅く染まり、雲が蒸発して散り散りになり、消えて行く。その時――

「何――?」

地面が揺れ始める。ヤーヴェは、足をとられて体勢を崩す。揺れは次第に大きくなり、大地震へと変わった。

「ハッハッハッ!終末の始まりだ!!太陽の力もこれまでだな!」

クフは、更に呪文を唱える。地震に因る地割れから、魂の様な物質が、多数、溢れ出す。

「過去に虐げられた『人間』の魂だ!そいつらは『人』を夢見て歩き疲れた、人間すら忘れた魂!」

魂は、ヤーヴェに襲いかかる。ヤーヴェは避けるが、確実に魂に切傷をつけられていく。

(揺れで足場が悪い…!)

揺れは、まだ強くなる。

「これだけで終わると思うな」

クフは、再度、雨雲を集める。

「くそっ!」

ヤーヴェは、炎に身を包む。

「私は負ける訳にはいかない!」

炎の塊となったヤーヴェが、一気に残りのクフの集団に突っ込んでいく。しかし、足場が悪く、集中しきれなかった為に炎に力がない。

「足場の悪さに集中しきれていない様だな」

クフは、ニヤニヤいやらしい笑みを浮かべる。

「リトの兄ちゃん!一旦、降りろ!」

不意に声がする。そこには、マーズがいた。

「お前は…?」

ヤーヴェは、リトを知る男の登場に驚く。

「変な感じがしたから来てみたが、正解だったぜ。とりあえず、話は、コピーを倒してからだ!」

マーズは、揺れる地面にてのひらを添える。

「はぁぁぁぁぁっ!!」

低いうめき声の様な声帯が大きくなるに連れて、激しい揺れが収まり始める。

「二分だ!リトの兄ちゃん!二分で片付けろ!」

マーズは、電気の流れを使って揺れを一時的に止めたのだ。

「恩にきる!」

ヤーヴェは、地上に降り立ち、再度、集中する。先程とは、雲泥の差の炎がヤーヴェを包む。

「俺の力よ!持ち堪えろ…リトの兄ちゃん…頼むぜ…!」

マーズは、極限まで集中を高める。

「何者だ?」

クフは、終末の始まりを抑え込むマーズに注目する。

「よそ見は、命取りになるぞ?」

「ぬっ!?」

クフの目の前に、業火を携えたヤーヴェが到達する。ヤーヴェは、そのままクフに突っ込む。

「ぐはっ!!!」

クフは、炎に撒かれながら、地上に落下していく。分身は、薄れ消えていく。

「桁違いだ…」

戦闘の光景を眺めていたクレスは呟く。

「やったか?」

マーズは、堕ちていくクフを眺めながら倒れ込む。

「クフ…」

ヤーヴェは、堕ちていくクフを追い掛け始めた。

(あっさり終わり過ぎだ…)

地震が、また始まる。

「むっ!?いかん!ユニコーン!マーズを助けるぞ!」

至る所で、地割れが始まる。倒れたマーズの付近も、同様に亀裂が生じる。間一髪で、マーズを拾いあげる。

「マーズ!しっかりし…寝てるだけか」

体力と精神力を使いきったマーズは、仮眠モードのようだ。

「許せん…許さん…許さんぞぉーっ!!!!!」

炎の中で、クフの怒りが頂点に達する。まとわりつく炎は、一瞬にして消えて、体勢を立て直す。

「やはり…!」

ヤーヴェは、すかさずに炎を投げつける。しかし、握り潰される。

「下等な生物ども!消えろっ!!!」

クフの体から、無数の光の矢が凄まじい勢いで乱射される。

「ガルっ(°д°;;)」

ユニコーンは、光の矢が届かない所に避難する。ヤーヴェは、華麗に避けながら、崩れる大地に着地する。

「太陽の力よ!我の一撃を喰らうがいい!」

クフは、杖を背中から取り出す。そして、呪文を唱える。

「あの呪文は――!」

ヤーヴェは、炎の壁を作り上げる。

「そんなもので、防げると思うかぁーっ!」

杖から放たれる稲妻の様な閃光は、炎を蹴散らしてヤーヴェを呑み込む。

「おぉぉ――――っ!!」

ヤーヴェの体が、段々と溶けていく。

「十字を掲げた三千人の人間を消滅させた『神の一撃』だぁ!」

クフは、更に閃光を強める。

「負けん!私は負けない!」

ヤーヴェは、炎を必死に作り出す。しかし、炎は、すぐに掻き消される。

「隙は作らん!」

クフは、左手を空に掲げる。雨雲は、真っ黒な雲に変わり、稲妻を引き起こす。

「天の怒り!」

稲妻は、一点に集約されて、一気にヤーヴェの元へ落ちる。

「ぐふっ…!」

ヤーヴェは、閃光と稲妻の二重攻撃に消滅する。

「な…なんて事だ…!」

クレスは、目の前で起きてる出来事に息を飲む。

「まだだ。魂ごと消し去る!」

クフは、更に呪文を唱える。すると、闇の球体が現れる。

「魂をも呑み込む暗黒の入り口だ…!」

クフは、闇の球体を放つ。球体は、自ら放出した稲妻と閃光を飲み込みながら、地上に激突する。いや、地上すら飲み込みながら落下していく。

「まるで、ブラックホールだ…」

「ガルぅ…」

「ぐがぁーっ…スピィー…」

「…」

大きな穴の空いた地上を優雅に見つめるクフ。

「次はお前達だ」

クフは、クレス達を睨みあげる。


「術者を倒すなら、術の盟約者を倒さなければ意味が無いぞ?」


「!?」

穴から這い出て来る者。クフは、凝視する。

「エイシス…!」

光すら飲み込む穴から輝く黄金の光を携えたエイシスが、ゆっくりと現れる。

「奈落の女神…エイシス―!!」

クフの顔に怒りと憎しみが溢れる。

「『人』である事すら忘れた悪魔に奈落と言われるのは心外だな」

「エイシス!」

クレスは、黄金を纏ったエイシスの登場に驚く。(エイシスがいるという事は、ドルシェは無事という事か…?)

「人間よ!太陽の力を時の元へ連れて行くのだ!」

エイシスは、ヤーヴェをクレスに投げつける。

「!?」

クレスは、その行動にも驚くが、何よりも男を1人、空中に投げ付けるエイシスの力に驚いた。

「何てヤツだ…」

ヤーヴェは、見事にクレスの所に届く。

「何をしても無駄だ。どうせ、お前らは此処で死ぬ運命にある」

クフが、クレスに向かって跳ぶ。

「まずは、お前達だ」

クフは、クレス達の前に現れ手をかざす。そこから閃光弾が発射された。

「ガルッ」

ユニコーンは、一瞬でエイシスの後ろに辿り着いて隠れる。

「こざかしいヤツらだ」

クフは、クレス一行を睨む。

「早く行け。私は、『人』との決着を付けねばならない」

エイシスは、背中の両刃の槍を取り出す。

「エイシス、ドルシェはどうした?」

「ドルシェは、無事だ。安心するがいい」

「…わかった。お前を信じよう。ユニコーン、行くぞ」

「クレス―」

エイシスが、飛び立とうとするクレス達を呼び止める。

「?」

「その寝ている男は、精霊使いなのか?」

「いや。人造人間だ」

「…そうか」

エイシスは、一言だけ呟いて視線をクフへと移す。

「エイシスよ。再び、お前と対峙出来るとは、思っていなかったぞ」

クフの表情は楽しそうだ。

「私も、あの時、完全に葬っておけば良かったと後悔していた所だ」

「我々を裏切ってまで、エデンを守ったのは何故だ?」

「…エデンと太陽の声が聞こえた」

「エデンと太陽の声だと…?」

クフの表情が曇る。

「人は、導くべき道を誤った。時を刻む歴史などエデンは望んでいなかった。エデンは、エデンの意思と繋がる者達との歴史だけを望んでいたのだ」

「意味の分からぬ事を…」

「人であり続けるお前には理解など期待していない」

「ならば、人であるお前は理解したのか?」

「理解したから、お前達の前にいる」

「ふん…ならば、我が力で、その道理をねじ伏せるとしよう」

クフは、腰にかけている剣を抜く。

「エイシスよ。『闇の剣』を知っているか?」

「…」

エイシスは、何も答えず剣と槍を構える。

「闇とは、光の当たらない部分に生息する。つまり、光の横に必ずいるという事だ」

「―!?」

エイシスの後ろに現われたクフは、容赦なく切り掛かる。間一髪でクフの剣を受け止めるエイシス。すかさずに槍を突き刺すが消える。

「もう一つ説明をすると、闇とは、光を当てなければ、そこが闇になる」

またもや、後ろを取られたエイシスは、前に飛び込んで避難する。

「なるほど…」

エイシスの視線の先には、クフの攻撃範囲にいるクレス達がいた。

「闘いとは、常に先の先を読む事。これも、時を刻む歴史だからこそ身に着いた芸当だ」

クフが剣を降る。クレス達は、あまりの早い動きに身動き一つ取れない。

「なに!?」

クレス達とクフの間に、真っ赤な炎の壁が出現する。

「太陽の力か!」

クフは、ヤーヴェを睨むが、ヤーヴェに意識は無いようだ。

「太陽の力…人間よ!早く宮殿に向かえ!」

エイシスは、クレス達を急がせる為に、激を飛ばす。

「行くぞ!」

呼応する様にクレスが叫ぶ。

「ガガガガルルルル―っ!」

四人の男を乗せている為か、極端にスピードが遅い。

「そんな状態で、逃げ切れるとでも思っているのか!」

クフが立ちはだかる。

「お前の相手は、私のはずだが」

エイシスが、クフに切り掛かるが、クフは、紙一重で交わして反撃をする。エイシスは、左手の剣で受け止める。

「エイシスよ。死に急ぐ必要もあるまい」

クフは、余裕の笑みを見せる。

「死に急ぐ?勘違いするな。私は、お前に決められた人生なんて真っ平だ」

「お前がどんなに強くても、闇の私に勝てない事を知る事になる」


「ならば、お前にも、本当の光を見せてやろう」

エイシスの剣が、光り出す。

「光りの太刀か。無駄な事を」

クフが構えた剣が、漆黒の色に変わる。

「無駄かどうかは、後で聞こう!」

エイシスが剣を振るうと、眩い閃光弾が走る。

「ハァァァァァ―っ!!」

クフは、剣をかざす。

「―!?」

エイシスは、目の前で起きた出来事に驚嘆する。クフは、閃光弾をすり抜けていた。

「言ったはずだ。光があれば、そこに闇も存在する、と」

クフの表情には、ゆとりさえ感じる。

「…なるほど。その剣は、闇を創る媒体という事か」

エイシスの剣の光が収まっていく。

「その気になれば、この剣の闇で、エデンを飲み込む事も可能だぞ?」

「…」

エイシスは、クレス達を見上げる。どうやら、無事に最上階の窓付近に着きそうだ。


「ユニコーン!あと少しだ!」

「ガルゥ…!」

クレスは、ユニコーンを励ます。

(ダガース達は、着いたのか…?)

クレスは、他の仲間の安否を気遣いながらも、宮殿の最上階を目指す。




〜時〜




「ここが時の間か…」

ダガースは、ドアを突き破る。目の前に広がる惨劇。

「リトちゃん!入っちゃダメだ!!!」

ダガースは、見えないリトを制止する。

「ダガース。中で何が起きてても、私は行かなくちゃいけない。皆がそれぞれ出来る事を精一杯やってくれたから、私は此処にいるんだもん」

「リトちゃ―え?」

リトの身体が現れてくる。その身体からは、光とは違うオーラが、リトを包んでいる。


リトは、ゆっくりと歩き出す。眼前に広がる惨劇は、部屋の静けさを更に、不気味に醸し出す。

「ヤバい気がするぜ…」

ダガースは、後を付いて行く。

「法王様…只今、参りました。遅くなり申し訳ございません」

血の海に横たわる、法王の前で、リトは挨拶をする。

「太陽…の意思…」

徐に部屋の隅から聞こえる消えそうな声。振り向く先には、教皇が今尚、気力を振り絞っている。

「あなたは、教皇!?」

リトは、教皇の元へと駆け寄る。

「早…く…円陣に…むか…え…神格…」

「わかりました。でも、その前に―」

リトは、教皇を引きずり出す。ダガースも救護を手伝う。


『太陽の意思…』


心に直接、響く声。

「出たか」

ダガースは、周りを見渡して注視する。リトは、無視をして、教皇の救出に全力を尽くしている。


『あがくな…その者も、すぐに魂の存在になる…お前達と共に…』


辺りの空気が震え出す。

「くそっ!」

ダガースは、盟約の解放―スフィンクスへと変わる。そして、大きな水晶に向かって、炎を吐く。


『神獣とは…』


炎にまみれた水晶が光り出す。

「時の女王だか、何だか知らねぇけど、邪魔するんじゃねぇ!」

ダガースは、間髪を入れずに炎を吐く。しかし、炎の中で水晶は、強い光りを放つ。


『たとえ神獣でも、私を止める事は叶いません…』


声が聞こえなくなると同時に、ダガースの動きが止まる。

「ダガース!?」

ダガースの異変に、気が付くリト。


『神獣の時間を止めました…最早、ただの飾りと変わりません…』


水晶より、光りの矢が飛び出す。矢は、ダガースの喉元に突き刺さる。

「―!!ダガース!!!…何んで…何故、こんな事を平然と出来るの!!?」


リトは、怒りを抑え切れずに叫ぶ。


『エデンは、元々、弱肉強食の連鎖に因って、成り立つ世界…人が人間より強い証拠です…』


「確かに、世界の秩序はそうかもしれない!でも、彼等は、与えられた環境で必要なだけの事しか考えていないわ!あなた達のしている事は、ただの欲望を満たす為の殺戮よ!」


『太陽を統べる者と変わらぬ心……ムシズが走るわぁっ!!!』


罵声に変わる、女王の声に、リトは、一瞬、動きが止まるが、すぐに水晶を睨み付ける。

「全ての者の願いは、争いの無い儚くも波風のたたない平凡な幸せよ!それを壊すというならば、私は最後まで戦うわっ!」

リトは、教皇を引っ張り始める。

「太陽…意思…円陣に…」

教皇は、うわ言の様に、同じ言葉を繰り返す。

「教皇様。今は、目の前にある命を助けます」

リトは、ただ、ひたすら引っ張る。


『あがくな…下等生物…』


次の瞬間―水晶から、眩い光の矢が何本も飛び出す。しかし、リトは、怯まずに救出を試みる。


『人間とは、愚かな生物…』


光りの矢が、教皇に突き刺さる。

「ぐふっ―!」

教皇の口から、大量の血が流れ出す。

「教皇!?」

リトは、すぐに教皇の体を抱き寄せる。

「カインの弟子よ…己の使命を果たせ…それが…世界を…救い…終末…止める…希望…」

教皇は、床に身を預ける。

「教皇様!!」

リトは、教皇を揺さぶるが反応はない。

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

リトの叫びが、部屋に響き渡る。


『次は、太陽の意思…』


また、光りの矢が無数に飛び交う。リトは、うつむいたままで、呟く。

「…私は…私は負けない…」

リトは、立ち上がる。そして、ダガースの方へと歩き出す。


『!?』


光りの矢は、まるでリトを避ける様に、当たらない。

「ダガース。ごめんね。皆みたいに特別な力もないから、助けてあげられなかったね。…せめて、私がやるべき事をするね…」

リトは、ダガースの頭を撫でる。


『太陽に守られしオーラ…』


時の女王の攻撃が、激しさを増す。しかし、リトは顔色を変えずに、円陣に向かって歩き出す。


『神の力が通じぬならば…』


水晶の光りが、赤色に変わってくる。リトは、その光景を見て、立ち止まる。


『時の姿を見せましょう…』


目の前に現われる女性の姿。背中には、天使の証たる翼を持ち、容姿は、美の象徴とも呼べる程の美麗な姿をしている。


『現格層に姿を見せる事になろうとは…しかし、これで、太陽の意思を葬る事が出来ます…』


「…」

リトは、動じない。それどころか、円陣に向かって歩き出す。時の女王は、そんなリトの行動に腹を立てたのか、リトの目の前に降り立つ。2人の目が合う。

「どきなさい」

リトは、怯む事なく言う。時の女王は、何も言わずに手を上にかざす。すると、一瞬、光りが迸り、その手には、重々しい剣が握られた。


『終末の始まりです…』


声と同時に、地響きが起きる。バランスを崩したリトは、床に手を付く。


『始まりの為に、終わりにしましょう…』


時の女王の一撃が、リトを襲う。

「時の女王!」

剣が振り下ろされた瞬間に、声と同時に届く、弓矢。

「ハインズ!」

声の方向には、次の矢を構えて、立っているハインズがいた。

「リト様!今、お助け致します!」

ハインズの放つ矢は、燃え盛る太陽の様に炎を帯びている。


『太陽の使い人か…』


時の女王は、燃え盛る矢を、片手でねじ伏せる。

「ちっ!」

ハインズは、剣を抜き、接近戦に持ち込もうとする。

「来ちゃダメ!」

リトは、ハインズを制する。しかし、動き出した勢いは、止まらずに、ハインズは、部屋の中へと、なだれ込んだ。


『神獣と同じ運命を辿りなさい…』


ハインズの動きが止まる。

「ハインズ!」

リトは、ハインズの元へと駆け寄る。完全に硬直したハインズを揺さぶるが、全く動かない。


『さぁ、太陽の使い人…冥界に帰りなさい…』


時の女王は、ハインズの後ろに現れて、剣を振り下ろす。ハインズの体が、ぼんやりした光を帯びながら、薄れていく。

「ハインズ!」

リトは、何も出来ない自分に怒りすら覚える。消えていくハインズが、一瞬、笑った様にも見えた。

「…」

呆然と立ち尽くすリトの前に、剣を構えた、時の女王が見下す様にリトを見詰めている。


『さぁ…次はありません…』


またもや、地震が襲ってくる。バランスを崩すリト。そして、剣が振り下ろされようとした瞬間。


ガラスが砕け散る音―


「ガルゥ♪」

「お…お兄様!…マーズ!?」

クレス一行の到着だ。リトは、ユニコーンの背中で、布の様にかかっているマーズとヤーヴェを、すぐに発見する。

「2人とも無事だ。君は大丈夫か?」

クレスの声は、冷静に落ち着いている。リトは頷くが、ダガースの方を見る。

「大丈夫だ。ダガースは、そんな事では、死んだりしない」

クレスは、時の女王を見る。

「今までの化け物とは違う様だな」


『また、下等生物…』


時の女王は、身を翻して、クレス達の前に到達する。

「ガルッΣ( ̄∇ ̄ノ)ノ」

ユニコーンは、慌てて逃げる。

逃げた所に現われる時の女王。

「なっ!?ユニコーンのスピードに付いてくるとは―!」

ユニコーンは、すかさず移動する。


『無駄だ…』


時の女王は、ユニコーンの後ろをとり、一気に剣を振り下ろす。

「ガルゥ!」

ユニコーンは、間一髪避けるが、すぐに後ろを取られてしまう。

「このままじゃ、いつか、やられる…!」

クレスは、作戦を考える。

「時の女王、もう、やめて!!」

リトは、叫ぶ。その声は届かない。

「…そうか!」

クレスは、マーズを放り投げる。

「化け物!人間をなめるなよ!!ユニコーン、動きまくれっ!」

クレスは、ランチャー砲を取り出し、一気に攻撃する。勿論、時の女王には効かない。しかし、クレスは撃ちまくる。

「もう少しだ…!」

ランチャーの砲弾は、時の女王には効かないが、確実に煙幕を残していく。


『視界を遮ったつもりか…?』


時の女王は、手を上に掲げる。すると、煙幕が手に吸い込まれていく。


『―!』


時の女王の瞳に映るのは、円陣の中にいる、リトとヤーヴェの姿だった。

「さぁ、円陣を叩くか我々を叩くか…?どちらにしても、お前の思う様には、行かないぞ」


『…浅はかな…』


「気を付けて下さい!また、時を止めるつもりです!」

「それで、ダガースは…」

クレスは、ランチャーを構える。


『遅い…』


クレスとユニコーンの動きが止まる。

「あ…」

リトは、成す術が無い事を痛感する。わかっていたのに、どうする事も出来ない。


『まずは、人間から…』


「ま…て…」

剣をかざす時の女王を止める声。

「お兄様!?」

ヤーヴェが意識を取り戻して、何とか立ち上がる。

「人間は、確かに愚かだ…そして、地上を導くのには小さ過ぎたかもしれない…だが、地球の先を憂いている者もいる…今少しだけ…待てないか…?」

ヤーヴェは、足の力が抜けて、膝を付く。


『太陽の力よ…人間にエデンを委ねて、長い時間が経ちました…しかし、人間は争い、人間の繁栄の為にエデンを汚し、人間の欲望の為に、時は刻まれて来ました…止めなくてはいけません…』


「でも、このままでは、罪のない動物達まで消滅するわ!」

リトは、ヤーヴェに加勢する。


『他の動物も同様です…人間との共存で、動物本来の連鎖が崩れた今、地上に混乱を引き起こす存在でしかありません…』


「地上から、全てを奪おうと言うのか」

ヤーヴェから、炎が踊り出す。

「リト、神格界へ行くのだ」

円陣が光り出す。

「うん。私は、私の使命を果たします」

リトは、マーズの方をチラッと見てから、祈りを始める。


『愚かな下等生物達よ…終末の名の元に消えるがよい…』


時の女王は、剣を振り下ろす。クレスの体から、血渋きがあがる。

「くそっ…ハァァ!」

ヤーヴェは、炎を放出する。勿論、時の女王には、全く効かない。

「ガルゥ!」

ユニコーンは、クレスを引っ張る。


『お前も時に逆らうのか…』


ユニコーンに向かって、無数の光の矢が解き放たれる。

「ガルッ!」

ユニコーンの体に刺さる光の矢は、どんどん食い込んでいく。それでも、ユニコーンは、クレスをかばいながら、安全な場所まで、引きずろうとする。

「非道な…!」

ヤーヴェの怒りが頂点に達する。炎は、巨大な二頭を持つ竜に変わる。

「燃やし尽くせ!」

ヤーヴェが振り下ろす腕を合図に、竜が時の女王に襲いかかる。


『太陽を統べる者なら、いざ知らず、お前ごときの竜など聞かぬ…』


時の女王から、オーラが発せられる。炎の竜は、オーラにぶつかり、蒸発していく。

「まだ、負けた訳ではない!」

ヤーヴェは、自ら時の女王に飛び込む。握った剣は、炎が噴き出す。


『無駄です…』


時の女王の瞳が、赤く光る。ヤーヴェの動きが止まり、血を吐き出す。

「な…に…!?」

状況が理解出来ないまま、倒れるヤーヴェ。

「負け…ない…」

ヤーヴェは、必死に立ち上がろうとするが、体が言う事を効かない。

「リトちゃんの兄ちゃん、交代するぜ?」

不意に聞こえる声に、ヤーヴェは振り向く。マーズだ。

「ババァの相手は、好きじゃねぇが、こんだけカマしてくれたら、お返ししなくちゃなんねぇしな」

マーズは、ダガースとクレスを交互に見て、最後にリトを見る。

「…奴は強い…ぞ…?」

ヤーヴェは、必死に痛みを堪えながら話す。

「安心しろ。今の俺は、マジで強ぇから」

マーズは、親指を立てる。その姿を見て、安心したのか崩れ落ちる。リトは、完全に集中している様で、気が付かない。


『下等生物…まだ、いたとは…』


時の女王は、一気に間合いを詰める。

「あめぇよ?」

マーズは、剣を振るう。時の女王の剣は、見事に止められた。


『!…』


さすがに驚きを隠せない様だ。

「さぁ?ババァ、第2ラウンド開始だ」

マーズは、ニヤリと笑う。


「…」


「ちなみに、時を止めても無駄だぜ。試しにやってみたらどうだ?」

中指をクイクイと立てて、挑発するマーズ。


『下等生物にも劣るクズめ…』


時の女王の長い髪が、逆立つ。


『度重なる無礼…死すらぬるい…!』


巨大な光の球が、両手から放たれる。

「光りの球しか、能がねぇのか?」

マーズは、光の球を両手で受け止める。

「ハァァァァァ…!!!」

光が、どんどん吸収されていく。


『…!?』


「生憎だったなぁ。光と言えば、避雷針だろ?」

マーズの立つ足元で、光が燻る。

「今度は、俺の番か?」

マーズは、パチンと指を鳴らす。足元の光が、床を伝って、時の女王の元で噴き出す。


『ぬぅぅ…!』


時の女王の顔が、一瞬、歪む。

「どうだ?自分の光の威力は?」


『おのれ…』


時の女王は、気合いで光を弾く。その顔は、怒りに満ち溢れている。


『お前の時も止める…!』


「!?」

マーズの動きが止まる。


『所詮、人間ごときには、私には勝てない…』


「確かに人間じゃ、辛いわな」


『な…!?』


マーズは、頭を掻きながら言う。

「言っただろ?時を止めても無駄だ―と」

マーズは、ニヤリと笑みをこぼす。


『何故だ…?』


「簡単な事さ。時間の流れにいないだけさ」


『何者だ…?』


「…マーズだ」

マーズは、ヤーヴェの剣を手に取る。そして、リトの方を見る。リトは、周りの声も聞こえない位に集中している。

「さぁて、リトちゃんも集中している事だし、始めるとするかぁ?」

マーズは、剣を構える。




〜時の理〜




「エイシスよ。光が通じぬ相手は、歯がゆいかな?」

クフには、余裕すら感じる。

「…」

「言葉も出ないか。まぁ、無理もない。お前の必殺の一撃が通じないのだからな。所詮、人間の体を借りた程度の力じゃ、無駄なあがきと言った所か」

クフは、見下げて話す。

「…」

エイシスは、剣を高く掲げる。

「?」

そして、ユックリと下に下ろす。

「―!?ぐわぁっ!」

クフの左腕が、ちぎれる。

「相変わらず、よく喋るヤツだな。私の必殺の一撃が光?笑わせるな。忘れたなら、思い出させてやろう。必殺の一撃を」

エイシスは、槍を地面に突き刺して、高く跳ぶ。クフは、闇を貼り込める。

「何度、何をしても無駄だぁ!」

エイシスが黄金に輝き始める。

「このクフの闇に、勝る光はないっ!」

闇が漆黒へと変わる。

「…。最後に一つだけ教えてやろう。光とは闇が強ければ強い程、その輝きの存在感が増す―という事を。そして、光が当たる黄金は、闇の中にあっても輝く!」

エイシスが急降下してくる。そのスピードは、今までのスピードとは比較にならない。

「おのれ…!」

クフも反撃に出る。

「受けるがよい!黄金の太刀!」

地面に刺さる槍が輝き、一筋の光が、黄金色に光るエイシスの剣にぶつかる。

「なっ…!?」

その輝きは、クフの闇すらも照らし出す。

「ば…馬鹿な…!」

クフの剣が、砂の様に崩れていく。

「さらばだ。地上で最後だった人間―クフよ」

エイシスの剣が、横一文字に走る。クフは、ただエイシスを見ながら、呆然としている。そして、黄金色に包まれながら消滅していく。程無くして、エイシスは、地上に降り立った。

「終わった…。後は、任せたぞ」

エイシスは、刹那の光と共に消える。そこには、ドルシェの姿があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ